第19話-ⅳ 動揺とハイライト(真琴リン視点)


「…スズちゃん」



全参加者に流れた通知を見て私、真琴リンは唇を噛む。


こんなことなら戦力を預けたままの方がよかった。もはや取り返しのつかない考えがよぎるのを抑えつつ状況を整理するために揺らぐ気持ちを落ち着かせる。



≪実況の赤城カナタですっ‼ 既に通知された通り、東側の大陸で戦闘が発生し、美弦スズちゃんの防衛するアテナイの拠点Ⅲが陥落しました。それでは、戦闘のハイライトです。どうぞっ≫



カナタさんの音声が流れたと同時に、ハイライトシーンが放映される。


ハイライトの間は参加者全員がゲームを操作ができないみたいで、ゲーム画面にスズちゃんと一宮リリアさんの戦闘シーンが流される。



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≪あははははっ‼ スズ、待ってなさい‼≫



スズちゃんの拠点にリリアさんの軍勢がなだれ込んでいくのが俯瞰で見える。一点攻勢に拠点の防衛ラインが崩壊し、スズちゃんの軍勢も戦闘に入る。



《じわじわと、しかし、確実にスズちゃんの兵士が減ってきています‼ 状況は厳しいです‼ では、ここで戦闘中の2人の通話を繋げようと思います。それでは、どうぞっ》



カナタさんの実況が入り、スズちゃんとリリアさんの回線がつながる。


その間にも戦闘は加速し、リリアさんの軍勢が続々と拠点に入っていくのが見える。



《はーい、一宮リリアでーす》


《…っ、美弦スズです。リリアさん、やってくれましたね》



結果が分かったうえでハイライトを観るのは結構キツイ。…それでも見ざるを得ないし、今は私達のかわいい後輩の散り際を確認しなければ。



《あはは、スズも先陣が切れて良かったじゃない。逃げないわよね?》


《…逃げません。1人でも多く兵士を倒して、叶うなら貴女と刺し違えますっ》


《…そう?偉いじゃない。それに、スズって意外と熱いのね。ちょっと気に入ったわ。今度コラボしましょ》


《”アリアリ3期生のヤベーやつ”に気に入って貰えたなら良かったです。》


《それで煽ってるつもり? あいにくだけど私は簡単に煽りに乗るようなタチじゃないのよ。それより私と刺し違えるんでしょ?拠点に籠ってないで出てきなさいよ。まあ、ウチのお馬鹿達の壁を通り抜けられるかは分からないけど。》


《…っ‼ 今行きますから。あと、コラボはしてください。》


《したたかな所もあるのね。ますます気に入ったわ。せいぜい悪あがきを見せてちょうだい。》



2人の会話が終わり、戦闘がさらに激化する。

スズちゃんも開き直ったのか、拠点の外に出撃して敵を押し返そうとするけど、倍はいるリリアさんの軍勢を相手に劣勢は覆せない。じわじわとスズちゃんの兵士が減っていく。



《一人でも、一兵でも多く、倒して散りますっ。皆さんも付いてきてください‼》



カットインで流れるスズちゃんはいつもの大人しい彼女とは全く別の姿だった。


颯爽とスズちゃんのアバターが拠点から出撃して、遥か先のリリアさんの本陣を目指す。


なんか、真田幸村の最期みたい。



《あははははっ、スズったら本気ね‼ ここまで届くか、見ものだわ。アンタたち、せいぜい私を護りなさいよ。》



自分を護る兵士を掻き分けて進むスズちゃんを見てリリアさんが高笑いを上げる。


スズちゃんが気迫でリリアさんに迫る。


だけど、1人倒れ、また1人倒れ、最後にはスズちゃんだけになり、余裕といった表情で戦場を見つめるリリアさんの前で、遂にスズちゃんが力尽きた。



《みんさん、最後に1人まで、戦ってください。》



スズちゃんは最後の指示を出して斃れる。

スズちゃんの視聴者さんも後を追うようにリリアさん軍に突っ込んで、そして倒れていく。


まさに最後の指揮通りスズちゃんの兵士は全滅し、リリアさんの手によって拠点は陥落した。



《赤城カナタです‼ リリアちゃん、戦闘お疲れさまでした。ここで最初の戦闘の勝者から、ひとことお願いします‼ ちなみに、これは全プレイヤーに流れるのでっ》


《…一宮リリアでーす。と、いうことで、スズちゃんの首は私、一宮リリアが取りました。ミディアックスの視聴者さん達も、悔しかったら私のとこまで来なさいな。相手してあげる。あっ、ベルさん、リンさん、お手柔らかにおねがいしまーす。》


《…はい、ありがとうございます。一宮リリアちゃんでしたー‼》


《ありがとうございましたー》


《それでは戦闘ハイライトはここまでですっ‼ 現状、拠点数はアリアリが4拠点、ミディアックスが2拠点。兵士数はアテナイの方が多いです‼ まだまだ戦争はここからっ‼ みなさん頑張ってください‼》


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ハイライトが終わる。


モヤっとした感情とスズちゃんから兵士を返してもらったことへの後ろめたさが、ぐるぐると胸の中を駆けまわって、少し胸焼けした気分になる。


…どうしよう。



《リンちゃーん》


「はい。ベルお姉様」


《やり返さないとね》


「...そうですね。私も、視聴者さんも、このまま黙っている訳にはいきませんから。」


《そうだね~。でも、取られた拠点を攻めるのは対策されてる気がするんだよね~》


「現状、兵士数は私達の方が多いはずですし…どこかの拠点は取り返さないと…」



単純計算で、最初の戦闘でお互いに600人ずつ兵士が減っているなら、アリアリは2703兵、ミディアックスは4202兵で拠点は減っても、むしろこちらの方が有利なのだ。



《…そう言えば、出撃していたはずのマリアちゃんの軍隊はどこにいるんだろ》


「…確かに。【偵察】で確認しますね。」


《あれ、リンリン【偵察】使ってなかったっけ?》


「…使うのがもったいなくて、目視で見に行ってたんです。」


《そーだったんだ。リンリン、大胆だねえ》



私は【偵察】メニューを使用して、東雲マリアさんの状況を確認する。…自分の拠点に戻っているか、それとも、こちらに攻めてきているか。



「え?」


《どしたの?リンリン》


「東雲さんですけど、ちょうど私達の真横の海を北に進んでいます。」



ーーーーーーーーーーーーーーーーあとがきーーーーーーーーーーーーーーー

久しぶりの更新です。遅くなり申し訳ございません…

いつも読んでいただき、本当にありがとうございます。


楽しんで頂けた方は作品ページ下部の★★★で評価して頂けると幸いです‼もちろん、感想もお待ちしています‼ コメント感覚で気軽にご意見下さい。


それでは、次の更新で。

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【#異世界V】ド底辺Vtuberの俺、気づけば異世界に飛ばされてた件。仕方なく異世界から配信をしているだけなのに、有名女性Vtuber達からのコラボ依頼が舞い込むのは何故ですか? 梯子田カハシ @noblesseoblige1231

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