第16話 情報戦は始まっている


「はい、それじゃ今度こそルール説明‼ とりあえず簡単にまとめたシートはこちら〜。どんっ‼」



カグヤさんはそう言うと、1枚のPDFシートを画面に表示する。打ち合わせの時には見なかった資料だけど、かなり見やすくなってる。



「…もしかして、このシートってカグヤさんが作ったんですか?」


「ん? そうだけど…見づらかった?」


「いえいえっ!! 凄くまとまってて見やすいなって」


「ふふふっ、これでも社畜経験者だからねっ!! この程度なら簡単にできちゃうのですっ!!」


「……カグヤ先輩、コメントで”18歳(設定)“って煽られてますよ…」


「………さ、シートを見ていきましょう!!」


「スルーしたっ!!」



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《バーチャル ペロポネソス戦争》


●開催日:20XX年○月○日(日曜日)

●開催時間:15:00(サーバーログイン 14:30~)


●本配信枠:ポリス・ウォーズ公式チャンネル

●実況:赤城カナタ(ミディアックス所属)


●参加ライバー

ポリス・アテナイ

織音ベル(ミディアックス所属)

真琴リン(ミディアックス所属)

美弦スズ(ミディアックス所属)


ポリス・スパルタ

星織カグヤ(Alia:ReLive所属)

東雲マリア(Alia:ReLive所属)

一宮リリア(Alia:ReLive所属)


●視聴者参加

視聴者参加型(各ライバーの視聴者100人まで)

ライバーは1人当たり兵士101人+視聴者の指揮

スパルタ:視聴者1人当たり兵士10人

     合計:ライバー303兵+3,000兵

アテナイ:視聴者1人当たり兵士15人

     合計:ライバー303兵+4,500兵

視聴者は4色(赤・青・黄・緑)に色分けされており、ライバーはその単位で指示(例:カグヤの赤兵)


●バトルフィールド

地上(スパルタ側の戦闘力×1.5)


海上(アテナイ側の戦闘力×1.5)

⇒アテナイは兵士数×海上戦バフで、海上においての実質の戦闘力はスパルタの2.25倍)


拠点(防御側の戦闘力×1.5)

⇒スパルタは地上戦バフ×拠点防衛バフで、拠点防衛においての実質の戦闘力はアテナイの2.25倍)


●勝敗ルール

敵の拠点を全て占拠した場合、敵の兵士が全滅した場合、勝利とする。

3時間で拠点の多い方を勝利とする。拠点が同数の場合は兵士数の多い方を勝利とする。

攻城戦において両者全滅した城は先に拠点に入城した方が占領したこととする。


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一通りカグヤさんお手製のシートを確認した私は、チラッとコメント欄に目を向けてみる。



【これ、めっちゃ不利じゃね?】


【拠点取らないと負けるのにウチが拠点攻める時はむしろ不利という】


【それな。防衛のときに両方バフ掛かるなら兵士が1.5倍のミディが断然有利】


【ぶっ壊れた環境じゃねーかww】


【なに?運営はミディアックスから賄賂でも受け取ったんか?】


【本枠の実況もミディのカナカナだし】


【てか、赤城カナタ実況で使うんなら参加させて欲しかったわ】


【わかる。カナカナってカグヤに10戦全敗した因縁あるし、普通に見てみたい】



やっぱり視聴者さんも不利だと思うよね。正直、私もそう思った。


ただ1つ、たった1つ、“この戦争に星織カグヤが参戦する”という要素だけを除けば、たけど。



「とりあえず大事そうな箇所はこんなところかな〜。まあ、なんとか勝てそうだね」



なんとなく重くなった空気の中で、飄々とカグヤさんが声を発する。



「…カグヤ先輩?私的には結構不利だと思うんですけど」


「リリアもそう思うけど、カグヤさんがいるし勝てるんじゃない?」


「ふっふっふ、その意気だよリリアちゃん!! なんてったって今回の環境設定は運営の担当者が“これくらいしないと互角にならないやろ”ってことで決めたらしいからね!!」


「それはそれで特別扱いが過ぎると思うんですけど…」


「マリアちゃんも、がんばろーね」



事務所に所属しているVtuberも機会があれば他事務所のライバーさんとコラボすることはある。


大体は対戦プレイすることが多いコラボの中で、カグヤさんはミディアックスのVtuberさん相手に無類の強さを誇ることで界隈では有名になってる。



“ミディアックスの天敵”



相手のファンからそう呼ばれて恐れられているカグヤさんは、これまでのコラボ全ての対戦でミディアックス所属のライバーさんに勝ち続けている。


…まあ、“推しの悲鳴ボイス作製職人”としてミディアックスのファンの人に感謝されることもあるらしいけど。



「そうは言っても今回の環境だとできることも限られちゃうね」


「そうですね。何もしないと相手の勝ちたから、ウチとしては拠点を取らないとですね」


「だけどマリア、1対1で拠点攻めたらリリア達が負けるわよ?」


「うん。だから、攻めるなら2人で攻撃するか、兵士を借りて攻めるしかないかな…ってカグヤ先輩はなんで黙ってるんですか?」


「いや、後輩の成長が嬉しいなってね。」



そんな事を言いながらカグヤさんはウンウンと頷いてる。…なんだが視線が生暖かい気がする。



「まあ、マリアちゃんが言ってくれた通り、私も開戦一番に2人で1人が守ってる拠点を落としちゃって、そのまま逃げ切るのが正攻法かなって思うな」


「それなら、マリアの作戦で行く?」


「いいですか?カグヤ先輩」


「いいと思う!! でも、もしミディの子たちが拠点に攻めてきたらどうする? 私とマリアちゃんが出撃しちゃったら拠点が取られちゃうかもしれないよ」


「そうですね…相手からみて手前にある私の拠点にカグヤさんの兵士の半分に守ってもらって、リリアちゃんと私で相手の拠点を挟み撃ちする、とか?」


「うんうん、それがいいと思う。マリアちゃん、策士だねえ」



カグヤさんがニマニマと笑う。


その後は作戦を考える私達をカグヤさんが満足気に見守り、それを視聴者さんが見守る配信になった。



「それじゃ、作戦会議はこれくらいで良いかな。いや〜2人ともお疲れさまっ!!」


「なんか、すっごいアタマ使った…」


「あははっ、リリアちゃん、疲れてるね〜。でも、きっと勝てるよ。」


「はい…」


「リリアちゃんが素直になってる…」


「マリアっ!! それどういう意味?」


「別にリリアちゃんがホントは素直で優しくてカワイイって思ってなんてないって、ことだよね〜マリアちゃん?」


「カグヤさんっ!!」


「そうですね。それでは皆さん、おやすみなさい〜」


「マリアっ、逃げるな〜」



▲ ▽ ▲



«〜♪»



配信終了後、寝ようとしている私のスマホからDiscordの通知音が鳴る。



「誰からかな…って織姫おりめさん?」



スマホを見ると織姫おりめさんからチャットが届いていた。メッセージを読んで、思わず悪い笑顔が浮かんでしまう。



「…やっぱり“ミディアックスの天敵”の名前は伊達じゃないってことなんだなあ」



ベットで仰向けに寝ながら、私は無意識に上がる口角を必死に下げて眠りにつくのだった。


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