第3話
「……戦闘中に魔力切れは、絶対起こせないな」
目が覚めると、既に完全に日が落ちていた。
魔法の練習を始めたのが午前十二時からだったことを考えると七、八時間くらいは眠っていたんだろうか。
身体も問題なく動く。
試しに精神を集中させると、内側にある魔力も問題なく感じ取ることができた。
「前世ではなかなか寝付けなくてたまに睡眠薬を使うこともあったけど、少なくとも今世では不眠になることはなさそうだ」
周りを確認するが、人影はない。
少しだけお腹が空いているけれど、今はそれよりも魔法だ、魔法。
とりあえず、もう一度そよ風を起こしてみる。
本来なら詠唱が必要らしいが、さっきと同じく念じただけで風が発生した。
続いて魔力ところてんを再びにゅるっと出す。
身体が少し重くなるが……まだ動く。
瞼も少し重たくなったが、今すぐに気絶するほどじゃない。
(俺の魔力が増えたのかもしれないな)
まだもう一発くらいは魔法が使えそうな感覚だったので、風を起こそうかと思い……ギリギリのところで踏みとどまった。
危ない危ない……せっかく魔力を扱えるようになったんだから、女神様の祝福である『スキル変換』の能力について確認しておかなくちゃいけない。
――この世界には、スキルと呼ばれる特殊能力が存在している。
火魔法のスキルがあれば火魔法を使うことができるようになるし、剣術スキルを持っていれば剣の上達速度がぐぐっと早くなったり、武技と呼ばれる魔力を使って発動できる技を発動することができるようになるのだ。
俺のこの『スキル変換』は、魔力と引き換えにスキルを手に入れることのできる力だ。
最強無敵の力……では決してない。
なにせスキルには、スキルレベルと呼ばれる概念がある。
レベルが上がるほどに、スキルによる恩恵も大きくなっていくのだ。
俺はどんなスキルでも手に入れることができるが、そのスキルレベルは必ず1。
つまりスキルを手に入れることができても、それをしっかりと育てていかなくちゃならない。
正に女神様が言っていた通り、『しっかりと努力を怠らなければ一廉(ひとかど)の人物になれるような力』なのである。
「それじゃあやるぞ……『スキル変換』」
どうやって使うかはわからなかったので、とりあえず口に出してみる。
するとフォンッと音が鳴り、目の前にSFなんかでよく見るようなホログラムの板が現れた。
【変換するスキルを選択してください】
メッセージをタップすると、そのまま大量のスキル群が現れる。
とりあえず上から見ていくか……
火魔法
水魔法
風魔法
土魔法
氷魔法
雷魔法
闇魔法
光魔法
付与魔法
召喚魔法
精霊魔法
時空魔法
一番上に並んでいるのは魔法系のスキルだった。
上の四属性が、中では一番重要度が高いってことなんだろうな。
フェリスが言っていたんだけど、魔法というのは、そもそもスキルがない人間は習得することができないのだという。
けどそれは裏を返せば、スキル変換を持っている俺は後天的に全属性の魔法を使うことが可能ということになる。
下の方にある精霊魔法や時空魔法なんかも使えるようになる……はずだ。
そういえば俺、さっき風魔法は普通に使えたんだよな。
つまり俺は実は風魔法のスキル持ちだったってことになる。
自分が持っているスキルとかを教えてもらえる方法ってないのかな。
持ってるスキルを変換しちゃったらまるきり無駄になるわけだし、魔法系を取るのはフェリスに指導をしてからでも遅くないかも。
魔法系のスキルの下には、魔法や魔力に関連したスキルが大量に並んでいた。
魔力回復、消費魔力減少、魔力量増大……取っておいて損はなさそうなスキルがいくつもある。
俺が中で一番気になったのは、与ダメージ比例魔力回復だ。その上には与ダメージ比例体力回復もある。
ドラク○とかF○とかだと、良く使ってたんだよ。
回復アイテムなしで戦い続けられるから、レベル上げが捗るんだよなぁ。
魔法系のスキルが終わると、次は剣術や槍術といった武器系のスキルが並んでいた。
魔法一辺倒だと近付かれたらそこでゲームオーバーになっちゃうだろうから、可能であれば近接用の攻撃手段も確保しておきたいよな。
剣より初心者向けって聞いたことあるから、槍術とか取っておきたいな。
それからも下にあるスキル群をスクロールしながらざっと見ていく。
気になるスキルもめちゃくちゃかあるな。
それにスキル名だけだと意味がわからないものもあるな。
この愛され子っていうのはなんなんだろう?
……
鑑定
……
おっ、鑑定スキルもあるのか。
これが俺の知ってる鑑定なら、この世界の情報を手に入れるのに役立つはずだ。
ん、待てよ?
鑑定スキルがあるってことは見られる危険もあるわけだ。
それならあんまりレアなスキルを取り過ぎるのも考えものか……
……
隠蔽
偽装
隠密
……
なんて考えていると、今度は隠蔽や偽装なんてスキルも出てきた。
なるほど、スキルを隠すためのスキルなんてものもあるのか。
どんなスキルでも手に入れられるってなると目移りしちゃうけど……とりあえず目立ちそうなのは避けて、実用的なスキルを取りたいところだ。
ゆっくりと時間をかけてスキルの確認を終えてから、俺は早速一つ目のスキルを選ぶことにした。
俺がまず最初に選んだのは……タフネスのスキルだ。
さっきも思ったけど、三歳児の身体はすぐに疲れてしまい、なかなか魔法の訓練に身を入れることができない。
とりあえず今後のことを考えると、体力がつくスキルがほしいんだよな。
スキルをタップしてみると、メッセージが切り替わった。
タフネス……持ち主の肉体・精神を強くするスキル
【タフネスのスキルポットに魔力を充填しますか? はい/いいえ】
……スキルポット?
よくわからないけどはいを押す。
すると目の前に、謎のポットが現れる。
表に『たふねす』となぜかひらがなで書かれた紙が貼られた、蓋なしのポットが現れる。
色は薄身がかった緑色で、透明の側面にはメーターがついていた。
……この上の穴から魔力を入れて、満タンにすればいいってことかな?
【スキルポットに魔力を充填してください】
頭を悩ませていると、メッセージが現れた。
どうやら合っていたらしい。
魔力を入れようとして……脇に置いていた魔力ところてんが目に入った。
そういえば魔力ところてんって、物質化した魔力なんだよな。
てことはこれを入れても、魔力を充填したことになるんだろうか。
試しにポットに入れてみる。
すると魔力ところてんはポットの中にスッと消えていってしまい、メーターが右に動く。
大体メモリ的には、全体の1%もないくらいだろうか。
続いて魔力を循環させ、押し出してポットに入れてみる。
すると魔力が中に吸い込まれていき……メーターがわずかに右に動いた。
動いたのはさっきよりはるかに微量だ。
消費魔力的には……物質化させて入れた方が効率が良さそうだ。
多分だけど、物質化させた魔力ところてんはそのままポットの中に入るけど、ひり出した魔力はポットに入る前に空気に溶けてしまいロスが発生しているんだと思う。
うーん、魔力を出したせいでまた眠くなってきたな。
でもギリギリもう一回くらいなら……
「マルト様、目を覚ましたのですか?」
「――え゛っ!?」
フェリスの声が、後ろから聞こえてくる。
ギギギ……と油の切れたブリキ人形のように振り返ると、既に彼女は俺の真後ろに立っていた。
い、いつの間に……もしかしてフェリスは隠密スキルでも持ってるのか?(『スキル変換』に没頭していたという事実からは目を背けながら)
「良い経験になりましたね、マルト様。魔力切れを起こすと強烈な眠気に襲われ、そのまま気を失ってしまうのです。ですので魔法使いにとっては魔力管理は何よりも大切で……」
(……ほっ、どうやら俺以外の人間には祝福は見えないみたいだ)
ひとしきり話をしてからいきなり魔法講義を再開させたフェリスは、やっぱりスパルタだった。
ちなみに彼女はホログラムやスキルポットにはまったく目を向けておらず、とりあえず一安心である。
まずはこのタフネスのスキルを得るために、魔法の練習と並行して魔力の充填を行っていくことにしよう。
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