第7話
現在俺が夜に練習しているのは、主に光魔法と付与魔法の二つである。
この二つを練習している理由は単純だ。
かなり応用が利き、夜中に一人で使っていても問題がないからである(ちなみに系統外魔法が手に入るまでは四属性魔法で唯一室内で使っても問題がない風魔法を使っていた。おかげで四属性魔法の中だと、一番風魔法が得意だったりする)。
光魔法はヒーラーが使うような回復魔法や結界魔法なんかのゲームでヒーラーが使えそうな感じの魔法。
そして付与魔法は、人や物に魔法を付与して強化することができる魔法だ。
同じく室内で練習できる魔法には系統外魔法である時空魔法もあるが、これはレベルが6に上がった時点で一旦練習を止めている。
レベルが上がったことで、が時空魔法で一番ほしいと思ってたアイテムボックスが使えるようになったからね。
アイテムボックスは亜空間を作り出し、そこに物を自在に出し入れすることができるという魔法だ。
収納スペースは現時点で俺の私室分程度。
今は収納するものも大してないので、これで十分だ。
話を光魔法と付与魔法に戻そう。
光魔法には、この異世界で生きていくのには必要な魔法が数多く存在している。
このアトキン王国の文明レベルは決して高いとは言えない。
光魔法があるおかげで、医療技術もほとんど進歩していなかったりする。
基本的に病人や怪我人が出たら光の魔術師がやってきて、回復魔法を使って治せれば完治、そうでなければ打つ手なしという適当ぶりだ。
おまけに光魔法の使い手は数が少なく、診療代が結構シャレにならない。
こんな状況では、うかつに風邪を引くこともできない。
俺は将来的には家を出て行くつもりだから、自活のためにも回復魔法の習熟は必須と言えた。
それに身内が大けがを患ったりしたら、治してあげられるからな。
回復魔法の腕は上げておいて損はない。
もちろん光魔法で有用なのは、ヒールやハイヒールを始めとした回復魔法だけではない。
光魔法に、ピュリファイという魔法がある。
これは身体と衣服の汚れを落とし、身体を清潔に保つ魔法だ。
これはマジで神魔法だ。
というか、清潔な環境が当たり前だった現代日本の頃の感覚を持っている俺は既に、ピュリファイなしでは生きていけない身体になってしまっている。
この世界の衛生観念は、控えめに言って終わっている。
皆毎日風呂に入るわけではないし、街をちょっと外れてしまえば道を歩けば野ぐそに当たる素晴らしい世紀末っぷりだ。
そんな状況下でこのピュリファイを重宝しないわけがない。
とまぁ、こんな感じに光魔法は生きてく上で必要なので頑張って練習している。
そしてもう一つの付与魔法は、純粋に強い。
これは人と物を強化することができる。
身体強化(フィジカルブースト)を使えば身体能力を上げることができるし、集中強化(コンサスブースト)を使えば魔法の威力を上げることができる。
そして自分にだけではなく、この付与魔法は物にもかけることができる。
そのため俺が着ている服は、付与魔法をかけまくり耐寒・耐熱・耐衝撃・防刃仕様の特別製になっている。
ただ気をつけなくちゃいけないことに、付与魔法には時間制限がある。
現状では自分自身にかける魔法は五分前後、物にかける魔法は一日くらいしか効果が保たないのだ。なので服には毎日かけ直す必要がある。
なんでも魔道具造りの知識があったり、上手いこと魔力を溜めることができる物を嵌めたりすれば効果を完全に定着させることもできるそうなんだけど……少なくとも今の俺にはまだできない高等技術だ。
付与魔法の本家は、アトキン王国を北に行ったところにあるゼラール魔導王国らしい。
暇ができれば、ぜひ一度尋ねて色々と技術を盗み……もとい学ばせていただきたいところだ。
とまぁ、俺の夜の鍛錬はおおむねこんな感じだ。
だがこの世界は地球と変わらぬ一日二十四時間制。
当然ながら夜よりも昼の方が長い。
今の俺がお昼に何をしているかというと……
「それでは……対戦よろしくお願いします」
「今日こそは一発入れる!」
「元気があって大変よろしい」
――フェリスとひたすら実戦形式でのトレーニングをしている。
父さんに使用許可をもらった、リッカー家が所有している資材搬入用の土地。
ここで手合わせをするのが、俺とフェリスのここ最近の日課になっていた。
「それっ!」
「エアクッション……うふふ、お上手ですよマルト様」
俺が放つ上級風魔法のウィンドバーストを、フェリスはそれよりずっと威力の低いはずの風魔法で相殺してみせる。
つまりこれが、俺とフェリスの間に広がっている実力差ということだ。
「負けてたまるか……身体強化!」
「どうぞマルト様、何度でもボコボコにしてさしあげましょう」
なんでこんなことになったのか、説明が必要だろう。
俺は魔法は座学で教わるものだとばかり思っていた。
けれど俺達が膝突き合わせて勉強をすることは、最初の数回だけだった。
『マルト様は下手に型を教えるより、自由にやってもらった方が良さそうです』
基本的に魔法というものには、一定の型がある。
たとえば火魔法のファイアランスの場合、縦の長さが一メートルで柄の太さは直径十センチ前後、飛距離はおよそ十メートル前後で……という風に基本的な型が決まっている。
まず師からこの型を教わり、同じ物が発動させることができるようにしていく……というのが、この世界での一般的な魔法習得のやり方らしい。
『マルト様の強みは、そのイメージ力の高さと既成概念に囚われない発想の自由さです。なので私が下手に型を教えるよりも、自分で型を編み出した方がいいでしょう。その分時間はかかるかもしれませんが、最終的にそちらの方が強くなるはずですよ』
一般的なやり方を覚えれば、習得までにかかる時間を短縮できるというメリットがある。
ただその分応用が利きにくくなるというデメリットもある。
フェリスは俺が無詠唱魔法を使ったり独自に物質魔法を編み出してしまったりしたことから、俺の発想力やイメージ力を活かすために俺に魔法のことを教えるのを止めた。
フェリスは一の言葉の代わりに、十の魔法で俺に実践的な戦い方を叩き込んでくれている。
彼女と戦う度に俺は魔法をどうやって使った方がいいのかというノウハウを蓄積させ、それを自分なりに昇華して魔法に落とし込んでいる。
この世界の魔法の師弟関係としてはかなり特殊だろうが、たしかに俺も自分にはこのやり方が合っていると確信できた。
フェリスの魔法戦闘技術は、口頭での説明や魔術書の小難しい理論よりも、はるかに参考になる。
聞けば彼女は以前、レヴィ母さんと一緒にパーティーを組み、冒険者をやっていたのだという。
なんと彼女達のパーティーは、冒険者としては最高ランクであるSランクまで上り詰めたらしい。
そんな人物から魔法を教わることができる幸運を噛みしめながら、俺は今日もボコボコにやられるのだった。
「ハイヒール……うーん、今日もダメだったかぁ」
「レヴィも使ってましたけど、光魔法って便利ですよねぇ。どれだけ怪我を負わせても跡が残らないので、私も気兼ねなくキツめの指導ができるのでありがたいです」
果たしてフェリスに一矢報いることができるのはいつになるのだろう。
できればこの国での成人とされる十二歳の時までには、追いつけずとも背中が見えるくらいのところまでは近付いていきたいな。
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