第4話
「ふんふん、ふふっふーん」
今日の俺はご機嫌だった。
――とうとう今日、タフネスのスキルポットが満タンになるのだ!
いやぁ長かった、まさかスキルを一つ手に入れるのに二ヶ月近くかかるとは……魔法の練習と並行してたからね、しょうがないね。
あ、ちなみに俺の魔力量はこの二ヶ月の間に着実に増えている。
どうやら魔力をギリギリまで使うことで、微量ではあるが総魔力量は増大する仕組みになっているらしい。
おかげで今では、魔力が満タンの状態なら魔力ところてんを10個は出せるようになった。
二ヶ月もやると魔力操作のコツも掴めてきているため、最近はところてんを出さずに直にスキルポットに魔力をチャージすることもできるようになった。
ところてんを出すのって地味に集中力が要るから、こっちの方が楽なんだよな。
ただフェリスと一緒に魔法の特訓をしているため、スキルポットに魔力をチャージしすぎるわけにもいかない。
フェリスに何かを勘付かれないよう毎日ちょっとずつ溜めていたら、思っていたより時間がかかってしまった。
ご機嫌にスキップをしながら曲がり角を曲がると……ドンッ!
強い衝撃に、思わず地面に倒れてしまう。
「んんっ……? 誰かと思えば、チビマルトちゃんじゃないか」
誰かと思えば、デブで意地悪な方の兄のブルスだ。
今日も相変わらず太っている。
というか、そんなギリギリな名前で呼ばないでほしい。
俺の心の友蔵が俳句詠んじゃうから。
「俺にぶつかってくるなんて生意気だぞ!」
「痛っ!」
ブルスに思いっきり殴られた。
これ……三歳児にふるって良い力じゃないぞ。
間違いなく青あざになるだろう。
「最近上手いこと逃げ回りやがって! むかつくから、サンドバッグになりやがれ!」
三歳児の足の速さではブルスから逃げ切ることもできず、何発も攻撃をもらってしまう。
準備ができている今度は魔力を攻撃された部分に集中させて防御力を上げ、ダメージをある程度カットすることができた。
ただ少し強化ができる程度なので、正直めちゃくちゃ痛い。
ブルスは俺が倒れても一切攻撃の手を緩めることはなく、容赦なく攻撃を繰り返してくる。
殴られ蹴られ、立っているのもキツいくらいにボコボコにされる。
痛みに耐えきれず、涙が出てきた。
ただ泣いているのをブルスに見せるのは癪だったので、必死になって服で顔を拭った。
俺の様子を見て溜飲を下げたのか、ブルスがぶふーっと鼻から大きく息を吐き出す。
「ふぅ……おいマルト、これ以上殴られたくなかったらフェリスを俺によこせ。あれだけの美人だし、俺の女にしてやるよ」
ブチッと俺の中の何かが切れたような音がした。
フェリスから教わった風魔法でこいつを切り刻んで……
『それと、しっかりと魔法を収めるまでは人への魔法やスキルの使用は禁止です。守れますか?』
……そうだ、まだ俺は魔法を人に使うことは禁じられている。
ボクサーがストリートじゃ喧嘩をしないように、魔法使いは半人前のうちは人に魔法を使ってはいけないのだ。
だから今は我慢だ、我慢……でもむかつく。
絶対に後で、ぎったんぎったんにしてやるからな。
俺は決意を新たにしながら、近くの窓を開けて下を確認してから、そのまま外に飛び出した。
「フェリス、今会いに行きます!」
そのまま裏庭で待っていたフェリスの下へ飛び込むと、彼女の風魔法でふわりと受け止められる。
「マルト様……もうっ、後でお説教ですからね」
上の方からは、ブルスが癇癪を起こしている様子が聞こえてきた。
へっ、ざまぁみやがれ。
その日の夜、俺は緊張しながらスキルポットに触れた。
ちょっとばかし嫌なこともあったけど、スキルゲットの喜びの前では些細なことだ。
ゆっくりと、残っている魔力を流し込んでいく。
【タフネスを獲得しました】
おおっ、タフネスが手に入ったぞ。
これで俺の身体が以前より活力に満ちた……はずだ。
まだ実感は湧いてないけど。
とりあえず魔力がまだ余っていたので、風魔法の練習をしてしっかり使い切ってから眠ることにした。
細かい検証は、明日すればいいだろう。
目が覚めた。
けれどなんだか違和感がある。
その理由はすぐにわかった。
「あれ……まだ夜だ」
俺は今まで、魔力が切れるとおよそ九時間ほど気絶したように眠っていた。
なので夜寝る前に魔力を使い切ると、朝になって毎日快眠ができていたのだ。
間違いなく、タフネスの影響だろう。
体力がついたことで、気絶の時間が短く済んだってことなのかな……?
(そういえば魔力の回復の方はどうだろう)
通常、魔力切れになってから寝て起きると、魔力は全快する。
これはどれだけ魔力量が多い人間であってもそうらしい。
魔力に関しては、ドラク○の宿屋みたいなシステムになってるようだ。
この短い睡眠でもしっかり魔力は回復しているのかと思い試してみると……魔力ところてんを十一個出すことができた。
なるほど、体力がついたことで短時間の気絶で済むようになったけど、魔力切れして気絶した際の魔力の高速回復の効果は健在と。
つまりこれって……今までよりもはるかに効率よく、魔力を回復することができるようになったってことだよな。
ここに魔力消費による魔力量増大の効果も組み合わせれば……将来的にかなりの魔力量になるのも夢じゃないかもしれない。
「とりあえず……次のスキルを何にするか考えるか」
魔力ところてんは同じ場所に長時間放置すると消えてしまう。
なのでとりあえずこいつを使って新たに得るスキルを決めることにしよう。
フェリスに調べてもらったところ、火・水・土・風の四つのスキルは持っているみたいだから……他の属性の魔法にしておくのが無難だろうか。
魔法なんか、なんぼあってもいいですからね。
ただやっぱり……悩むなぁ。
スキルは本当に沢山の種類がある。
魔法系や武器系だけではなく各種耐性から恒常的なバフまで。
まあそのあたりのやつはいいんだけど、悪魔化や人食いなど明らかに取ってはいけなそうなスキルなんかも多数あるのがちょっと怖いんだよな。
下の方にいくとレアなスキルが固まっていて、勇者や魔王、ドラゴンやハイエルフといった『それ本当にスキルっていうくくりで合ってる?』と問いかけたくなるようなものも存在している。
この世界のことをよくわかってないから、こういう地雷になりかけないところはパスしておきたいんだよなぁ。
ただ今後のことを考えると……とりあえず一番必要なのは魔力を増大して、沢山のスキルを手に入れておくことだ。
そうなると……
「やっぱこれかな」
俺が選んだのは、
気絶耐性……気絶に対して一定の耐性を得ることができる
事前に候補として目をつけていた、気絶耐性のスキルだ。
タフネスを使うことで気絶した際の睡眠時間を削ることができることがわかった。
それなら同様の効果を期待してくれそうなこのスキルを取り、より効率的に魔力の使用と充填を行っていきたい所存だ(ちなみに他にも睡眠耐性や体力増大、恵体といったスキルも存在するため、とりあえずここら辺はまとめて全部取ってしまいたいところだ)。
とにかく短時間の睡眠で魔力を使い切って増大させるというサイクルを回して、魔力量とスキルを増やしておきたい。
魔力量増大、魔力回復も魅力的ではあるけれど……そこはゲーマーとしての性というべきか。
ローリスクで一定量を増やすより、ミドルリスクで無限の可能性を秘めている方を選びたくなっちゃうんだよ。
あ、もちろん余裕ができたら取らせてもらうつもりだけどさ。
そんなわけで俺はその日から、フェリスからの魔法の特訓と並行して『スキル変換』によるスキル獲得とスキルのレベル上げと魔力の増大を並行して行っていくことにした。
俺の目論見は見事的中し、無事各種耐性やスキルのおかげで俺の魔力はどんどんと増大していくことになる。
大量のスキルを手に入れそれを磨きながら魔法の練習を続け……気付けば、二年もの月日が流れていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます