第19話
領主とギルドの判断は迅速で、あっという間にオーク討伐部隊が組まれるようになった。
ギルドには強制依頼と呼ばれている所属する冒険者達を強制的に招集する依頼もあるのだけれど、驚いたことに今回はその強権を発動せずに冒険者達が集まったらしい。
俺のようにギルド側から指名依頼を出された数人を除くと、皆自発的に集まってきたらしい。
今回は辺境伯が臨時で予算を組んだらしく、普通にオークを討伐するよりはるかに報酬がが高いらしく、予想以上に数が集まっているようだ。
「ジェンに住んでいる冒険者の中には地元愛がかなり強い人が多いですからね……もちろん私達もそうですが」
「まさかこんな形で初任務を一緒にすることになるとはな……よろしく頼むぜ、マルト!」
「うん、こっちもよろしく。先輩冒険者として、色々教えてくれると嬉しいな」
「任せときなさい(ドヤッ)」
「といっても後方ですので、問題が起きないに越したことはないんですけどね……」
俺は後方部隊として、兵站を担当することになった。
そしてもちろん、物資の搬送は俺一人で運ぶわけではない。
一応俺一人で一軒家に入るくらいの容量はあるんだけど、必要物資は食料以外にも色々あるから、全ては到底入らない。
それにギルドとしても信心冒険者の俺にそこまで信頼はおけないだろうし。
なのでテントとかランプの魔導具とか水を提供する水差しの魔道具を始めとして、野営に必要なものを運ぶために兵站を担当している馬車はいくつも存在している。
ちなみに初めて知ったんだが、使い手が死んだ場合、アイテムボックスに入っているものは全てその場にぶちまけられるらしい。
なのでアイテムボックス持ちは、追い剥ぎ目的で狙われることも多いようだ……知りたくなかった、そんな話。
「しっかし指名依頼かぁ……まさかマルトに先を越されることになるとはなぁ……(遠い目)」
「私も時空魔法の才能があれば……ぐぬぬ……」
わかったのは実際に後方部隊として集まってからだったんだけど、どうやらこの後方部隊の警備も冒険者がするらしく。
そのうちの一つが、あの『左傾の天秤』の三人だったのだ。
「いざとなったら私達で怪我人の手当て、頑張りましょうねマルトさん」
「えっと……うん、そうだね」
「まぁ、今回はBランクのアルゴスさんもいるからオーガジェネラル程度問題なく倒せるだろうし、必要ないと思うけどな」
俺達後方部隊は、オーク達と戦う前線部隊から少し距離の離れたところから追いかけるような形で進んでいる。
なのでわりと気楽で、おしゃべりができるくらいには余裕もある。
基本的にこのあたりは駆け出し冒険者御用達のエリアであり、例外的に森から出てくるオーク達を除けば強い魔物は出てこない。
このあたりで来るのは強いのでもホブゴブリンくらいらしいからね。
そのため襲撃の方向も森からの一方に絞れるため、戦力は前線部隊の方に集中している。
なので後方部隊にいるのは、俺やエイラ達のようなF~Eランクのビギナー冒険者が多い。
「ふあぁ~~しっかし暇だなぁ……」
「これだけで一日銀貨三枚ももらえるんだから、我慢しなさいな」
「なかなか素敵な報酬額ですよねぇ、領主様は太っ腹です」
「おいおい、そんなに気を抜いて大丈夫なのか?」
「つってもこんな後ろで気ぃ張ってろっつうのも無理な話だろ」
大量に物資を積んでいるため、馬車が進むスピードは早歩き程度。
レベルによるステータスアップがあるため、中では一番体力がないというマリアでも余裕綽々でついていくことができている。
兵站の搬送も十分大切な仕事だと思うんだけど……護衛の冒険者達は全体的に気が緩んでいるような気がした。
戦力になりそうなベテラン達が前に集中してるから仕方ないのかもしれないけど……なんだか不安になってくるぞ。
どうやら冒険者達は問題ないと思ってるようだけど、兵站を切るっていうのは兵法では初歩の初歩だ。
もし俺がオークのリーダーだったら、間違いなくこの後方部隊を襲うだろう。
(念のために、最大限警戒しながら先に進むことにしよう)
幸か不幸か俺の懸念は的中することになり……出発してから三日目の森の手前までやってきたところで、俺は明らかに後方部隊を狙うべく繰り出されてきた集団を発見するのだった――。
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