第20話


「来た、数は二十以上……中にはかなり強い個体もいる。多分オークソルジャーだと思う」


「おいおい、冗談だろ!?」


「こんなところでふざける趣味はないよ。スキルで感知したんだんだけど、一体反応が段違いに高い魔物がいるんだ」


「マジかよ、クソッ」


「オークが、二十体……」


 時空魔法を使える俺の言葉はかなりの信憑性があるらしく、『左傾の天秤』の面々は即座に臨戦態勢に入る。


「はぁ? そんなFランクの言うことなんか信じんのかよ」


「お高くとまってたと思ったら、気に入った男にはとことんこびへつらいやがって……」


 幸いまだ距離はあったので、周りに状況説明を行うことにした。

 けれど皆が俺を見る目は厳しい。

 護衛の冒険者も馬を操る御者も、言うことを聞いてくれる気配がなかった。


 一人では説得が難しいならと次はエイラにも一緒に来てもらったんだが、なぜか向こうの態度は硬化する一方だった。


 どうやら女と遊びに来ているように見える俺のことが気に入らないらしい。

 彼らの目はこのハーレム野郎が、と口より雄弁に語っていた。


 ぽっと出のFランクの言葉なんて、誰も信用するつもりはないと啖呵まで切られてしまった。


 ……まぁ、それならそれでいいさ。

 気を抜いてやられても、文句を言わないでほしいけど。


「とりあえず事前の想定通り、炎弾を打つわ! 我が意に従い、炎よ球形をなせ――ファイアボール!」


 ミラさんが上に火魔法を打ち出して、信号を送る。

 事前に決めておいた、有事の際に救援を願うSOSだ。


「これでそう遠くないうちに、救援が来てくれるはずよ」


「とりあえず時間を稼ぐか……」


「なあ、今って有事の際だから、荷運び役の俺も戦闘して大丈夫だよな?」


「え、ええ、それは問題ないと思いますけど……」


「よし、それなら行ってくる」 


 スキル魔法を使って練り上げたスキルを使うせっかくの機会だ。

 この機を逃すつもりはさらさらない。


 俺はこちらにようやく森から姿を現したオーク達の方へ駆けていく。

 後ろからは驚きと恐怖の声が上がっていた。

 安心していいさ、だって――全部俺が倒すから。



 

 スキル魔法はかなり有用なスキルだった。

 これは簡単に言えば魔力を使ってスキルを結合、分離させることのできるスキルだ。


 本来であればスキルをレベル10まで上げてから一定条件にならなければ獲得することができない上位スキルを、スキルを結合させることで生み出すことができる。

 これによって俺のスキル欄は大きく変わった。

 今の俺のステータスは、こんな感じだ。



マルト・フォン・リッカー


レベル20


スキル魔法 レベル2

元素魔術 レベル4

系統外魔術 レベル3

上位鑑定 レベル1

剣豪 レベル3

不撓不屈 レベル2

全耐性 レベル3

暗殺者 レベル4

万物知覚 レベル3

与ダメージ回復 レベル2


呪術 レベル5

封印術 レベル6

双剣術 レベル6

槍術 レベル5

投擲術 レベル10(MAX)

夜目 レベル10(MAX)

マジックバリア レベル2

物理障壁 レベル2

言語理解 レベル10(MAX)

祈祷 レベル2


 とまぁ、こんな感じにわりと綺麗な感じでまとまった。


 上位スキルと通常スキルは別枠で表示されるようになっている。

 レベル1からのスタートになるため、スキルレベルは上げ直しだ。

 そして上位スキルはめちゃくちゃレベルが上がりづらい。


 そのため上位スキルのレベルはどれも軒並み低いが……その効果は既に通常スキルのレベル10の頃を大きく超えている。


 どうやら結合ボーナスのようなものがあるらしく、レベル1の段階でも既に結合させる前より強かったしな。


 また、スキルを結合したことによって消えてしまった分能力が減るなんてこともなかった。

 タフネスや肉体強化といった肉体系のスキルはまとめて不撓不屈という上位スキルの中に入っている。


 あと剣術と攻撃力増大を掛け合わせることで、剣豪なるスキルが発現したし、魔力関連のスキルと魔法系のスキルを混ぜると魔術系のスキルが生まれた。


 けどスキルを結合させても身体が重くなったり魔力が減るようなこともない。

 魔術系のスキルそれ自体に、組み合わせた魔力量増大や消費魔力減少のスキルが組み込まれている形なんだろう。


 いわゆるスキルツリーのようなもので、上位スキルを各種スキルと組み合わせることで更なる上位スキルを組み合わすこともできるようだ。


 たとえば魔術系スキルを各種魔力や魔法攻撃力関連のスキルを合わせてもう一度進化させることで、最上位である魔導系のスキルにいくことができるらしい。


 勇者があって賢者や剣聖がないのが疑問だったんだけど、どうやら後者のスキルはスキル結合で生み出せということのようだった。

 力はやったんだから楽をするな、ということなんだろう。


 あとは……隠密・偽装・隠蔽を結合させて暗殺者に、生体感知と魔力感知を結合させると万物知覚、与ダメージ比例体力・魔力回復を結合させて与ダメージ回復に進化させた。


 暗殺者は国によっては持っているだけでヤバいスキルのうちの一つだ。

 王国では問題ないけど、神聖国家ビクティスなんかでは持っているだけで一生幽閉コースらしい。


 正直分解するか悩んだが、上位スキルとして結合すると明らかに効果が向上するためそのままにしている。


 そうそう、スキル魔法ではスキルの分解も可能だったりする。

 なので別スキルを試したくなったら、上位スキルをバラして結合し直すこともできるのだ(ただ分解したスキルのレベルは1に戻るため、これも最初から上げ直す必要がある)。


 とまぁ、こんな風に今のスキルを確認しているうちにオーク達の群れがどんどんと近付いてくる。

 ちなみに既に暗殺者スキルを使っているため、今の俺の姿は誰にも捉えられてはいないはずだ。


 オーク達をぐるりと周り、後方にいるであろう上位種を確認しにいく。

 するとそこには予想とは異なり、杖を持ったオークの姿があった――。

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