第13話 案件打ち合わせと大先輩
「ほら、侑里ちゃんっ‼ 急いでっ‼」
「待って、志真ちゃんっ‼ 走るの、はやいっ」
「あともうちょっとだから、頑張って」
侑里ちゃんが私の部屋に泊まりに来た翌日。
私達は大都会東京の、さらに中心近く、赤坂のオフィス街を2人で駆け抜けている。
理由は簡単。事務所で行われる企業案件の打ち合わせに絶賛遅れそうだから。
「あと5分。間に合うよっ‼」
「ま、まにあ、っても、つかれて、しゃべれっ、ないよ」
弱音を吐く侑里ちゃんを引っ張って私はAlia:ReLive、通称アリアリの事務所が入るビルへと駆けこむ。エレベーターに何とか飛び込んで8階のボタンを連打する。
時間までは後3分。間に合ったっ‼
エレベーターの扉が開くのと同時に私達は事務所に飛び込んでいく。
「おそぉーーーーーーいっ‼」
「わあっ‼
エレベーターの前で仁王立ちをする女性からカミナリが落ちる。
「いや、来栖さん。アナタも先程エレベーターから駆け込んできたばかりじゃないですか…」
「徳ちゃん、空気読むっ‼ せっかく先輩風吹かしてるんだからっ‼」
「分かってるなら、後輩をイジメないでください。朝霞さん、佐藤さん、こんにちは。時間もないので会議室に向かいましょう。ほら、来栖さんも行きますよ」
「ちぇ~、せっかく良いとこだったのに~」
不満げな表情を浮かべる
そんなメンバーで私達は和気あいあいと会議室に向かう。
「それではこちらの会議室です」
徳河さんに案内されて私達は“オンラインブース”と書かれた部屋に入る。
部屋の中には誰もいなかった。とりあえず私達は
「あれ? 私達だけ?」
「そうです、来栖さん。今回は私から案件の内容を説明します。」
「あ、そーなんだ。それなら多少手を抜いても…」
「
「じょ、冗談だよ~、徳ちゃん。そりゃ真面目に仕事させていただきますよ? さてっ、今回はどんなゲームなのかな~」
「なら良いです。それでは説明しますね」
…
「ああ、私と徳ちゃんは高校、大学の友達なんだっ‼ 驚かしちゃってゴメンね。まあ、腐れ縁というか、徳ちゃんが私を好きすぎるっていうかっ?」
「はい、おバカは放っておいて案件の趣旨を説明しますね。」
「あっ、バカって言ったっ‼」
「今回の皆さんにプレイして頂くゲームですが、こちらの”ポリス・ウォーズ”という作品になります。おおまかな内容としては協力型ストラテジーゲームです。MMORPGとも言えますね。」
「ポリス?警察?」
「はい、おバカは放っておいて続きを説明しますね。」
「あっ、またバカって言ったっ‼」
「この作品は古代ギリシアを舞台にプレイヤーが所属するポリスを発展させるために協力して他ポリスと戦う、といった内容です。今回の案件の具体的な内容としては特別サーバー内で視聴者と協力してポリス大戦を戦うという流れです」
「ということは、私達はそれぞれ別のポリスで視聴者さん達を率いて戦うってことですか?」
「朝霞さん、良い質問です。」
「…池〇先生」
ボソッと小ボケをかました
これはこれで良い関係なのかもしれない。なんなら徳河さんもVtuberを始めればいいコンビになるかも。
「コホン。今回の案件ですが、皆さんには同じポリス・スパルタのメンバーとして戦って貰います。相手はミディアックス所属のVtuberさん3名が率いるポリス・アテナイです。つまり、視聴者参加型、かつ事務所交流型の比較的大規模な案件となります。」
「ほお~、面白そうな案件だねえ、徳ちゃん。特にスパルタってのが良いね」
「やっと話を聞く気になりましたか…」
「そりゃ、こんな面白そうな話だとねっ‼ これはアリアリを代表してミディアックスを叩きのめしてあげないとねえ…ふふふっ、今から楽しみになってきた。」
ミディアックス。
Alia:ReLiveと並ぶVtuber2大事務所の一角。
私達アリアリとは別路線、男女問わず沢山のVtuberを抱えたコラボ中心のエンターテインメント集団。それが一般的なミディアックスのイメージ。
…そんな人たちと案件でコラボするんだ。ちょっと不安。
「ああ、今回のミディアックスさんからの参加Vtuberさんは全員女性とのことなので、ご安心ください。一応、大戦終了後に感想枠で少し交流してもらうことにはなると思います。…おおまかな企画内容は今お話しした通りです。皆さん、問題なさそうですか?」
私達が頷くのを確認して徳河さんが満足げに頷く。…よく考えたら徳河さんが参加したら負けないんじゃないかな。将軍になるくらいだし。
「それでは詳細の説明をしていきますね。」
▲ ▽ ▲
「それじゃ、とりあえず志真ちゃんと侑里ちゃんの2人は、あと徳ちゃんも、絶対に映画「300」を観ることっ‼ スパルタの何たるかを、スパルタの血を、スパルタの流儀を以ってこの案件を戦い抜こう‼」
「なんで私も観ないといけないんですか…」
「マネージャーとはそういう物なんだよ、徳ちゃんっ‼」
説明開始から約2時間。
…理由は分からないけど、何かが
「それじゃ、またねぇー!!」
外はすっかり暗くなり始めている。
「なんか、凄かったね…!!」
「お二人は
私達も徳河さんに見送られてビルを出る。
帰るマンションが同じ私と侑里ちゃんは一緒に地下鉄の駅に向かう。ちょうど会社が終わる時間帯でサラリーマンの人達が駅に向かって歩いていた。
「あっ、志真ちゃん。これ見て」
横を歩いている侑里ちゃんが私にスマホの画面を見せてくる。画面を見ると
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
星織カグヤ@スパルタ王に俺はなるっ‼
アテナイ…ブッ倒す…
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σ ⇋ ♡
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
侑里ちゃんと2人で帰宅ラッシュの地下鉄に揺られながら私は小さく決意をした。
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