【#異世界V】ド底辺Vtuberの俺、気づけば異世界に飛ばされてた件。仕方なく異世界から配信をしているだけなのに、有名女性Vtuber達からのコラボ依頼が舞い込むのは何故ですか?
第12話 スキンヘッド冒険者と眼鏡エルフ受付嬢
第12話 スキンヘッド冒険者と眼鏡エルフ受付嬢
朝日を浴びて、微睡みから意識が徐々に戻ってくる。
どうやら俺はベンチに座ったまま眠ってしまっていたようだ。
小鳥のさえずりと共に、ダンジョン前に集まってきた冒険者達の足音や話し声が聞こえてくる。
眩しくて目が開けられない。ん? なんか足音がこっちに近づいてくるような…
「っいってえ‼」
突如、俺の額に激痛が走る。
思わず目を開けると、恰幅の良いスキンヘッドの冒険者が俺を覗き込んでいた。
「痛てえじゃねえか、おっさん‼ 人が気持ちよく寝てるとこにデコピンなんてすんじゃねえ‼」
「お前、アホか。こんなとこで鼻提灯浮かべて寝てたらすぐに身ぐるみ剥がされて一文無しになんぞ。むしろデコピンで済んだことを感謝しろ、バカ野郎」
「ああん? 俺は妹を虐めるヤツと睡眠の邪魔するヤツだけは許さないって決めてんだ。おっさん、顔出せ。デコピンにはデコピンだ。って、痛ってえ‼」
立ち上がろうとした俺のふくらはぎが悲鳴を上げる。
完全に昨日の筋肉痛である。俺は立ち上がるのもままならないままスキンヘッド冒険者を睨む。
「威勢がいい割には睨むだけか、坊主。どうした? チビったか?」
「ちゃうわ‼ 昨日ダンジョンで散々戦ったから筋肉痛になってるだけだ‼ 舐めんなよ‼」
「ほう。たしかに珍しい恰好をしてると思ったが、坊主も冒険者か。俺を知らないってことは新参者だろう。なら冒険者に一番大切なことを教えてやるよ」
次の瞬間、スキンヘッドの冒険者が一気に殺気を放つ。
確かに物凄い圧力があるが、高校時代の部活の顧問に比べれば屁でもない。
「あ? その程度で俺が怯むと思ったか?」
俺がそう言って睨み返すと、スキンヘッドの冒険者は笑いだす。
…というか、さっきから自分で勝手に始めた変なキャラ演じるのが面倒臭くなってきた。
「ははは。お前、面白い奴だな。名前はなんていうんだ。」
「あー、夢空ハルっていう名前だ、よろしく…じゃなくてっ、人に聞くんなら、まずは自分が名乗れや‼ おおん?」
「いや、名乗ってるじゃないか。というか、急に冷めるな。そして取り繕ったように威勢を張るんじゃない、坊主。なんだ、おっさんに付き合うのはもう飽きたか。」
「めんどくさくなった。んで、おっさんは何て名前なんだ?」
「おう、俺はジャスパーだ。“黒龍の鱗”っていうクランの幹部をしてる。あとは、ベンチで呑気に寝てるバカがいたから声を掛けただけだ。」
「それは俺の不注意だった。今度からは宿に帰って寝るわ」
「そうすると良い。こんなとこで寝れんのはホントの大馬鹿か、大物のどっちかだな。まあ、暇なときにでも“黒龍の鱗”のクランホームに来いよ。飯ぐらいは奢ってやる。」
そう言ってジャスパーは踵を返す。
どうやらこれからダンジョンに入るらしく、同じ鎧を着た仲間が遠くに見える。
「おっさん、ちょっと待て。」
「ん?どうかしたか、坊主」
「まだデコピンの仕返ししてねえ」
「アホか、お前は」
ジャスパーそう言って笑うと、今度こそ仲間たちの所へ戻っていく。
後ろ姿だが肩幅は広く、ガッチリとした身体つきをしている。恐らくだが、熟練の冒険者の1人だろう。…これは、案外いいコネクションを作れたかもしれない。
「にしても、マジで筋肉痛がひどいな。立つだけで痛てえ。」
俺はそう言って立ち上がると、痛む足を引きずって宿へと戻るのだった。
ちなみに、宿に戻ったあとは昼過ぎまで寝なおした。
「やっぱり混んでんなー」
昼過ぎに宿を出た俺は冒険者ギルドに来ていた。
目的は昨晩のダンジョン探索で回収した魔石を換金するのと、暇つぶしの情報収集だ。
「次の方、どうぞー」
冒険者たちの列に並んでいると、順番が来て窓口に呼び出される。…なんだか役所に来ている気分だ。
窓口に向かうと眼鏡をした綺麗な女性が受付席で待っている。おっとりとした雰囲気の女性だが、何よりも特徴的なのは長く尖っている耳だった。エルフってヤツだよな?
「こんにちはー」
「ようこそ、冒険者ギルドへ。本日はどのようなご用件ですか?」
「えーっと、魔石の交換をしたくて来ました。」
俺が懐から魔石をいくつか取り出すと、エルフの女性がまじまじと俺を見つめてくる。…あれ? なんか変な事でも言った? それとも顔になんかついてたかな。それにしても、ナニとは言わないが、デカいな。
「もしかして、冒険者ギルドにいらっしゃるのは初めてですか?」
「…そうですね、初めてです」
「承りました。そうしましたら、こちらへどうぞ。」
「あっ、はい」
受付のエルフはニッコリと微笑んで立ち上がると、ロビーの机と椅子のある場所を手で示す。どうやら移動する必要があるらしい。
「では、こちらにお座り下さい」
言われるがままに席に座ると、エルフの受付嬢も俺に向かい合うように着席する。彼女の手元にはいくつかの書類が用意されている。
「それでは改めて、ようこそ王都フィリーアへ。私は王立冒険者ギルド職員のフィオネと申します。以後、お見知りおきを」
「よろしくお願いします」
どことなくお淑やかな印象を抱かせる立ち振る舞いでフィオネさんはお辞儀をする。俺も併せてお辞儀をすると、上品な笑顔を見せてくる。なんか、ムズムズする。
「それでは魔石の換金の前に、少しだけこの街についてご説明しようと思うのですが、如何しますか?」
「ありがとうございます。お願いします」
「はい、それでは王都フィリーアと冒険者ギルドについて説明いたします。まずはダンジョンについてですが、こちらはもう大丈夫そうですね」
「はい。昨日行ってきました」
俺が頷くと、フィオネさんは1枚の大きな紙を机に広げる。広げられたソレは王都の地図だった。地図の中心に
「こちらが王都フィリーアの地図です。この街は中央にあるダンジョンを中心に8つの地区に分かれています。まずは、ダンジョンの周辺地区である中心街です。このエリアにはダンジョンはもちろん、オルディネ公国宮殿、貴族達の館、冒険者ギルドを含めた4つのギルド、王立図書館、大商店街などの主要な施設が集中しています。」
フィオネさんは指で主要施設を示しながら説明をする。
ギルドは冒険者ギルド、商人ギルド、職人ギルド、錬金術師ギルドの4つがあるらしい。…まさに異世界だ。
「続いてが郊外7地区です。北から時計回りに
「”赤鷹の嘴“とか、”黒龍の鱗“とか?」
「その通りです。それぞれの地区に住んでいる冒険者達が所属している大規模クランになります。もちろんそれ以外にも中小規模のクランは沢山ありますが、いわゆる“攻略組”と言われる強い冒険者の方々はこれらのクランに所属しています。…王都フィリーアに関しての説明は以上です。なにかご質問はありますか?」
「分かりやすい説明ありがとうございます。えーっと、この街の運営は王様とか貴族の人達がしてるんですか?」
特に聞きたいことはないが質問をする。
とりあえず適当な質問をする。”細かいことが気になってしまうのが僕の悪い癖“ってヤツだ。
「…オルディネ公国の国政に関しては国王陛下と貴族達が中心になって政治を行っています。しかし、王都の運営になると、各ギルド長と大規模クランのリーダー達、郊外地区の代表者達も大きな影響力を持っています。なにか大きな議題があれば、彼らも政策決定の場に召喚されます。」
「なるほど。国王陛下は何歳くらいなんですか?」
「アルフレッド殿下は御年56です。王室にはヘレナ女王殿下とシェリナ皇女、ジーク皇子、シーナ皇女の3人のお子様がいらっしゃいます。他にご質問はありますか?」
フィオネさんは変わらず微笑んでいる。少しも表情を崩さない辺りにプロ意識を感じる。
…なんか特に意味もなく質問したのに丁寧に答えさせて申し訳なくなってきた。
「あとは…」
「はい?」
「この地図って貰えますか?」
「ええ、もちろんです。」
フィオネさんはそう言うと地図を丸めて渡してくれる。
受け取るときにふわりと良い香りがする。あぶない、貧乳好き《ミニマリスト》じゃなければクラっと行ってた。
「それでは、最後に魔石の換金ですね。」
「はい、お願いします。」
俺は昨日回収した魔石を懐から取り出す。
ちなみにAsari特製装備の懐はアイテムボックスと繋がっているという謎仕様になっていて、続々と魔石が机に並んでいく。
「…あの、これは全部お一人で回収されたんですか?」
「そうですけど…」
「あの、お名前を伺っても?」
…あれ、オレまた何かやっちゃいました?
というのは冗談で、多分だけど初心者っぽいやつが魔石を沢山だしたから疑ってるだけだと思う。
「夢空ハルです」
「ハルさんですね。もし今後も魔石を換金する際には私、フィオネのところに来て下さい」
「ん?それってどういう…」
「いいですね?」
「あっ、はい」
フィオネさんの圧に負けて俺は頷く。
なんか笑顔が怖い。というか、期待されても配信なしじゃ何にもできないのですが…
「それでは、こちらが報酬金になります。ドロップアイテム等もあればここで換金できますが、どうしますか?」
「今回は大丈夫です」
「そうですか。それでは、ありがとうございました。」
…暇つぶしの情報収集にしては情報量が多すぎた。
まあ、王都の地図は写真に撮って来栖に送りつけとくか。色々描いてあるし、考察民が喜ぶかもしれない。
「んーーー!!」
冒険者ギルドの外に出て伸びをする。
空はすっかりオレンジ色に染まり、陽が沈み始めていた。
「約束の11時までは時間があるし、ちょっと散策でもするか。せっかく地図もあることだしな」
俺は写真に撮った王都の地図をステータス画面に表示すると、行くあてもなく歩きだすのだった。
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