第32話


 この世界の状態異常は結構範囲が広く、わりとガバガバだ。

 たとえばどんな病気にかかっていた場合でも病気で体調が悪い場合は病気の状態異常として表示されるし、動物由来の毒だろうが魔法毒だろうが毒の状態異常として出る。


 ただ寄生という状態異常を見たのは初めてだ。

 となると不調の原因は寄生虫か何かになるわけか……?

 この世界だから、寄生してる魔物やなんらかのスキルで寄生している人間なんて線も考えられる。

 なんにせよ中に何かがいるのは間違いない。


 だとすると光魔法で治せなかったのも理解できる。

 元々が病気ではないんだから、光魔法を使っても意味はない。

 痛みを伴っていたって言っていたし、多分寄生虫を回復させて活発化させてしまっていたのだろう。


 状態異常は特定できた。

 それなら次は、寄生しているものの正体を看破しなくちゃいけない。


 鑑定を止めてから、万物知覚のスキルを発動させる。

 生体感知と魔力感知を合わせたこの上位スキルは、ただ強さと魔力量を感知するだけの力ではなくなっていた。


 より詳細な魔力の動き……たとえば魔法を発動する際の魔力の動きや、魔道具が使われた際の魔力の流れといったものをしっかりと知覚することができるようになったのだ。

 恐らくこれが、役に立つはず……。


 出力を調整し、極めて低出力の光魔法を発動させる。

 万物知覚を使い、エレオノーラ姫の体内の魔力の観察に意識を集中させた。

 すると……


(――腹に魔力が吸い込まれてる?)


 循環していた光魔法が、腹部を通る度に弱まっていき、そして霧散していった。

 その原因がなんなのか、何度も何度も万物知覚を使い続けて解明していく。


 だが何度万物知覚を使っても、なかなか反応が現れない。


 けれど根気勝負なら得意だ。

 不撓不屈を持っている今の俺なら、何時間だろうがぶっ続けで集中することだってできる。


 少しやり方を変えてみよう。

 万物知覚は脳内に浮かぶ光点として、魔力を捉えるものだ。


 けれどこれを視覚とリンクさせる。

 付与魔法によって視力を強化してから、万物知覚と組み合わせて使う。

 そうだな、イメージはサーモグラフィーのような感じで……。


 すると脳内の光点と目の前の魔力反応が一つに合体し、新たに魔力量ごとに色分けされた形で、視覚を使って万物知覚を使用することができるようになった。


 これで魔力の多寡が判断できるようになった。

 あとはこの新たな力を使って確認して、魔力量が不自然なところを探せば良いだけだ。


 じっとしたまま、目を凝らす。


 食道から胃、腸へと視線を移していくと……見えた!


 大腸の辺りに、何かがいる。

 とても微弱な魔力反応が、体内から発されているのがわかった。

 多分これが、エレオノーラ様の中に寄生している何かなのだろう。


 更に意識を集中させる。


 これは……なんだろうか。

 細長い芋虫のような化け物が、棲み着いている。

 寄生虫というにはサイズが大きめだ。


 だがその魔力反応は非常に微弱。

 恐らくこれだけ弱い魔力反応故に、他の光魔導師達の探査スキルをくぐり抜けてきたのだろう。


 もう一度、今度は物質魔法を使って魔力ところてんを生み出し、エレオノーラ様の腹部に置いてみる。

 すると魔力ところてんは変わらず腹部に置かれたままだった。


 どうやら内外から無差別に魔力を吸い取るわけではなく、あくまでもエレオノーラ様の中にある魔力だけを吸い取るらしい。


「――マルト、何かわかったのね?」

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