第31話


 最後にメイドさんからのボディチェックを受ける。

 そして俺はここでようやく、ミラから今回魔法を使う相手についての説明を受けることができた。


「マルトに魔法を使ってほしいのは――この国の第一王女であるエレオノーラ様よ」


「流石の俺でも、名前を聞いたことあるくらいの有名人じゃないか!」


 言い方がマズかったのか、メイドさんにキッと睨まれた。

 す、すいません……と謝りながら頭の中の記憶を掘り起こしていく。


 アトキン王国第一王女エレオノーラ。

 たしか現在では第一王位継承権を持つとされている、次期女王の少女だ。


 彼女は小さな頃から公的な場所に出ることが多かったため人目に触れる機会も他の王族と比べると多く、その愛くるしさから王国の民にマスコット的な感じで親しまれていたはず。


「エリィはここ最近どうにも体調が思わしくないらしくてね。色んな光魔導師に診てもらったんだけど、一向に治る気配がなかったらしいの」


「あのバンビィ先生に診てもらってもダメだったのです、今更こんな少年に頼んでも……」


 そう口にするのは、真面目そうな顔をしたメイドさんだった。

 どうやらエレオノーラ様の専属侍女らしい。

 かなりの美人さんだとは思うのだが、ここ最近はずっと付き添って看病をしているからか、その顔にはどこか影が差しているように見える。


「シェリル、そう言わないで。今回ばかりは、私を信じてくれないかしら?」


「……ミラ様のことを疑っているわけではないのです。どうせ打つ手なしと皆から匙を投げられたのですし……ダメで元々と思うことにします」


 シェリルと呼ばれているメイドさんとミラが話をしている間に考える。

 今までエレオノーラ様の容態を確認するために、何人もの光魔導師がこの場所へ訪れたという。

 わざわざ王女を治すために派遣されてきたというのだから、皆かなりの凄腕のはずだ。

 彼らが治すことができていないとなるとかなりの難病に違いない。


「シェリルさん、いくつか質問をしてもいいでしょうか?」


「……ええ、私に答えられる質問であれば」


 エレオノーラ様はたしか俺とそう変わらない年齢だったはずだ。

 そしてその笑顔はひまわりのようにかわいらしいという話を耳にしたことがある。


 そんな未婚の女性の寝室に俺のような若い男の子が入るのだから警戒するのも当然だ。

 前世と合わせると精神年齢は四十超えてるんだけどな……と思いながら質問をしていく。


 今までの光魔導師がどのように魔法を使いそれが失敗したのかが、シェリルさんの口から語られていく。


 光魔法を使えば体調は少しの間好転するらしいのだが、数分もするとすぐに元に戻ってしまうらしい。

 魔法を使われると回復させた体力以上に疲れてしまい、おまけに痛みも襲ってくるらしく、あまり積極的には使わないようにしているんだとか。


 体調が悪くなる前と後で、外的な変化は一切ないらしい。

 ただただ体力だけが日増しに削られていき、日中に活動できる時間はどんどんと短くなっているということだった。


 王家のお抱え医師の見立てでは、もって三ヶ月だという話だった。

 その診察を下されたのが今より半月ほど前であることを考えると、いつどうなるかがわからない、予断を許さない状況なのは間違いない。



 シェリルさんの記憶は非常に細かく細かい魔法の一回の使用にわたるまで、細部に至るまでしっかりと記憶していた。


 シェリルさんは別に、治療の専門家でもなんでもないはずだ。

 けれどここまでしっかりと覚え込んでいるということは……つまりそれだけエレオノーラ姫のことを大切にしているということでもある。


「エレオノーラ様のことを、大切に思ってらっしゃるのですね……」


「……おっしゃる通りです。……先ほどは失礼致しました、マルト様。どうもここ最近、精神がささくれだっておりまして……王女の専属侍女として失格です」


 どうか……姫様を治してください。

 ぽつりと呟かれたその言葉に、一瞬どう答えるか迷う。

 俺に治せるかどうかはわからないけれど……全力は出させてもらうつもりだ。


 なので目を見つめ、しっかりと頷いておく。


「微力を尽くします」


「……お願い致します」


 俺はシェリルさんに先導されながら、ミラと一緒にドアをくぐる。

 その先にあるのは、前世でも見たことのないような、幻想的な天蓋付きのベッド。

 そして近付ていくとそこには……病に伏してなお陰ることのない美しさを持つ、エレオノーラ様の寝姿があった――。







(彼女が……エレオノーラ姫)


 ふわふわのベッドの中で眠っているのは、深窓のという形容詞が非常に似合う真っ白なお姫様の姿だった。


 顔のパーツは恐ろしいほどに左右対称で、それぞれが理想的な位置に収まっている。


 金色の髪は毎日丁寧に梳かれているためか、きらりと美しい光沢を放っていた。

 血管が浮き出るほどの雪のような肌は透明感がすごく、白色の肌着と非常にマッチしているように見える。

 長いまつげはふるふると小さく震えている。


 眠り姫という表現が相応しく思えるエレオノーラ様は、眉間にわずかにしわを寄せながら浅い呼吸を繰り返していた。


 さっそく診察に移らせてもらう。

 まず使うのは上位鑑定だ。


 鑑定の上位スキルである上位鑑定は、本人の持つスキルだけではなくその肉体の状態を表示することができるようになった。

 こいつを使えば、ある程度の健康状態や所持スキルを見ることが判断できる。


 状態異常がある場合それを読み取ることもできるはずだから、不調の原因が何かはこれを使えば一発でわかるはずだ。




エレオノーラ・フォン・アトキン


状態異常 寄生


レベル4


攻撃E

防御D

魔攻A

魔防A

俊敏E


王剣エクスカリバー レベル0(使用不可)

火魔法 レベル1

水魔法 レベル5

土魔法 レベル3

炎魔導師 レベル1

魔力回復 レベル8

立体知覚 レベル2

処理能力増大 レベル4

体力回復 レベル6

全耐性 レベル7



 ……すごいステータスだ。

 魔攻と魔防がA……まともに鑑定が通った人の中では、少なくとも今まで見た中で一番高い。

 それに俺が知らないスキルがいくつもある……レベル0っていう表記も初めて見たし。


 けどやっぱり一番気になるのは……


(寄生の状態異常……?)

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