第15話 シーナ・オルディネは公国第三皇女である



時刻は夜の10時45分。

俺がダンジョン前の広場に着くと、既にサラとリアが待っていた。



「おーす、2人とも早いな」


「まあね。別にあんたと会いたかったわけじゃないけど、シーナちゃんに会ってみたかったから。それに、ハルも10分以上前にここに来てるじゃない」


「お姉ちゃん、素直じゃない」


「リア? 何か言った?」


「ナニモイッテナイ」



…リアもだいぶ躾けられているようだ。あと、口笛吹けてないぞ、リア。

サラもサラで随分とリアのからかいを躱すのが上手くなってきている。



「なら良かったわ。それで、シーナちゃんは? てっきり、あんたと一緒に来るんだと思ってたんだけど。ここで待ち合わせにしてるの?」


「いつもここで待ち合わせなんだ。普段通りならそろそろ来ると思うけど」


「そうなのね。いつもって言っても何回か一緒にダンジョン探索したくらいなんでしょ? 確かに、そうしたら2人で一緒に来るのも変よね」


「ソ、ソウダネ」


「お姉ちゃん、ハルが嘘ついてる」


「そうなの、ハルくん?」



…最近サラのこの笑顔をよく見る気がする。

いや、全然やましい事なんてないから良いんだけど。



「いや、2人とフィオネさんと遭遇した日から毎日ダンジョン探索してるだけだよ」


「え? 毎日? 2人で?」


「うん」


「…エッチ」



リアさん!? なんでジト目で見てくるんですか!?

そしてサラはなんでそんな愕然としたような表情をしてるんだよ。



「あんた…ちゃんと説明しなさいよ…」



なぜかサラが睨んでくる。ホントになんでや。

そしてリアはリアでなぜかサラの背中を擦っている。






そこから待つこと20分、なかなかシーナが現れない。

仕方なく配信だけ先に始めることにして、シーナ待つことにした。



「こんばんは‼ 夢空ハルです‼ 今日はいつもと趣向を変えて、ハルシーナの2人探索にサラ&リア姉妹が来てくれました‼ …とは言っても、まだシーナちゃんが来てないんだけどね。てことで、とりあえず、サラとリア、自己紹介をお願いします‼」


「…なんか、この感じ、久しぶりね。サラです」


「リアでーす‼ 見てるー?」



…この姉妹も相当カメラにも配信にも慣れたよな。

俺はコメントが見えているが、反応のないカメラ相手に良く付き合ってくれている。



【きちゃ‼】


【こんばんはー】


【久々のサラちゃん&リアちゃん‼】


【かわいい】


【リアちゃーん、見てるよー‼】


【なんだか懐かしい感じだな】


【いうて1週間くらいしか空いてないけどなww】



俺達に反応してコメント欄が流れ出す。

来栖や明里ちゃんの宣伝もあって最近は配信開始まで待機してくれている視聴者さんも増えているようだ。おかげで配信序盤でも無理せずにそこそこ戦えている。本当にありがたい。



その時、シーナちゃんらしき人影が近づいてくるのが見える。

なぜかフードを被っているが、体格と装備的にシーナで間違いないだろう。



「お、ちょうどシーナもきた。あれ? なんでフード被ってるんだろ?」


「ホントだ。シーナちゃんに会うの楽しみにしてたのに」


「ドキドキ」



呑気に会話しながらシーナを待つ。

フードを少し上げて俺達に気付いたシーナが駆け寄ってくる。



「こんばんは。お待たせして、申し訳ございません」


「いや、俺達も来たばっかりだから大丈夫だよ、シーナ。」


「え? 私達はずっ…」



サラがとっさにリアの口を塞ぐ。ナイス判断。

やはり気遣いのできる姉は一味違う。



「あはは。アナタがシーナさんね? 始めまして、私はサラ・リオンよ。“赤鷹の嘴”に所属している冒険者で、この子が妹のリア。よろしくね」


「リアです。よろしく~」


「サラ様とリア様ですね。シーナと申します。よろしくお願いいたします。」



シーナがお上品に頭を下げる。

あいにくフードのせいで違和感しかないが。



「それで…フードは外さないのか?」


「ハル、これには深い事情があって…」



なぜかシーナがフードを被ったままモジモジする。

てか、それじゃ前見えないだろ。完全に視界が塞がれているようにしか見えないのですが。



「でも、それじゃあダンジョン探索できないんじゃない?」


「それもそうなのですが…」


「もしかして、私達が信用できないとか?」


「いえ‼ そんな訳では‼ むしろ、お二人はせっかく誘っていただいたのに……うう、分かってはいたんです。こうなってしまっては仕方ないですね…」



シーナは渋々という感じでフードを降ろして顔を見せる。

俺も少しドキドキしながら待つが、現れたのはいつも通りのシーナだった。



「なんだ、シーナ。驚かせないでよ。いつも通りじゃん…って、え?」


「ハル…ごめんなさい…」



俺が呑気に話しかける横でサラとリアが固まっている。

それも口をあんぐりと開けて。表情の薄いリアがこんなにリアクションするのは初めてかもしれない。



「す…すみませんでしたあっ‼」


「え?」


「ご無礼をお許しください‼ シーナ皇女殿下‼」


「え? シーナが皇女? 殿下?」



サラから発された言葉に今度は俺が固まる。

あー、そういうことね、完全に理解した。(わかってない)



【へ、マジ?】


【うーわ、マジかww】


【何となく察してた】


【↑それな】@夢空ハル


【マジか、確かにお上品とは思ってたけど】


【確かにお忍びじゃなきゃ夜に1人でダンジョンなんか潜らないよね】


【可愛くて、強くて、皇女とか、最強かよ‼】@Asari



…コメント欄の方が当事者より察しが良いの、やめてくれません?

てか、来栖に関しては察してたなら教えろよ‼ タイミングは幾らでもあっただろ‼



「ハル…黙ってて、ごめんなさい」


「いや、確かに驚いたけど…まあどこかの御令嬢かなとは思ってたから。まさか王族のお姫様とは思わなかったけどね。シーナ、本当なの?」


「はい。私の名前はシーナ・オルディネ。オルディネ公国第三皇女のシーナで間違いありません。」


「そうだったんだ」


「ハル、怒ってますか?」


「いや、ホントに驚いただけ。むしろ、色々な疑問が繋がって納得してる」



俺とシーナが話しているとサラが俺の足を蹴ってくる。

頭を下げながら俺の足蹴るとか、案外サラのやつ、器用だな。



「あんた、何さっきからシーナ殿下にタメ口叩いてんの。殺されたいの?」


「とは言っても、これで慣れちゃってるからな」


「えへへ」



シーナが苦笑いを浮かべる。まあ、ハプニングと言えばハプニングだが、大したことではない。

むしろ配信にハプニングは大歓迎です。今もコメント欄の勢いが凄いことになってるし。



「それで、今日は何層から探索する? いつも通り6層からでいい?」


「へ?」


「なんでシーナが驚いてるのさ。今日は4人でダンジョン探索するんだから」


「…いいのですか?」


「良いも何も、最初からそのつもりだったんだから。サラリアもそうだろ」



俺がネコミミ姉妹を見ると、2人も驚いたような表情を浮かべている。

いや、気持ちは分かるけど。俺だってここで配信を終わらせる訳にはいかない。



「むしろ、私達でいいんですか?」


「もちろんです‼ せっかく誘っていただいたのですから‼」


「…皇女様をお護りできるよう、身命を賭します」


「…ます‼」



…覚悟が重すぎだろ、サラさん。そしてリアは“ます”しか言ってない。

そりゃもちろん、誰も負傷しないように注意はするけども。



【なんか違う意味で修羅場みたいになってるww】


【夢空、めっちゃ胃が痛いだろうな】


【めっちゃ幸先悪くて草】


【しょうがないっちゃしょうがないよね】


【いきなり王族出てきたら、そりゃビビるわ】



コメント欄も何となく重たい雰囲気になってくる。

…まずいな。無理やりにでも明るい方向に持ってかなければ。



「とりあえずダンジョンに入ろう。6層からでいいよね?」


「…はい」


「…はい」


「…うん」



…ダメかもしれない‼

お兄さんの心は今にも折れそうです。



「それじゃ、行こう」



急いでダンジョンに入ろう。

一緒に戦えばきっとチームワークとかが生まれて、なんかいい感じになるかもしれない。とにかくこのままの雰囲気は良くない。俺だけでも気持ちを上げていこう。



固い決意を胸に、俺はダンジョンへと足を踏み入れるのだった。

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