第30話
「これが王都かぁ……」
アトキン王国の王都アトグリス。
ジェンやギバルの街に負けないほどに大きな街に、思わず圧倒されてしまいそうになる。
通用門の前にはかなり人が並んでいたが、ミラが家紋を見せると衛兵の人達に連れられて列を抜かして中に入ることができた。
貴族家の人間が乗っているとわかり、頭を下げている人達もいた。
自分も貴族家の人間だからつい忘れそうになるけど、貴族と平民との間の隔たりってかなり大きいんだよなぁ。
「……」
「何よ、私の顔に何かついてる?」
「いや、上級貴族って偉いんだなぁと思って」
「……貴族なんて、ただ偉いだけよ。それより行きましょ」
ミラは御者に何かを言うと、馬車を走らせ始めた。
そして一旦宿屋を取って、休憩を取ることにした。
「ミラは実家には戻らないの?」
「――戻らないわ。結果も出さずに戻ったら、現実に打ちひしがれて帰ってきたみたいで嫌だもの」
ここから先は徒歩で行こうということになり。
エイラとマリアはここでお留守番ということになった。
事前に話をしてあったからか、彼女達からも文句は出ない。
「じゃあ、行くわよ」
ミラに先導してもらいながら歩いていく。
王都は貴族街と平民街という形で、居住区画が二つに分かれている。
平民街はかなりギチギチで人の数も多かったが、検問を抜けて貴族街に入ってからは、人通りもずいぶんとまばらだ(ちなみに冒険者を貴族街に連れて行くのはずいぶん渋られたが、俺がプレートを見せると一発で入れた)。
「マルト……あなた、貴族だったの?」
「一応、男爵家の三男坊だよ。まぁでも、今はただの冒険者のマルトさ。ミラだってそうでしょ?」
「それは……その通りね」
馬車を使わずに歩いている俺達の方が目立つほどだった。
というか……やっぱり治してほしい人って貴族だったんだね。
ミラの感じからなんとなく想像はついてたけど……。
けれど、事実は小説よりも奇なり。
ミラの頼みは、俺の想像の斜め上を行くことになる。
俺が連れて行かれた先は――貴族街でも更に奥にある一等地、そこにででんと鎮座している王城だったのだ。
当然ながら、俺は一度も王城に入ったことなんてない。
まず外苑部でボディチェックを受け、水堀になっている王城の中へそこから跳ね橋を使って中に入っていく。
中に入ると、そこでももう一度ボディチェックをされた。
どうやらこっちが本命のようで、口の中からパンツの中まで、何一つ見逃してなるものかという厳格なボディチェックをされた。
侍女らしき綺麗な女性にくまなく見つめられたので、いけない性癖に目覚めてしまいそうだ。
とまぁ冗談は置いておいて。
俺は騎士に先導されながら先へ進んでいく。
(……ん? なんだこれ……)
念のために万物知覚を使っていると、妙な違和感を感じた。
今通り過ぎた部屋の中に、妙に光量が強い反応があった。
王城の中だから護衛のためにも強い人がいるのは当然だとは思うんだけど、なんだか光が強いだけではなかったような……
「……どうかしたの?」
「いや、なんでもない」
気のせいだろうと思い、先へ進む。
今はそんなよくわからないことに気を取られている場合じゃない。
だって多分これから……王族を治さなくちゃいけないんだろうからね。
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