第27話 コラボ前夜の兄妹の戯れ


東雲マリアによる兄妹カミングアウト配信から2日後。俺達は翌日の兄妹コラボ配信の告知を投稿した。


視聴者の不信感を取っ払うには、実際に話している所を見てもらうのが手っ取り早い。ならば善は急げということで、カミングアウトの3日後にコラボ配信をすることになった。


…そして今、俺達兄妹は翌日のコラボに向けた打ち合わせの真っ最中である。



「…で、告知したは良いけど、コラボ配信何する? ディスコ繋げて話すくらいしかできないよね」


「雑談とかでいいんじゃないかな。なんならもう質問募集しちゃったよ?」


「やっぱり、そうするしかないよね。ゲームコラボとかできる訳じゃないし、そうなるよね。ちょっと志真の幼少期エピソードをメモに書き出しておくわ」


「…お兄ちゃん、絶対に配信で私の本名言わないでね。身バレ、ダメ絶対。」


「そうだよね。何て呼べばいいと思う? てか、志真はなんて呼んでほしいの?」


「普通に“マリア”でいいんじゃない?」


「あー」


「不満?」


「いや、いきなり名前呼びは反感買いそうだなーって思って。でも“マリアちゃん”呼びだと、それはそれで変な感じもするというか…」


「うーん…私は名前呼びでいいと思うけど」


「うーん…」



2人して考え込んでしまう。



「例えばだけど、配信の最初に呼び方決めるくだりをやっちゃうのはどうかな。そうしたら、流れで名前呼びになっても、視聴者さん達は違和感を感じないと思う。」


「なるほどね。流石はマイシスター。賢い」


「…絶対にその呼び方も止めてね? あと、配信者の先輩として褒めて欲しかったな」



…この反応ならマイシスター呼びは大丈夫そうだな。コラボ配信の中で1回は言ってみよう。



「それで、配信自体は質問に答えつつ雑談って感じでいいの?」


「そうだね。後はコメントに反応しつつ、まあ良い感じにやろう。お兄ちゃん、そういうの得意でしょ?」


「…志真は呼び方変えないでいいのズルいな。まあ、それは置いといて、コラボ配信の枠は東雲マリアのチャンネルだけでいいよね?」


「え、お兄ちゃんは配信しないの?」


「だって、俺の顔が映って代わり映えしない配信ってどうなの?」


「…お兄ちゃん。Vtuberの雑談配信って、そういうものだよ。というか、まさかとは思うけど自分の今の容姿が夢空ハルのアバターだってこと、忘れてないよね?」


「…おっしゃる通りでした」



そう言えばそうだった。

ずっと戦闘や王都観光を配信してたから忘れてたけど、もともと配信ってPCの前に座ってやるものだったわ。てか、すっかりゲスト気分でいた。後で来栖に連絡しとかないといけない。



「それじゃ、お兄ちゃんの方も枠は立てるってことで、面白いコメントがあったらお互いに拾いあう感じにしよう。…絶対に明里さんはコメントしてくると思うし」


「それはそうだな。なんなら2窓して俺達両方にコメントしてくる気がする」


「あはは、やってそう。そう言えば、明里さんにお兄ちゃんの立ち絵貰わなくちゃいけないの忘れてた。あとで明里さんにチャット入れとこ」


「立ち絵?」


「うん、配信中にコラボ相手のイラストを表示させとくの。あれ、知らなかった?」


「知ってはいたけど、忘れてた。今思うと、そういう準備とかがあって俺が見ていたVtuber達のコラボ配信って成り立ってたんだな。打ち合わせとかも、大変なんだな。」


「慣れちゃえば、そうでもないけどね。あとは、相手とかにもよるけど。お兄ちゃんって、今まで他の人とコラボしたりとかしなかったの?」


「ないない。なんなら今も、自分の妹相手にちょっと緊張してるから」


「ふーん、そーなんだ。じゃあ、私がお兄ちゃんの初めてなんだね」


「…志真さん? その言い方危なくないですか?」


「ふふふ」



その後も打ち合わせは和やかに進んでいく。

最初は炎上を気にしていたが、せっかくのコラボを楽しみたいと思えてきた。



「それじゃ、明日よろしくね」


「おう。視聴者さん達が楽しんでってくれると良いな」


「そうだね。もちろん、私達も楽しもう?」


「流石、有名Vtuberさんは違うね。…俺達も全力で楽しもう。それじゃ、おやすみ。」


「うん、おやすみ、お兄ちゃん」


「…」


「…」


「あれ、通話切らないの?」


「…もう一回“おやすみ”って言って」


「はいはい。…おやすみ、志真」


「うん。おやすみ、お兄ちゃん」



通話が終了する。


さあ、俺も寝よう。

明日が楽しみだ。


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