第41話
「試合――開始ッ!」
エレオノーラが試合開始の声を上げると同時、俺は二重起動を使うことにした。
発動させるのは付与魔術の身体強化と集中強化。
とにかくこちら側のスペックを上げないことには、ただ蹂躙されて終わりだ。
早速攻撃が来るかと思い防御姿勢を取りながら思いっきりバックステップで後ろに下がる。
けれど予想外なことに、俺が大きく下がってもレオニスさんはじっとこちらを見つめるだけで一歩もその場から動いていなかった。
「ほう……多重起動か。オニキスの馬鹿を思い出すな」
今回は模擬戦ではあるけれど、あくまで俺がどれくらいできるかどうかを見るためのもの。
俺の実力をしっかりと見極めるためか、レオニスさんはある程度こちらに合わせてくれるつもりのようだ。
(『魔導王』オニキス……流石『剣神』、出てくる名前もビッグネームだ)
レオニスさんは以前まだ王国の騎士になる前、各地を放浪しながら強者を探す旅に出ていたという。
彼が経験してきた様々な出会いや別れ、そして数々の激闘は『レオニス・サーガ』というタイトルで一大叙事詩として本にまでなっている。
ちなみに俺も読んだことがあるので、俺からするとレオニスさんという存在は文字通り、物語の中の人だったりする。
「――行きますッ!」
ホルダーを使い、既にステータスは俊敏特化に調整していた。
行ける伝説であるレオニスさんと真っ向から接近戦をするというのはあまりにも悪手。
なのでディスパイルと戦った時同様、とにかく手数と速度を武器に戦っていくしかない。
そのまま二重起動を使い発動させるのは火魔術と氷魔術を組み合わせて放つことができる、氷と炎の竜巻――そう、ディスパイルが使っていたあの技だ。
「ほう、複合魔法……いや魔術か」
練習の結果、俺はあいつが使っていたこの魔術――ブリザードフレイムを使うことができるようになっていた。
なんと言っても一度見たことがあったから、イメージがしやすかったので、習得までにさほど時間はかからなかった。
素人考えだと氷と炎がぶつかり合って溶けたり温度が下がったりしそうな気がするけれど、そこは流石ファンタジー。
氷と炎は絡み合いながらも互いに独立しており、相手を冷やし同時に燃やすことができる。
魔法を放ってから、俺は間断なくどんどんと次々と魔法を放ってゆく。
今の俺が魔術を組み合わせるのにはいささか時間がかかる。
ある程度使い慣れている火災旋風を除くと、ぶっちゃけ単独の魔術を二重起動で倍使った方が与えられるダメージ量は多い。
(ウィンドバースト! ウィンドストーム! テンペストタイフーン!)
俺が一番得意なのは風属性なので、とにかく風魔法に魔術を織り交ぜるような形で乱打していく。
二重起動を使ったり、互い違いに発動させたり、とにかく一番高速で魔法を飛ばせるよう威力よりも速度重視だ。
出が早い技を中心にしつつ、それだけだとダメージを与えられないので二重起動を使って片方で出の早い魔法を放ち、もう片方である程度溜めを作って魔術を放っていく形で、色々と組み合わせながらとにかく手数を意識する。
使っているのが風属性なこともあり、ものすごい勢いで砂煙が舞っていて視界はめちゃくちゃ悪い。
身体強化で視力も上がっているはずだけど、こちらからだとレオニスさんがどうなっているのかまったく確認することができない状態だ。
ただ万物知覚を使い確認している感じ、一箇所に留まったまま攻撃を受け続けているようだ。
反応が弱くなっている様子もないので、まったくダメージは通っていないらしい。
風の魔術を何発も当ててノーダメージって……こんな化け物相手に、どう戦えばいいんだよ!
続いて魔法を放とうとしたタイミングで、とうとうレオニスさんの方が動き出した。
何をされるのか戦々恐々としながら、とにかく何があっても動けるように攻撃の手を緩めて回避に専念できる体勢を整える。
万物知覚は相手のおよその距離や魔力反応を把握できるスキルだ。
故に俺は牽制をしながら見に徹し続ける。
突如として生じた、魔力の爆発的な高まり。
何かが――来るっ!
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主人公を煽り散らかす糸目の悪役貴族に転生したんやけど、どないしたらええと思う? ~かませ犬なんてまっぴらごめんなエセ関西弁は、真っ向勝負で主人公を叩き潰すようです~
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