第10話 ガチのユニコーンも処女厨なんやな…



「やっぱ“ユニコーン”って厄介だなっ‼」



地響きと共に鋭く尖ったユニコーンの角が迫ってくる。

まさか、最後の最後で単身で階層ボスと戦うことになるとは思わなかった。



「マジで俺だけに攻撃してくるとは思わんやん‼ あと、意外と外見がかっこよくない‼ 」



俺は迫りくる角を交わしながら剣を振るう。

剣先が微かにユニコーンの肌を掠めるが、皮膚が厚いのか出血はない。


戦闘をしながら俺の頭をよぎった”比喩”で案の定コメント欄は盛り上がっている。

…ある程度Vtuber文化に触れていれば耳にする単語。そう、処女厨ユニコーンだ。



【ほら、お前ら。言われてんぞ】


【ガチのユニコーンも処女厨なんやな…】


【まさかシーナちゃんとレイさんから夢空を引き剝がすように攻撃するとはね…】


【しかも勝手に2人を護ってるヅラしてるしww】


【あと確かに思ったよりカッコよくない】


【それに加えて(面の)皮が厚いとwww】


【まさにVのリスナーって感じ(笑)】


【やめろ、一緒にするな】



一瞬だけ視界に入っただけでこのザマである。

でも確かに目の前で戦っているユニコーンは想像していたほどカッコよくない。


白、というよりは薄い灰色の体色に整っていないたてがみ。馬の胴体に太い象の足と短い猪の尻尾。1m程の特徴的な角では誤魔化せないくらい、本物のユニコーンはずんぐりむっくりした見た目をしている。



「白馬のサラブレッドに角が生えてるのを想像してたんだけどなっ‼ あとよく見ると顔は馬ってよりはヘラジカっぽいな、コイツ。角が生えてっからか?」



像の足が踏み鳴らす地響きを足元に感じながら俺は跳び上がる。

追いすがる角を空中で避けながら敵の後ろ側に飛び降り足元を剣で横薙ぎに切り払う。


…アキレス腱を切った。と思ったが上手く躱される。



【想像ではカッコイイんだけどね…】


【流石に言い過ぎで草】


【馬だけど…よく見たらヘラジカっぽい…?】


【てか普通に苦戦気味じゃねーかww】


【ユニコーン側に夢空を絶対に潰すという強い意志を感じる】


【やっぱ何時だって男性Vの天敵はユニコーンなんやなって】


【いや、マジのユニコーンとは思わねーだろwww】



…そろそろコメント欄のノリが過激になってきた。いい加減終わらせねーとな。


俺は後ろ向きに飛び去ってユニコーンとの距離を開ける。

それを見て追いすがるユニコーンを前に、俺の手がジャケットの懐に伸びる。



「どうせ今日はこの戦闘で終わりだ。出し惜しみは、なしだ。」



銀色のリボルバー式銃が火を噴く。ボス部屋に響き渡る6発の銃声。

…少しだけ敵に感情移入してカメラは俺だけを捉えるように指示を出している。



【容赦ねーな】


【まあ、流石に死ぬわけにはいかないしね】


【カメラには映ってないけど、動物愛護団体からクレーム来そうww】


【処女厨の次は動物愛護団体か】


【クレーム来たら完全な貰い事故で草】


【なんか前にサッカー選手が鹿狩りして文句言われてたよね】


【まあ趣味や遊びで不必要に動物の命を奪うのは良くはないよな】


【悪趣味ではある…のか?】



カメラが消滅するユニコーンと出現する宝箱を映し出す。

戦闘の時間は終わり、あとは報酬の時間だ。離れたところで見ていたシーナとレイさんも近づいてくる。



「お疲れさま、夢空くん。これで36層突破だ」


「ハル、お疲れ様です‼ 最後の攻撃、カッコよかったです」


「はは、レイさんも、シーナも、2人とも、ありがと。」


「うむ。よく頑張ったぞ。」



若干の疲労感に膝に手を付く俺の肩をレイさんが軽く叩く。レイさん的には頑張った後輩を労う、くらいのつもりだろうが、コメント欄は阿鼻叫喚である。



【は?】


【あ?】


【レイ様からの肩ポンだと…許せねえぜ】


【ユニコーンにヤラれれば良かったのに】


【これは断罪されるべき】


【やっぱ夢空はこうでなくっちゃww】



何故か再び盛り上がるコメント欄を無視して俺は出現した宝箱に目を向ける。ユニコーンのボスのドロップ品てことはアイテムは角とか? もしくは回復薬か解毒薬って所かな?



「今回は夢空くんの手柄だ。報酬は全取り、何が入ってるかな?」



レイさんも興味深そうに宝箱を遠巻きに眺める。

俺は宝箱に近づき、蓋に手を掛けて、それ・・を開く。次の瞬間、視界が真っ暗になる。


何となくヌメッとした感触と共に遠くからレイさんの笑い声とシーナの心配そうな声が聞こえてくる。



「あははは‼ まさか置き土産がミミックとはっ‼ あははははっ‼ どれだけに嫌われてるんだ」


「ハル? 大丈夫ですか⁉ レイも笑ってないで助けてください‼」


「あはは、はあ、面白い。分かりました、シーナ様」


…何となく状況がつかめた。

どうやら俺はミミックの罠にまんまと嵌ったらしい。



【ざまああああああwwwww】


【罰当たるの早すぎて草】


【ユニコーンの呪いだな笑】


【宝箱に喰われてんの情けなくて草なんだがwww】


【レイ様めっちゃ笑ってる】


【かわいい】



視界が暗い分、コメント欄がハッキリ見える。もはや煽り放題である。

その時、鈍い音ともに視界に明るい光が戻ってくる。どうやらレイさんが助けてくれたようだ。



「…ありがとうございます」


「ははは、まさに苦虫を嚙み潰したような顔だね。いや、面白かったよ」


「ハル、大丈夫ですか? 怪我とかはないですか?」


「あはは、大丈夫だよ。今度から気を付けないとな…」


「いやあ、こんなに笑ったのは久しぶりだよ。それじゃ、今度こそダンジョンを出ようか。」



レイさんに促され俺とシーナはワープでダンジョンを出る。

視界にが徐々にはっきりし、ダンジョン前広場の景色が目に入る。


いつも通りの閑散とした広場。安全地帯に戻ってきた安堵感で力が抜ける。



「ふあ~‼ なんか今日はいつもより疲れたな」


「お疲れ様、夢空くん。今日は私がシーナ様を送っていこう。君はゆっくりと休むといい。」



軽く伸びをする俺にレイさんが声を掛けてくる。

俺がレイさんの提案に頷くと、今日はここで解散になった。


遠ざかる2人の背中に手を振ると、俺はコメント欄に目を向ける。



「疲れはしたけど、かといって配信終わる気分でもないんだよな…。最近あんまり話せてなかったし、コメント拾いながら雑談でもすっか? まあ、夜も深くなってきたし、シーナもレイさんもいないから、完全に視聴者さん次第だけど」


【いいぞ】


【付き合うぞ】


【急にコメ欄素直で草】


【ワクワク】@Asari


【Asariママもよう見とる】


「そっか。それじゃあ喋りながら久々に教会の屋上にでも行くか。あそこなら星もよく見えるし、休憩もできるからちょうどいいだろ。あ、そう言えば話したいことがあったんよね。実は、遂にスタッフ君以外にも身バレが発生して…」



たまにはVtuberらしく雑談配信といこう。

飽きたタイミングで止めればいいし、話したいトークテーマも貯まってきている。


なまじ異世界に行くと話題に事欠かないのは良いことである。…そんなことを考えながら俺は視聴者さんと共に隠れ家スポットである教会の屋上へと向かうのだった。




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