序章 転生配信のウラオモテ

第1話 Vtuberの“転生”って、こういうことじゃない‼ 

誰もが知る超大手動画配信サイトYourtube。

ある日、そこで登録者100人に満たない底辺個人Vtuberが配信を行っていた。


配信画面に映る景色は暗い洞窟。

和服を身に纏った青年が白い長髪をなびかせて剣を振るう。



▲ ▽ ▲



自身を囲むオークを次々と切り落として、は獰猛な笑顔を浮かべる。



「同接4,000人到達か‼ 滾ってきたぁ!!!」



通常の視覚では見えるはずのない数字を見て俺は叫ぶ。大剣を片手で振り回していると、俺の叫びに反応して視界の端でコメントが加速する。



【いや、そもそも配信画面どーなってんねん】


【これってVtuberの配信で間違いないですよね、、、?】


【いや、たしかにコイツはVtuberだよ。だったよ?】


【少なくともこんな映像自体見たことねーぞ。最新の3D技術でもこのリアリティは無理だろ?】


【あ、映像作品ってことか。なーんだ、驚いて損した。】



流れるコメントに注意を向けつつ俺は剣を構える。

剣を振り上げて迫りくるオークを横薙ぎに切り払ってから、俺はようやくコメントに反応する。



「配信画面がどう映ってるかは知らんが、映像作品じゃないからな、これ。それにしても、流石、天才イラストレーターAsariママだせ。まさか衣装に付属している大剣がこんなに使えるとは思わんもん。こいつの切れ味マジで最高。」



俺は配信を見ているであろう、とある人物を意識してコメントをする。

Vtuber業界では自分のイラストの描き手を“ママ”と呼ぶという風習がある。俺の“ママ”に当たる人物であるAsari氏。カメラ越しに俺は彼女へ視線を投げかける。


そんなことを思いながらAsariママがデザインした大剣で手遊びをしながら笑う俺の横で、先程真っ二つにしてやったオークが光の粒となって消えていく。



「ってか、これで襲ってきた群れは倒しきったな。いやー、案外簡単にやれちまうもんだな~」




【え、マジで言ってる?】


【てことは、本当に、本当なのか?】


【いやいや、あり得ないって。】


【そうだよなぁ。普通に受け止めきれんわ。たまたま推しの配信見ようとしたら、推しが異世界転移・・・・・してるなんて】


【てか、なんでコイツはこんな楽々オークの群れ全滅させてんだよ。結構エグい動きしてたぞ。】


【本当の戦闘を意識して君の剣をデザインしたわけでは無いのですが…】@Asari


【おっ、Asariママ】


【まーた子供達の配信漁ってるよこの子沢山こだくさんママ】


【Asariママもよう見とる】


【今日も今日とて、Asariママは漁り・・ママなのだよ】@Asari


【このママ、さっきマリアちゃんのコメ欄にもいたぞ。数十分前まで同接100人未満だったコイツも併せて一体何窓してるんだ。】


【それ、おまいう】



視界の端コメントを確認した俺の口角が少し上がる。

見たことのある名前のコメントに少しホッとしたのだろう、俺も視聴者とともに彼女へ声を掛ける。



「おっ、Asariママ!! 乙です!!」



そしてサムズアップ。

カメラと思われる物体に歯を見せて笑う。



「やっぱAsariママは最高だな!! 見てくれ、この腹筋。バッキバキだぜ!! それにメッチャ身体が軽いんだよ。」



俺は腹筋をさらしてそう言うと、さらに軽くその場でジャンプする。我ながら完璧なる肢体である。


「この肉体美。ママが筋肉フェチなだけはあるな!!」



【人様の性癖を公の場で晒さないでください】@Asari



予想通りの反応に俺はクククッと喉を鳴らして笑う。少しイジりたくなってきた。



「ちなみに、Asariママは女の子だと貧乳好きです。そのクセ、自分のモデルはそこそこ胸があるという。」



【この愚息は何を言ってるのかな?】@Asari



「ちなみに俺も貧乳派です。さーて、Asariママ。同じミニマリストとして、自分の胸を盛った理由と感想を教えてほしいなぁ!?」



俺は意地悪な表情をカメラに向ける。

そんな俺の表情を見てかコメントが再び加速する。



【ミニマリストは草】


【急に子供っぽくなったと思ったら、唐突ににドS顔しやがった…だと? やめろ、そのギャップは私を殺す…】


【というか、こんなイキイキしてるコイツ初めて見たぞ】


【玩具貰った子供みたいでカワイイ】


【コイツって結構やんちゃなタイプだったんだな。意外だわ】


【夢空くん、カワイイねえ〜】@Asari




…なんか流れが変わったぞ?

しゃあねえ、逃げよう。



「ま、胸部装甲問題は置いといて、ちょっとオークの残党が来たので、そっちを対処しようと思いまーす。」



そう言って俺はこちらに向かってくるオークを見る。敵は1体だが明らかに先程までの雑魚とはサイズが違った。



「でっけえな、おい。オークキングって書いてあるぞ」



俺は剣を構えると、ジリジリとオークに近づく。

オークもこちらの殺気を感じたのか剣に手をかける。


互いの間合いに入った瞬間、オークキングが剣を叩き下ろす。俺は掲げた剣でそれを受け流すと、手首を返してそのまま攻撃に転じる。



「おりゃよっ!!」



オークキングの肩口から入った俺の剣はそのままオークキングを斜めに両断した。オークキングは咆哮を上げてこちらを睨むが、すでに時遅かった。


「すまんが配信のネタになってもらうよ。」


振り切った剣を切り返してオークキングの首を飛ばし、オークキングは光の粒となって消滅する。



【強えええええええ!!!!】


【マジで強え。最強系主人公なのか? な◯う常駐主人公なのか?異世界ハーレム作るのか? 】


【普通にすげえ。まだ映像なのを疑ってもいるんだが、今の動きが自然すぎてビビったわ】



「照れるじゃねえか、お前ら。まあ、18年以上剣道やってるから、これくらいはな。それに、俺はお兄ちゃんだからな!!」



【お兄ちゃんだからは草】


【どういうことだよww】


【炭◯郎もびっくりのお兄ちゃん理論】


【コイツたまに唐突なお兄ちゃんアピールするよな】


【初見の奴らに忠告しておく。コイツ、妹の話になるとマジで止まらなくなる。軽く2時間は話し出すぞ】


【↑妹に触れている件について】



視界の端コメントに意識を向けつつ、オークキングが残していった魔石を拾い上げる。これまでの人生で見たことも、触れたこともないソレ・・を眺める。


…本当に、俺はどうなっちまったんだろう。


「ってか、お兄ちゃんだからここまで強気で振る舞ってたんだけどさ、マジでどうなってるんだ? 俺は現代日本に帰れんのか? 流石に可愛い妹マイハニーの顔をもう一度拝みたいのだが」



【ちゃんと深刻で草しか生えんのだが】


【いや、分からんで配信してたんかい】


【お兄ちゃん理論のキャパで異世界転移を受け入れようとするなよww】


【これは配信者の鏡ww】


【マイハニーって絶対妹のことだろw】



俺のトーンに呼応してかコメントが少し落ち着く。

これはマズい。Vtubeとして、配信に来てくれた客は喜ばせて返さねば。


「よくVtuberが転生するとは聞いていたが、こういうことだったんだな!!」


取り敢えずネタに逃げる。

今後のことは…まあ、配信が終わってから考えよう。


とにかく今は配信を楽しもう。

なんせ、ド底辺個人Vtuberである俺、夢空ハル史上初のバズりなのだから。


…よくよく考えれば“転生”じゃなくて”転移“か?

まあ、細かいことはいいだろう。




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『【個人V】#急募 ここってどこですか?』

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