第4話 BANになるので流血沙汰はご法度です



「うしろで騒いでるケモミミ姉妹は置いといて、俺の方からちょこっとだけ現状を説明しまーす。」



あえて2人のドタバタが映る画角を意識して、俺はカメラに向かって話し始める。…それにしても騒ぎすぎだろ。猫か。



【うしろ大騒ぎで草】


【急に真面目に喋るやんw】


【画面内の情報量が多いww】


【確かに現状は気になる】@夢空ハル


【スタッフも知らんのかい…】



チラッと振り向くと、何故か姉妹でほっぺを掴み合っている。いや、どういう状況やねん…仲良しかよ。



「まあ、簡単に言うと、やっぱりここは異世界でした~ってこと。んで、俺がいるのはオルディネ王国っていう国で、今は3人で王都に向かってるっていう感じです。」


「ちなみに、オルディネ”公国“ね」


「うわ、姉妹喧嘩は終わったのか?」


いつの間にか隣にいたサラが補足を入れてくる。

リアの方はグッタリとした表情で倒れている。



「喧嘩じゃないわよ。ただイタズラの過ぎる妹を懲らしめただけ。あんたもフザケたことしたら、怒るからね?」


「はーい」



サラの笑顔が怖い。

今度からはからかい過ぎないように気を付けよ。



「オルディネ公国は大陸の東にある小国よ。だけど、ダンジョンが多いから冒険者が沢山集う国でもあるわ。だから公国も冒険者や移民に寛容で、差別も少ない自由度が高い国として人気ね。」


「なろうによく出てくるタイプの異世界だな。」


「なろう?」


「いや、こっちの話だから気にしないで。それで、今向かってる王都はどんな場所なんだ?」


「よく聞いてくれたわ。私達が向かってるオルディネ公国の王都フィリーアは世界最大のダンジョンがある街で、ダンジョンを中心に作られた街なのよ!!」


「へえー」


「あんた、反応薄くない?」


「いや?リアにつねられてほっぺが赤くなってるサラがかわいいなーって思っただけだよ?」


「なっ?」


「わーい、お姉ちゃんが照れたー!!」


「リ〜ア〜?あなたには躾が足りなかったみたいね?ハルもそこに正座なさい?思っきりぶっ叩いてあげる。」



…ホントにこのくだりが板についてきたな。

定番化しよう。サラは嫌だろうけど、視聴者は喜んでるし。



【照れ顔サラちゃんカワユイ】


【これはチョロい】


【ケモミミ美少女にぶっ叩いていだだけるとか、むしろご褒美なのですが。とりあえず感想よろ】


【出たわね、ドM】


【夢空ぁ!! そこ変われよ!!】


【なんだかんだサラちゃんも褒められてちょっと嬉しそうな顔するんよな。褒めがいがあるわ】


【これは無自覚に相手を惚れさせるタイプ】@Asari



…Asariママ? それ風評被害ですよ?

てかサラの奴、マジでぶっ叩きやがった。痛ってえ。



「ひゃんっ‼」



あ、リアもぶっ叩かれた。普通に痛そう。あと悲鳴がかわいい。

そしてコメント欄は盛り上がってるな。なんだよ“リア虐”って。かわいそうだろ。




その時、馬車が停止する。

今日の移動はここまでで夜営にするようだ。



「それじゃ、外出るか。」


「そうね」



俺は伸びをして馬車の外に出る。今日も夜空が綺麗に見える。約15台の馬車が列になって並んで停止し、そこに乗っていた商人達もぞろぞろと外に出てくる。



「こんばんは~」



商人達と挨拶をかわしつつ、焚火の近くに集まる。どうやら皆で集まって晩飯を食うらしい。酒とかあるのかな?



「おー、なんか異世界って感じ。アニメとかで見てた感じそのまんまだわ。知ってるぞ、この後は焚火を囲って酒を飲み、飯を食って、テントで寝るんだ。『こ〇すば』でそう言うシーンがあった。」



【飯テロ配信か?】


【実際そう言うのも楽しそう】


【『この〇ば』の2期にそういう話あったよね。たしか硬い物に突進するダチョウみたいなの出てきた回。あれ面白かった。】


【ドM騎士が引きずり回されるシーンあったよね】



「あの小説マジで面白いよな。ギャグ全振りなんだけど、意外と世界観とかモンスターの設定が細かかったりして。まあ、俺の配信は異世界とは言え、アニメじゃないからアクシデントが起きたりはしないんだけど。】



【他にも飛んでくるキャベツとかいたよな】


【この石鹼、食べられるの‼】


【サッカーしようぜぇ‼ ボールはお前の頭な‼】


【確かに印象的なシーン多い。あと、アニメは曲もよかった。】



「やっぱり有名なだけあって視聴者さん達みんな履修済みなのな」



コメント欄と会話をしていると、サラが近づいてくる。俺のなかでは結構盛り上がってる所だったんだけど…



「ねえ、ハル。あんた、さっきから他の商人の人達にめっちゃ見られてるわよ? 流石に1人で元気に話してる人がいたら私も見ちゃうけど。ふふっ」


「ハル、かわいそう。ふふっ」



こんのケモミミ姉妹、必死に配信する俺を嗤いやがった。

そして商人の皆さん、遠巻きに可哀そうな奴を見る目で俺を見ないでください…



「あのお~」


「ハル、待って。遠くからなんか来る。」



弁明しようとする俺を遮ってリアが猫耳をピンと立てる。もしかして硬い物で度胸試しするダチョウみたいなモンスター? そんな、まさかね。



「お姉ちゃん」


「そうね、リア。馬が5頭くらい?」


「多分だけど、盗賊。」


「私達がいる時に襲うなんて、運が悪いわね。」



…もしかしなくても、盗賊が襲ってきた的なイベントですか?

さっき配信でアクシデントは起きないって言っちゃったんですけど。



【フラグ回収】


【まさかこんなに早く回収するとは】


【配信者の鏡だな】


【戦ってこい】



あー、これは完全に戦う流れですわ。

同接は3千人強くらいか。ちょっと不安な数字だな。



「ハル、行くわよ。」



サラが俺の方を向いて当然かのように言ってくる。…マジで配信しといて良かった。これは来栖に感謝しなきゃだな。




商人達を守るように俺達が前に出ると、馬に乗ったいかにも盗賊といった出で立ちの5人組が現れる。モンスターとはまた違った緊張感があるな。…というか、もしここで盗賊をスパッとヤッた場合って、アカウントBANされるくね?



「あの、サラさん?リアさん?」


「どうしたの? ネームドボスよりは楽勝よ?」


「お願いなんですけど、生け捕りにしません?できれば血とか流れるのもNGな感じがいいんですけど」



俺の発言にケモミミ姉妹はきょとんとした表情を浮かべる。あっ、これ絶対にぶっ〇すつもりだったヤツだ。



「なんで? 確かに格下だとは思うけど、血を流させないのは難しいわよ?」


「悪人は裁くべき。ヤらなきゃ、ヤられる。」



やっぱりそうだった。てかリアちゃん、目が座ってる。怖いです。あぶな、普通に驚愕映像を全世界に配信するところだった。



「流血NGの方向でお願いします‼ マジで、お願いします‼」



俺はこちらに話しかけようとしてくる盗賊を無視して走り出す。お前らの話なんて聞いてたら、お前らが傷物になるんだよっ‼



「護衛はお前らだけ…ぐふっ‼」



一気に接近した俺はリーダー格と思われる男をぶん殴って落馬させる。

そのまま思いっきり手刀を首筋に叩きこんで意識を奪い取る。



「なんだお前っ‼」


「うるせえ。黙ってお縄に付け‼」


俺は2人目に接近し、今度は背後から首を締め上げて相手の意識を落とす。横を見ると、サラとリアも戦闘を開始している。まだ流血沙汰は起こってない。



【めっちゃ焦ってて草】


【なんなら一昨日のボス戦より必死に戦ってるまである】


【なんだかんだで無血で制圧してるサラちゃんとリアちゃんも優しいな。てか、気づけば1人しか残ってない】


【あ、逃げた】


【そして捕まったww】


【戦闘がものの数分で終わって草しか生えんのやが】


【俺もケモミミ美少女に捕まえられたい…】


【…ドM君はまだ居たのかよ】



…よし、全員捕まえた。血の一滴も流れてない。

俺のアカウントBANの危機は救われた。



「それじゃ、全員縛ったし、ここに放置してくか。飯食おうぜ、飯。」


「え?王都に連れてって衛兵に突き出すんじゃないの?なんで生け捕りにしたの?」


「いや、配信に血とか◯体が映ってなければ関係ないから。知らないとこで空腹でぶっ倒れてようが俺的には関係ないし?」



【ド畜生で草】


【ちゃんとクズだったww】


【配信に映らなければいいのね笑】


【こいつ、配信のことしか考えてねえ】


…待って、俺の評価が急激に下がっている気がする。え?マジで王都まで連れてくの?面倒臭いのだが。



「じ、冗談ですよ〜。もちろん王都まで連れてくに決まってるじゃないですか〜!!」


「ふーん、そう」



サラがジト目で見てくるが無視する。

そんな、やましいことなんて無いですよ?



「はい、ということで今日の配信はここまでにしたいと思います!! べ、別に深い理由なんて無いですよ? 盗賊倒したので、ここまでで良いかなって感じです。それじゃ、ばいばーい。」



俺はカメラに手を振ってウィンクし、配信を終了させる。逃げ切れたな。危うくド畜生認定されるところだった。



とりあえずは飯を食おう。

さっきから商人連中も感謝の視線を向けてくるし、もしかしたらタダ飯になるかもしれん。






【夢空ハルChannel】

『【雑談枠】馬車で移動中withネコミミ姉妹【異世界V】』

最大同接︰3,400

高評価数︰478

登録者数:4,085(+380)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る