第21話


「フゴォ……」


 杖を持ったオークは、少し年齢がいっているからか顔の至る所にシワがあった。

 よく見ると白いひげも生えており、オークと仙人を足して二で割ったような見た目をしている。


(あれはオークメイジ……いや、オークウィザードか?)


 オークやゴブリンといった人型の魔物はレベルアップによって進化を行い、上位種へと進化を行っていく。その進化は実に多種多様。

 異常な形で進化をする変異種なんて変わり種もあるおかげで、今でも定期的に新種が発見されるくらいには種類が多い。


 杖を持っていることから考えるとオークメイジだとは思うけど……オークメイジはそれこそ杖を持った一回り大きなオークのはずだ。

 それを考えるとあれはオークメイジの変異種……もしくはオークメイジの上位種であるオークウィザードと考えた方が良さそうだ。


(ただ魔力量は、奥にいるオークの親玉と比べればそこまで多いわけじゃない……オークジェネラルクラスじゃないなら、年を取ったオークメイジくらいに考えておこう)


 俺が接近しても、オーク達は気付くことなくフゴフゴと鼻息荒く早歩きで駆けていた。

 彼らの視線の先には迎撃に移ろうとしている『左傾の天秤』の三人と、しっぽを巻いて逃げだそうとしている冒険者達の姿があった。


 ――って、いきなり敵前逃亡するのか!?

 護衛してるのは低ランクとはいえ、いくらなんでもひどすぎる。


 とりあえず俺が頑張らなくちゃいけないみたいだな。

 暗殺者のスキルを発動させたまま、近付いていく。


 万全を期して手には母さんの愛剣を手に、息を殺しながら付与魔法を使いバフをかけた。

 幸いあちらにこちらを看破できるだけの上位スキルはないようで、オークの波をかき分けてあっという間にオークメイジの下へたどり着くことができた。


「……フゴォ?」


 オークメイジが首を傾げている。

 よく見ると彼は自分の周囲に風を展開させていた。

 なるほど、風使いとなると……風の微妙な動きで、生体感知みたいなことをしてるのか。


 ただ向こうの風魔法とこちらの暗殺者だとこちら側に分があるようで、オークメイジはすぐに気を取り直して前に進み始めた。


 その後ろから、首筋目掛けて思い切り一閃!


 剣はオークの身体をするりと抜けていき、一撃で首がポーンと吹っ飛んでいった。


 迎撃をしようとしているエイラ達に気を取られているせいで、オークは自分達のリーダーがやられたことにも気付かず視線を彼女達の方に固定させている。


 そんな無防備な背中から、魔法を放ってやることにする。

 オークを挟んで向かい側にいる彼女達を傷つけないように気をつけて……っと。


 まず土魔法を使い、オーク達の足下に大量の土の棘を生やす。

 体重がかなり重いおかげでかなり深いところまで刺さり、オーク達の動きが止まった。


 続いて馬車とオーク達の間に土の壁を出し、攻撃が飛ばないように気をつけてからブラストファイアボールの魔法を発動させる。


 イメージさせるのは炸裂弾や手榴弾だ。

 爆発した地点から攻撃を撒き散らすイメージで放った炎弾はオーク達の中心に着弾すると同時、轟音を発しながら周囲にその炎を撒き散らせる。


「「「プギイイイイイイッッ!?」」」


 あっという間にオーク達が黒焦げになってしまった。

 ちょっと火力が高すぎたかもしれない。

 生き残っているやつらにきっちりとトドメをさしていく。

 上位鑑定を使って確認すると、レベルが31に上がっていた。


 マジ!?

 たった一回の戦闘で10以上上がったんだけど!


 テンションが上がったままとりあえずオーク達の死骸をアイテムボックスに詰めていく。


 すると俺が片付けを終えたのとタイミングを同じくして、土壁をぐるりと回ってエイラ達がやってきた。


「嘘……あんなにいっぱいいたオークが……」


「もしかしなくても……マルトが全部倒した、んだよな?」


「ああ、そっちに被害が出ないように気をつけたんだけど、怪我はない?」


「それは、むしろ私達がマルトさんに聞きたいんですけど……」


 もちろん怪我一つないので問題ナッシングだ。

 土壁をどかすと、馬車の御者や逃げだそうとしていた冒険者達が呆気にとられたような表情でこちらを見つめている。


 万物知覚を使ってみるが、とりあえず周囲に魔物の反応はない。

 とりあえず一難去ったようだ。


「前線の人達は?」


「既に森の中に入っているみたいで、こっちに来る様子がない」


「……それっておかしくないか? まだ森には入ったばかりだし、中からでもあの火魔法の爆発音は聞こえると思うんだけど」


「もしかするとあっちでも何かが起こっているのかもしれないわね……」


 たしかに、それは十分にあり得る話だ。

 向こうにはわざわざ輜重を攻撃しようと考えることができるくらいに賢いやつがいるわけだし……あ、そうだ。


「三人ってこの魔物知ってる?」


 アイテムボックスから仙人オーガメイジを取り出すと、三人がいぶかしげな顔をする。

 中では一番博識なミラが、難しそうに眉間にしわを寄せた。


「多分だけどこいつ、オークハーミットじゃないかしら……魔法を使ってきたでしょう?」


「ああ、風魔法を使ってきた」


「こいつはオークメイジの進化先の一つ――討伐ランクはBだったはずよ」


「ぶーっっ!! こいつ、Bランクの魔物なのか!?」


 飲んでいた水を吐き出しながら驚くエイラ。

 彼女ほどでもないが、俺も十分驚いている。

 なるほど、一気にレベルが上がったのはこいつのせいだったのか……調子に乗って真っ向から戦ってたら危なかったかもしれないな。


「こんな化け物がいたとなると……もしかすると群れを統率しているのは、オークジェネラルじゃないかもしれないわ。もしかすると……オークキングがいるのかもしれない」


 俺には万物知覚がある。

 これは簡単に言えば脳内にマップを描き、そこに光点とその光の強さで生物の魔力量と強さを判断することのできる力だ。


 なので俺には、奥にいる魔物がこいつより強いことがわかっている。

 Bランクのこいつより強いとなると……ランクはAに届くだろう。ミラが言っている通り、オークの中でも最強格であるオークキングがいるかもしれない。


 今回の冒険者達の中で一番強いといっていた人でも、たしかランクはBだった。


(このままだと、かなりマズそうだな……)


 今の俺は、自分の実力がどれくらいなのかはわからない。

 だが少なくとも、現状の冒険者の中で最も万物知覚で光が強いのは俺だ。


 森の奥にいる魔物を相手にして戦えるだろうか……正直不安だが、やるしかない。


 ランクAは場合によっては街を滅ぼすことができるほどの戦力とされている。

 そんな奴らを放置することはできない。


 そしてオークの群れの討伐となれば、俺一人で完遂するにも難しい。

 前線に大量の実力者がいる今回の討伐依頼が、一番勝ちの目が出やすいのは間違いないのだ。


 俺があの魔物を押さえて、その間に他の人達にオークを潰してもらう……それが一番、成功の可能性が高いはずだ。


「行ってくる! 皆はここでいつ森からオーク達が出てきても大丈夫なように、備えて置いてくれ!」


 俺は一人、森の中へと入っていくことにした。

 万物知覚で、既に冒険者達と魔物との戦闘が始まっていることは掴んでいる。


 こうなったら、出し惜しみはなしでいかせてもらう!

 目指すは――最前線だ!

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