第35話


「ファイアコントロール……ゲホッ、ゲホッ」


 火魔術を使い、全身を襲う炎を吹き飛ばす。

 むせながら炎から脱出すると、そこには傷一つないディスパイルの姿があった。


(さっきの一撃は……光属性のバリアのような物理障壁。となるとバリアを突破できるくらいの高威力の一撃を当てる必要があるな)


「飛斬!」


 武技を使い斬撃を飛ばすが、それもディスパイルに当たる直前で弾かれた。

 どうやら全身をバリアか何かで覆っているのは間違いないらしい。

 一撃を防いだところから考えると、強度もそこそこありそうだ。


「次はこちらからいかせてもらうっ!」


 ディスパイルは頭に生えている角に手をかけ、それをそのまま引き抜く。

 すると角、黒い骨剣へと姿を変える。


 やってくる一撃を、受け止める――ぐっ、重っ!?


「ほう……俺の一撃を食らっても壊れぬとは」


 一撃打ち合っただけで、腕にしびれが走る。

 これは……まともにやり合うのは無理だな。

 受け止めるのではなく避ける形に切り替えていくことにした。


 攻撃を避け、隙間にカウンターを挟んでいく。

 三発ほど攻撃を当てると、障壁がパリンと音を立てて割れていった。


「――ちいっ、ちょこまかとっ!」


 本来であれば俺とディスパイルの速度はほとんど同等だが、今は俺の方が圧倒的に速度が速い。

 ディスパイルが一撃を放つ間にこちらは二撃を放ち、決して攻撃のターンを相手に渡さない。


 そう、俺がホルダーを使って強化したのは――俊敏だ。

 本当なら魔法攻撃力に全ブッパして遠距離から魔法を使い続けてもいいんだが……流石に王城で高威力の魔法をバカスカ打ちまくるわけにもいかない。


「ギイイヤアアアアアッッ!!」


「キシャアアアアアアッッ!!」


 戦っているうちにいくつかわかったことがある。

 まず一つ目、あの肩に生えている口はそれぞれが魔法詠唱を行うことができるということ。


 つまりディスパイルは大して苦労することなく、三重起動までを同時に行うことができる。

 相手が放ってきたのは、氷と炎という相反する二つの魔法。

 渦を巻きながら、周囲を燃やし凍らせながらこちらに直進してくる。


 既に馬車の中で、二重起動のコツは掴んでる。

 中級火魔法であるニアデルソルと中級風魔法であるウィンドブラストを同時に使うことで

それを迎え撃った。


 炎と炎がぶつかり合い、氷を強風が削り取っていく。

 魔法が消えると、再び剣が交差する。

 接近戦の応酬であれば、こちらの方に分がある。


 相手も攻撃をしながら両肩で二重起動ができるが……剣を振りながら二重起動ができるのは何もお前だけじゃないぜっ!


「強撃(インパクト)」


 相手の障壁は強い衝撃に弱いことがわかる。

 しっかりと真ん中に強撃を当てることができれば、一撃で剥がすことができる。

 剥がせたらそこに、斬撃特化の武技である武断(ブレイク)を二重で重ねて使用する。


 相手に傷ができるが、浅い。

 すかさず飛んでくる二重詠唱による魔法の迎撃。

 中級火魔法であるニアデルソルを発動させることでそれをかき消した。


 破った障壁の間を縫うように更に距離を詰め、剣豪になったことで新たに習得した武技を使っていく。


「極断(アルテマブレイク)」


 極断は簡単に言えば、武断を強力にした武技である。

 斬撃に特化した技であるにもかかわらず一撃の威力が高く、その代わりにクールタイムがあり連続して使うことができない。


「ぐううっっ!?」


 基本的に武技であっても傷をつけることのできないディスパイルであっても、極断を使えばしっかりとダメージを通すことができる。


 手数重視のディスパイルは、俺にとって非常に相性の良い敵と言えた。


 相手の強みは近接戦を行ったり魔法を使いながら、同時に両肩の口を使って更に魔法を使い手数を増やすことができるところにある。


 今の俺は三重詠唱こそできないものの、剣を振りながらの二重起動は問題なくできる。


 なので近接戦+二重起動で相手と同じ土俵に立ってしまえば、俊敏のステータス差によって形勢は自然とこちらに有利になってくる。


 そこに極断をしっかりと挟み込みダメージを蓄積させていけば、ディスパイルは為す術がない状態になっていた。


「ぐううっっ!! 女神の使徒ごときに、この俺が――」


 俺の攻撃を避けるために角度をつけて大きく回避したディスパイルの身体が、何かに叩きつけられたかのように吹っ飛んでいく。


 白壁が壊れ、煙が舞う。

 ほっとゆっくり息を吐きながら、呼吸を整える。


 ディスパイルの人型にくりぬかれた壁の前には、一人の男が立っていた。

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