第2話 動き出したペンは、止まらない!!
「うーん…」
液タブを前に私は宙を見上げる。
ハルくんの新衣装、どうしようかな…。
「とりあえず、今のハルくんは…」
私はPC画面に夢空ハルの立ち絵を表示させてみる。
白地に青と紺の装飾を施した和装に軽く結ってある白い長髪。
「分かりやすくイメージを変えるなら、やっぱり洋装だよね」
なら騎士風のスタイルが良いかもしれない。
だとすると武器は直剣だよね。日本刀も捨てがたいから、軍服風もありかも。
どっちにしても、髪はきっちり結んだ方がいいかな?
「う~~、なやむ…」
私は足を放り出して椅子ごとクルクル回転する。
何かモチーフになるものがあればいいんだけどな…
その時、天啓とも言えるアイデアが私に舞い降りてくる。
「思いついたっ‼」
思わず叫んでしまう。
私が思いついたこと、それは“東雲マリアちゃんとシンメになる衣装”というアイデア。
そうだ。せっかく正式に兄妹になったのだから、マリアちゃんと並んで対になるように見える衣装を作ればいいんだ‼ ちょうどマリアちゃんのイメージカラーは濃赤だから、色味的にも白と紺がイメージカラーの夢空ハルと合っている。
「うん、うん。良いかも‼ 私ってば、天才‼」
こうなれば、イメージをすぐに形にしたい。
私はさっそくラフを描き込んでいく。
しばらく経って、大まかなイメージが完成してくる。マリアちゃんの異世界ファンタジー風の上品なドレス衣装に合わせた洋装。
令嬢である妹をエスコートするような、貴族風の黒シャツに白いセットアップと金の装飾が施された濃紺のベストと外套。それに合わせた武器として、あえての日本刀とリボルバーの銃。
…リボルバーの銃とか、異世界だとズルかな?
「でも、リボルバーじゃないと辻褄が合わないっ‼」
もう、これは完全にこだわりの領域だ。
イメージとしてはイタリアンマフィアの若頭と御令嬢コンビ。
…あとは、ロゴとか?
「マリアちゃんの衣装に入ってるロゴをハルくんの衣装にも入れたいな…ってなると、やっぱり“赤い椿”のロゴだよね。ハルくんの方を“白い椿”にして対にするとかかな? そういえば、ハルくんの衣装にも“白い桜”の装飾を入れてたっけ」
そこまで考えて、私はさらに思いつく。
そう、ハルくんの洋装があるなら、マリアちゃんの和装があってもいいんじゃないか、と。
これなら兄妹揃ってどちらのスタイルにも合わせられる。…ここまで来たらもう止まれない。この際、マリアちゃんの新衣装も勝手に作ってしまえばいい。
「和装のマリアちゃん…どんなのが良いかな」
普通に考えるなら晴れ着スタイル。
だけど浴衣も捨てがたいし、なんならハイカラ風や和風メイドという手もある。
「ハルくんの衣装に合わせるなら町娘スタイルに羽織とか?」
風来坊で洒落た兄と生真面目な妹の和服コンビ。…悪くない。
しかも、マリアちゃんが洒落た羽織を着ることで兄の影響も感じられる。
ダメだ、もう止まれない。イラストレーターAsariのペンは、止まらない。
私は、今度は和服マリアちゃんのラフを描き始める。
気が付けば時間は夜の12時過ぎ。
…いつの間にか日付が変わっている。
私の目の前には洋装・和装で並ぶ2通りの兄妹のイメージイラスト。和装の2人の袖には桜が、洋装の2人の胸元には椿があしらわれている。
「で、できた…‼」
恐らくぶっ通しで10時間はイラストを描いていた。
ここからイラスト作成に三面図、細かい装飾、パーツの設定等々まだまだやることはある。
達成感と疲労と空腹が一気に襲ってくる。
放置していたスマホを確認すると、ちょうど志真ちゃんからチャットが来ていた。
[明里さん、もしかして私の新衣装とか描いてたりします?]
[え、なんで分かったの?]
[描いてたんですね…。お兄ちゃんから、もしかしたらって言われたんで確認です]
[ハルくんは何でもお見通しだね‼ マリアちゃんの方は私のAXで投稿するくらいにするよ‼ 私が勝手に描いちゃっただけだから、志真ちゃんは気にしないで大丈夫だよ?]
[もしよければ、イメージとか見ても良いですか? 実は、登録者10万人達成が目前ということで、事務所から新衣装の打診があったんです。]
[そうなんだ‼ でも、本当に大丈夫? 事務所の人に怒られたりしないかな?]
[同じくらいのタイミングで10万人登録達成できそうなリリアちゃんが新衣装が欲しいって言ってたんで、どちらにしても私も新衣装出したいなって思ってたんです]
[そーだったんだね‼ そしたら、立ち絵が出来たら一旦、志真ちゃんに見せるね‼]
[はい、ありがとうございます。]
志真ちゃんとのチャットを眺めて、私は口角が上がるのを感じる。
これは、もしかすると、本当に2人の新衣装が実現するかもしれない。
…でも、多分これ、ハルくんが炎上するよね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます