第9話 深夜のダンジョン攻略は、視聴者と共に



ダンジョン前に到着する。

昼間はあれだけ混み合っていた入口前の広場は、今は閑散としている。



「ホント昼と比べると考えられない静かさだな」



…それじゃ、始めるか。

ステータスを開いて配信開始ボタンをタップする。



カウントダウンが始まり、配信が開始する。



〘●Live〙



「こんばんは‼ 本日2度目の夢空ハルです‼」



俺が画面に向かって手を振ると視界の端でコメントが流れ出す。この数日間を通して見慣れたアイコンもちらほら見かける。



「お、配信始めたばっかなのにコメントが多い。これはスタッフ君の告知のおかげかな? サンキュー、スタッフぅ‼ あと、視聴者さんも毎度来ていただいて、ありがとうございます‼」



【告知、万全です】@夢空ハル


【ぐう有能】


【スタッフくん切り抜き死ぬほどアップしてるし、なんなら戦闘シーン集まで作ってる。】


【スタッフくんはもっと褒められるべき】


【社会人兼業でスタッフしてるという事実】


【それに比べてケモミミ姉妹におんぶにだっこの夢空さん】



「あれ? 知らない間にスタッフ君の好感度が爆上がりしてるんだが。やめろ、俺が異世界でのんびりしている間にスタッフが汗水かいて働いてるとか言うな‼ てか、俺に言わないで戦闘シーン集とか作ってるん? いや、働き過ぎやろ。」



【すべては夢空ハルの為に】@夢空ハル


【これは…これはデキてる‼】


【ハル×スタ? スタ×ハル?】


【お姉さま大歓喜】


【男の子は男の子同士で恋愛すべきだと思うの】


【そう言えばサラちゃんとリアちゃんは?】



…なんかコメント欄が変な方向に向かっとる。

軌道修正しなければ。というか早くダンジョンに入ろう。



「あー、なんか目が擦れてコメントが見えないなー。ちなみに、今回はサラ&リア姉妹はいません‼ 期待していた視聴者さん、すいません‼ 今回は後ろに見えるダンジョンに1人で入ってみるって感じです。ケモミミ要素はないですが、まあ、助けると思って付き合ってくれると嬉しいです‼」



【ハルくんが1人の回も楽しみ‼】@Asari


【Asariママ、昼の配信もいたよねww】


【お前もいた定期】


【確かにAsariママの参戦率は異常w】


【夢空、相当気に入られてるよな】


【異性カプ厨はハル×アサを推せと?】


【いや、普通にハル×サラだろ】


【夢空ハル×東雲マリアの可能性も微レ存】


【炎上するからやめてやれwww】



コメント欄は見えているが絶対反応しないようにしよう。

てか、明里ちゃんに関してはいつの間にか“ハルくん”呼びになってる。夢空ハルだから問題ないんだけど、もしかして最初からそのつもりで俺のアバターに名前付けたりした?



「んじゃ、コメ欄でみんなが乳繰り合っている間にダンジョンに入りまーす。昼の配信見てくれた人は知ってると思うけど、昼間はスクランブル交差点くらい人がいたのに、この時間だとマジでたまに数人がダンジョンから出てくるぐらいしか人がいないのな。」



俺は軽口を言いつつ、大剣を抜く。

そのままの足取りでダンジョンの入口となっている巨大な門を潜る。



「…ホント、デカいよな。門だけでも5mくらいあるぞ」



【バビロンの青い門に似てる】


【なにそれ】


【“イシュタル門”で検索】


【↑昼もコメ欄にいたよねw】


【世界の遺産に詳しいんやな】


【調べたけど確かに似てるわ。そう言えばダンジョン名になってる“バベルの塔”もバビロンに伝わる伝説だから、何か関係があるのかも】


【ついに考察厨まで出てきたw】



…コメ欄で便利だな。知らん情報がわんさか出てくる。


どっかの配信者さんが視聴者さん達のことを「集合知システム」って言ってたけど、あながち間違ってないのかもしれない。



デカい門の先は広い洞窟のようになってた。雰囲気的には最初に転移したダンジョンに似ている。遠くにオーク数体の姿が見える。うん、最初はこんなもんだろう。



「よっしゃ、今日も元気に戦闘しよう。面白かったらガンガン拡散してくれよな‼」



俺はカメラにサムズアップして笑う。

そして、次の瞬間には奥に待ち構えるオークに向かって駆けだしていた。







ダンジョンに潜って約2時間後。

俺はダンジョン5層にある水に沈んだ神殿で休憩をしていた。



「ひゃー満足、満足。正直ここまででお腹いっぱいだわ」



倒れた白い柱に腰掛けて水を飲む。

5層はいわゆる安地になっておりモンスターが出現しない。



「ここまでの感じだと5層分で1セットって雰囲気がするな」



1層ではオーク、ゴブリン、スケルトンが出現した。


そして2層ではそれぞれの種族の上位種と思われるオークソルジャー、ゴブリンソルジャー、スケルトンソルジャーが出現、3層では更に上位種であるオークジェネラル、ゴブリンジェネラル、スケルトンジェネラルが出現し、4層でそれぞれの最上位種と思われるオークキング、ゴブリンキング、スケルトンキングが出現した。



「4層まで戦って、5層が安地だもんな。1セットごとに登場する種族が変わるって考えるのが自然だよなあ。それにしても、やっぱ同接多いと戦闘が楽だわ。正直、時間はかかったけど、ここまで苦戦はしなかったもんな」



【たしかに苦戦はしてないねw】


【1層当たり30分だと思ったよりも時間使ってないのか】


【マッピングにガチってなければもっと速かった】


【まさかリアル攻略で隅々まで回ると思わんかった】


【夢空、A型か?】



「いや、ゲームとかでも全部確認しないと気が済まないでしょ? ぶっちゃけ敵が弱かったから安心してマッピングできたって所はあるかも。この同接数があるうちにマッピング終わらせちゃおっかなって。というか、ちょっとぉ!? 言った傍から同接減るのやめてもらえません?」



【だって苦戦してるとこ見たいし…】


【#休んでないで戦え】


【可愛い子には意地悪したくなるんだよ】@Asari


【普通に戦闘シーンは見ごたえあるよね】


【わかる。他では絶対見れないコンテンツ】


【ちょっと風呂入ってくるから20分後ぐらい経ったら次の層行ってくれ】



「なんで俺が視聴者さんの風呂待ちせなあかんの? でも、確かにそんな感じもアリなのかもしれない。ぶっちゃけ戦闘シーンだけ見たい視聴者層も絶対いるよな。明らかに他の配信より同接多いし。まあ、30分くらい待ってるから、のんびり風呂入ってきてください。他の人もトイレ休憩してきていいからね」



【結局待つんかい】


【視聴者の風呂を待つ配信者】


【やさしい】


【雑談も付き合うぞ】


【戦闘シーンとかだったら海外層も取り込めそうだよね】


【なんだかんだで2時間ぶっ通しで戦ってるからな】


【で、血液型は何型なん?】@夢空ハル



「え、そんなに血液型気になる? 傍から見ると自分で自分に血液型聞いてる状況だよね、これ。隠すほどのことじゃないから答えるけど、O型です。父親A型の母親O型で俺と妹がO型って感じ。ちな、スタッフ君は何型なん?」



【A型かと思ったわ】


【マッピングへのこだわりは完全A型の血が出てた】


【AB型です】@夢空ハル


【確かに雰囲気はO型な感じもする】


【スタッフ君もちゃんと答えとるww】


【私はB型です!!】@Asari



「いや、Asariママには聞いていないというか、知ってたというか。あなた、性格的に絶対B型って感じがするもん。スタッフ君のAB型に関しても何となく想像ついてたわ。ちなみにAB型って器用貧乏タイプか万能天才タイプって言われるけど、スタッフ君に関しては圧倒的後者なんよね。何となく視聴者さんも勘づいてると思うけど、マジもんの有能だから、この人」



【なんだよ、照れるじゃねーか】@夢空ハル


【やはりハル×スタだな】


【お姉さま達もこれにはニッコリ】


【なんか当て馬にされた気分…】@Asari


【Asariママもずっといるなww】


【ハル君とスタッフ君はどんな関係?】



「俺とスタッフ君は会社の元同期だな。まあ、俺が異世界に来ちゃったから元なんだけど。お人好しのスタッフ君に現実世界で色々手伝って貰ってるって感じ。AXのポストとか、切り抜き作成とか、モデレーターとか。てか、スタッフ君、チャンネルの収益化とかってどうなってるん?」



【ここで会議始めるなよww】


【流石に明け透けすぎん?】


【まあ大手Vも収益化記念配信とかしてるし、多少はね?】


【条件は行ってるけど申請してない】@夢空ハル


【スタッフも答えるなww】



「あー、確かに。今の俺達のチャンネルに投げ銭したところで俺に金が入る訳じゃないもんな。こっちの世界に影響がないなら俺にとっては収益化してるかなんて関係ないもん。どっちかって言うとスタッフ君に投げ銭する感じになるよな」



【スタッフ君に投げ銭ができるだと!?】


【投げさせろ】


【収益化はよ】


【札束で殴らせろー‼】@Asari


【今すぐ申請するんだ、スタッフぅ‼】



「なーんでスタッフ君こんなに人気なん? 何なら俺より人気あるやろ。この世の中、やはり顔なのか?実際のところスタッフ君は割とイケメンだし。まあ、収益化のタイミングは任せるよ。俺にとっては、この世界でレベリングするくらい無意味なことだし。」



【どゆこと?】


【レベリングが無意味なん?】


【あー、たしかに】


【説明求ム】


【隠れステータスとか無いの?】



「あれ、意外と伝わってない? 俺のステータスってHPがチャンネル登録者数で攻撃力と防御力が同接人数が反映される仕様になってるから経験値貯めたとしても意味がないんだよね。そもそも経験値とかって概念があるのか知らんけど。隠れステータスに関しても、分からないとしか言えないな」



配信画面を意識して神殿をうろつきながら視聴者たちのコメントと会話する。


異世界に来てからガッツリとコメ欄と会話するタイミングがなかったから意外と貴重な時間なのかもしれない。流れるコメントの多さからチャンネル登録者の増加を実感する。



「っていうか、そろそろ30分経った? 入浴ニキは帰ってきてる?」



【とっくに帰ってきてるぞ】


【マジで風呂待ちしてたんかww】


【#休んでないで戦え】


【まだ戦うん?】



「モチのロンで戦う。配信始めたのが8時位で今が10時半だから、あと2時間は行けるかな。同接落ちてきたら終わろうかなって感じ。まあ、寝落ちするなら配信はつけっぱでオナシャス‼」



【5時間コースで草】


【こいつも大概狂ってるよな】


【恩着せがましくて草しかはえん】


【雑談タイムは終わりか】


【また無限マッピング編が始まるんか】



…なんとなく視聴者がダレてきている感がある。

ちゃっちゃか6層に行ってしまおう。なんか配信のスパイスになるものあると良いんだけど。



「んじゃ、6層行くか‼ 視聴者の皆も付き合ってくれよ‼」

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