第14話 “赤髪のレイ”の休日


「…っ」



王都フィリーアの一角。

窓からの陽光に当たり私、レイ・アインエガーは目を覚ます。


…なんだか頭が痛い。昨日、寝るの遅かったっけ?


ぼんやりとした意識が徐々に覚醒していき、私は昨日の夜の出来事を思い出す。


素の状態の自分を夢空くんに見られていたことを。



「はああああぁぁぁぁぁぁ~」



私は恥ずかしさに枕に頭を埋めて悶絶する。

今思えば気弱なことも言ったし、歌ってもいたし、黒猫のヨルとじゃれてもいた。それを全部見られていたと思うと、どんどん顔に熱が上がってくる。…きっと今の自分の顔は真っ赤になってると思う。


…もしかしたら夢空くんに失望されたかもしれない。もしかしたら夢空くんに昨日の様子を言いふらされるかもしれない。そしたら、私は、せっかく見つけた私の居場所は…。


そんなことを考えて、昨日はなかなか寝むれなかった。



「~~~~‼」



声にならない声をあげて私はベットで暴れる。

このままでは何にも解決しないことは分かってるけど、とりあえず今はベットでジタバタするしかない。


…こうなればヤケクソだ。



「もう…いいもん」



私は頬を膨らませたまま小さく呟いてベットから起き上がる。

髪を束ねて、顔を軽くすすいで、歯を磨く。私は意を決してクローゼットを開ける。


沢山の服が掛かっているクローゼットの端。

他の服とは雰囲気の違う淡い青色のワンピースが1着だけハンガーに掛かっている。

そして、さらにワンピースの下。少し高級感のある木箱が置かれている。



「…」



私は無言で木箱とワンピースを手に取る。

意を決して木箱を開けると、そこにはサファイアの指輪とフチの細い銀の伊達眼鏡、そして青色のウィッグが入っていた。…この木箱を開けるのも久しぶりな気がする。



「…よし」



私はゆっくりと着替えを始める。

数分後、全身鏡の前には青髪の淑女の姿が映っている。ウェーブした長い青髪に少し高級感のあるワンピース。理知的な雰囲気を湛える眼鏡の奥には髪とは対照的な赤い瞳が覗く。



”青髪のレア”



私が勝手に名付けた“赤髪のレイ”が変装した姿。

レイ・アインエガーの女の子らしい、もう一つの側面を宿した淑女。それがレア。


せっかくの休日。さあ、出かけよう。



▲ ▽ ▲



「~~♪」



鼻歌を歌いながら私は上機嫌に王都を歩く。

充実の休日に思わず足取りが軽くなる。



「いい物が買えてよかった」



オルディネ公国宮殿の庭園。

ベンチに座って私は蚤の市で買ったティーセットを眺める。

さらに胸元には朝にはなかったサファイアのブレスレットが輝いている。


部屋を出た私は先ず中央通りの蚤の市に向かった。

そこでお気に入りのティーカップを買ったあと、アクセサリーショップに向かい、さらにその後ぬいぐるみ屋さんに行って、パフェも食べた。そして休憩しに宮殿の庭園に。…まさに理想の休日。



「普段だった入れないお店ばっかり」



今日行ったお店を思い返して呟く。

王都で私、“赤髪のレイ”はもはや有名人で、そんな私は硬派で孤高なイメージで通っている。でも、“青髪のレア”である今なら、普段はいかないお店にも周囲の目を気にせずに行ける。


オレンジ色に空が染まる中、私は綺麗な庭園の景色を眺める。

色とりどりの花が夕日に照らされて色を変える。



「綺麗…あら?」



その時、横に置いていたウサギのぬいぐるみが微かに動く。

そちらに目を向けると、ぬいぐるみと一緒にベンチに座る黒猫の黄色い瞳と目が合う。



「あなた…ヨル?」


「にゃ」



ヨルは小さく鳴くと私の膝に乗ってくる。

撫でろと言わんばかりにヨルは目を細めて頭を突き出している。



「もう…あなたのおかげで私は恥ずかしい思いをしたんですからね?」


「にゃうん」


「分かってますか? ほら、気持ちいい?」



私は膝の上でのんびりと寝そべるヨルを撫でる。

ゴロゴロと喉を鳴らすヨルに癒されていると、突然ヨルが顔を上げる。



「にゃあ‼」



ヨルは大きな声で鳴く。

おどろいた私がヨルの視線を追い、そして、思わず固まってしまう。



「あれ? ヨルと…えっ、レイさん?」



そこにはラフな格好をした夢空くんがいた。

…なんでココに?それに、変装がバレてる?



「レイ? なんのことですか?」


「あっ、えーっと…いや、なんでもないです」



夢空くんが少し気まずそうに笑う。

これは…もしかしなくてもバレている。そのうえで私に合わせてくれている…



「うふふ、私はここで失礼しますね。」



こうなれば、とにかく早くこの場を離れるしかない。私はレアの言葉遣いが抜けきらないまま足早に庭園を去る。…どうしよう。



「…どうしよう」



どうすればいいか。それだけがグルグルと頭の中を駆け回る。とにかく、部屋に戻ろう。


部屋に戻った私は一直線にベットへダイブする。…結局、眠れたのは明け方近くなってからだった。



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