第36話
「王城には魔道具がいくつも用意されている! 遠慮せずにぶちかまして構わない!」
男は俺の方へそう叫ぶと、そのままディスパイルの方へと向かっていく。
彼の背中側からいくつもの魔法が飛び、ディスパイルへと襲いかかるのも見えた。
どうやらようやく王国騎士団達もようやくここにやってきたようだ。
それに忠告もありがたい。
これで心置きなく……やれる!
必殺の一撃を放つための溜めの時間を作るため、俺は精神集中に入ることにした。
「ええいっクソ……団長さえいてくれたら!」
王国最強の男、荒鷲騎士団の団長である『剣神』レオニス。
どうやら今ディスパイルと剣を交えている男は、彼の部下らしい。
純粋な剣の腕なら俺はディスパイルよりも上だろうが、彼は剣を振りながら魔法を使ったり、武技の二重起動もできないようだった。
そのせいで手数の多いディスパイル相手に防戦を強いられている。
見ると後ろにいる騎士達も援護に徹するだけで、決して近寄ろうとはしていなかった。
歯がみしている彼らは、どうやらこちらの戦いに混じることができないことを悔しく思っているらしかった。
その間に俺はもしもの時のために用意していた、必殺の一撃を放つための用意を調えていく。
俺が現在放つことのできる最強の魔法。
その鍵となるのは物質魔法だ。
俺は魔力ところてんが出せるようになってから長いこと、スキルポットに魔力を充填する以外でその活用方法を見いだせないでいた。
しかしある時ふとした思いつきから試してみたところ、俺はようやくこの魔法の真の価値に気付くことができたのだ。
魔力ところてんこと物質魔法の本質は、魔力を固形化させることができることにある。
つまるところこいつは魔法のための燃料のような形で使うことができるのだ。
二重起動を行うことができるようになったことで、俺は物質魔法を使いながらそれに同時に属性を付与させることができるようになった。
俺は騎士達が奮戦してくれている間に、どんどん属性を持つ魔力ところてんを生み出していく。
火・水・風・土・光・闇・氷・雷の八属性の魔力ところてんを生み出しては、風魔法を使って攪拌していく。
魔力ところてんを混ぜ合わせて作る魔力塊による威力の増強は、なぜかこの八つの魔力ところてんを均等に混ぜた場合に最も効率が良くなる。
10セット、20セット、30セット……大量の魔力ところてんをかき混ぜまくることで、既に俺の足下にある魔力塊は俺の膝丈ほどの大きさになっていた。
一撃であいつを倒せるだけの威力……となると少々心許ない。
50セットほど行い久しく感じていなかった魔力欠乏症の気配を感じながら、魔力塊をアイテムボックスにしまう。
そしてここから、現在の俺が最も高威力で放つことのできる風魔術の準備を整える。
今現在俺が放つことのできる最強の風魔法――耐えれるものなら、耐えてみやがれっ!
俺はその瞬間、風になった。
発動させたのは、己の身に風を纏わせる風魔術であるシルフィード。
こいつを纏った状態で力を解放させることで、周囲に風魔法による爆発を起こす魔術だ。
通常は自爆覚悟で決死戦術に使うことが多いため、以前は禁術指定されていたこともあるう魔法である。
シルフィードを使用したことで、既にこの速度は俺自身でも完全に制御できないほどの速度に上がっている。
俺はそのままの勢いでディスパイルの下へと飛んでいった。
そして既に満身創痍の騎士達を殺そうとしているディスパイルに体当たりを敢行し、そして……そのまま王城を突き破り、上空へと飛び上がっていった。
「おおおおおおおおおおおおっっ!!」
「なっ……なんだこれはっ!?」
ディスパイルは手に持っている骨剣をこちらにぶつけながら、同時に魔法を発動させる。
けれど身に纏う風がその攻撃を防いでくれる。
中には風を通り抜けて傷をつけてくるものもあったが、歯を食いしばりながら我慢する。
致命傷を負っても即座に光魔法を使い誤魔化しながらぐんぐんと高度を上げていき……アイテムボックスから魔力塊を取り出した。
そして同時に、シルフィードの魔法を解放する。
起こるのは、辺り一帯に撒き散らされる風の爆発。
だがそれで終わらない。
「風の精よ!」
俺は同時に精霊魔法を発動させた。
風の精霊達に頼むのは、風の指向性の誘導だ。
本来であれば全方位に拡散する風を、ディスパイル一方へと叩きつけるように変更してもらう。
「食らい……やがれっ!」
自爆特攻として使われるほどの威力を持つシルフィードを、魔力塊を取り込ませて威力を最大化させ、更に風の精霊魔法を使って衝撃を全て一方にぶつける。
これこそが今の俺が放てる最大最強の一撃。
耐えれるものなら――耐えてみやがれっ!
「ぐぅおおおおおおおお!! このディスパイルが……こんなところでええええええええっっ!!」
瞬間、空気が弾ける。
そして荒れ狂う爆発が、王都の空を激しく揺らした。
俺は時空魔術のバリアを張りなんとか至近距離での爆発を耐えながら……そのまま意識を失ったのだった――。
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