第3話 夢空ハル炎上対策本部緊急会議



「で、ブレーキが利かずに東雲マリアちゃんの分まで描いてしまったと」


「はい…」



私は今、志真ちゃんを部屋に招き、ハルくんと通話している。志真ちゃんのジト目が突き刺さる。でも、そんな表情もカワイイ。



「いや、そんな予感はしてたんだけどね」


「あはは、さすがハルくん」


「いや、そもそも俺としては明里ちゃんにお願いして新衣装を描いて貰ってる立場だから、感謝しかないわけだけど…」


「うん」


「まあ、バレたら炎上はしそうだよね。特にマリアちゃんのファン的には、俺はぽっと出の他所の男だから、そんな奴と推しのお揃いコーデは受け入れづらいんじゃないかな」


「そうだよね…」


「志真はどう思う?」


「うーん…単純な疑問なんだけど、あえて言わなければ気付かれなかったりしないのかな? それこそ、袖に桜の柄が入ってる着物なんて珍しくないし、お兄ちゃんの衣装だって椿のロゴさえなければ単純な新衣装として成り立つと思うんだけど」


「確かにそうかもな…」


「うん。新衣装が和服なのは有りがちな事だし、違和感はないと思う」



そう言って志真ちゃんは私の方に視線を向ける。私のことを気遣ってくれてるようで、少し心配そうに私を見つめる。



「明里ちゃん的にはロゴをなくすの、どう思う?」


「…私的には、ロゴをなくしちゃうのは嫌かな。マリアちゃんと同じ位置にロゴを配置するのは確かにあからさまだったとは思うけど、他の場所でもいいから残しておきたいかな」


「…だよね。俺的には、リボルバーの銃の側面が良いかなって思うんだよね。その位置なら紋章みたいになって違和感はないし、ちゃんと見ないと気付かれないと思うから、隠し要素としてはちょうどいいかなって」


「確かに‼ それだったら納得できるかも」


「良かった。じゃあ、そうしようか」


「うん‼」


「志真は他に気になるところある?」


「衣装については何もないというか、むしろ明里さんに感謝しかないんだけど…リリアちゃんに新衣装を和装で合わせられないか相談してみようと思う」


「リリアちゃんに?」


「うん。リリアちゃんって私と同い年だから、来年に成人式なんだよね。だから、2人の新衣装を着物で合わせれば、お兄ちゃんとのセットというよりは同期のリアリアコンビでセットってことにできると思う」


「…その手があったか」


「うん。これなら変に話題にならないと思うし、リリアちゃんに合わせるなら新衣装お披露目のタイミングもお兄ちゃんとズレるから、良いんじゃないかな」



こうして私達、夢空ハル炎上対策本部の結論は出た。


デザインを大きく変更しなくて良さそうなことに安堵しつつ、私の意見を尊重してくれた2人に感謝する。…ホントに良かった






3人での会議の数日後。

私は再びハルくんと通話をしている。



「新衣装が出来たのは良いんだけど、どうすればそっちに反映されるのかな? 特に変化とかないんだよね?」


「そうだね。アイテムボックスも特に増えてないかな」


「うーん…」


「ちなみになんだけど、今の装備のステータスとかって、どこまで明里ちゃんが決めたの?」


「私が決めたのは剣と衣装の名前だけだよ。あ、そう言えば、まだ名前また決めてないや」



私は衣装のイメージをもとに気になるワードをインターネットで検索していく。


…スーツはイタリアンマフィアのイメージで描いたからイタリア語が良いかな?

それで、リボルバーの銃は側面刻まれた“椿のロゴ”に関係する名前で、日本刀はハルくんとマリアちゃんの要素が入った名前がいいな。


そんなことを考えながら、それぞれの名前を設定する。私は三面図に横に新衣装と武器の名前を書き込んでいく。


衣装:ネッビア・ファミリア・スーツ

リボルバー銃:カメリア

日本刀:夢蜘蛛



「あ、アイテムボックスに装備が増えてる」


「え、ほんと?」


「うん。防具が1つと武器が2つ増えてる。明里ちゃん、何かした?」


「ちょうど新衣装の名前を考えて、三面図に書き込んだところ」


「ということは、装備や武器に名前がついた段階で、こっちの世界に反映されるっていう感じみたいだね。…これで明里ちゃんが描いてくれた新衣装が無駄にならないで済んだ。良かった。」



ハルくんは新衣装を確認しているのか、少しの時間黙る。

私は少しドキドキしながらハルくんのリアクションを待つ。



「凄くいい!! 明里ちゃん、ありがとう!!」


「ホント!?」


「うん!! 試しに今装備を着てみたんだけど、高級感があって凄く良い!! なんというか、流石だね、明里ちゃん!!」


「えへへ、気に入ってくれたなら良かったよ〜。でも、通話だと 新衣装来てるハルくんが見えないのは残念だね…」


「それは配信までのお楽しみってことにしよう!! …ちなみになんだけど、この装備と武器の名前ってどういう意味?」


「安直だけど、衣装は朝霞兄妹ってことで“霧の一族“をイタリア語にしてネッビア・ファミリア・スーツ。マリアちゃんのドレスはネッビア・ファミリア・ドレスってことにする!!」


「あはは、そういうことね」


「リボルバー銃は紋章の椿を英語にしただけ。日本刀は“夢空ハル“の夢と“東雲マリア”の雲を少し弄って蜘蛛にして、くっつけた夢蜘蛛。それに、蜘蛛の巣って悪夢を遠ざけてくれるって言うし」


「カナダでそういうお土産あるよね。うん、気に入ったよ。明里ちゃん、ホントにありがとう」



ハルくんの嬉しそうな声に、思わず私の口角も上がる。

あとは、新衣装のお披露目配信を待つのみ。



「それじゃ、明日のお披露目配信、楽しみにしててね」


「うん、楽しみにしてる!!」



そんな会話をして、通話を終える。


いつでも子供推しの新衣装お披露目配信前はドキドキする。そんな、なんとも言えない高揚感とともに、私は作業を再開するのだった。

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