第5話 ステータス確認と幼馴染&妹との通話


オークキングを倒したあとも、たまに出現するオークを適当に狩った俺は伸びをする。


「んじゃ、そろそろ配信終わるかー。オークキング倒したし、同接数も5,000人行ったし、俺は満足ですわぁ。まあ、この後の帰り方は分からないんですけどもね、、、」


俺は思ったことをそのまま声に出して笑う。

そんな俺の発言にコメントも反応してくれる。



【乙‼】


【おつかれ~】


【初見だったけど面白かったぞ‼】


【もうちょっと見てたかったけど、、、お疲れ様です‼】@Asari


【結局まだ帰り方わからないんかいw】


【今度はオーク以外も登場させてくれ‼】


【乙でした‼】



視界の端コメント欄を確認して俺は満足げに頷く。

Asariママも最後まで配信を見ていてくれたようだ。


、、、現代日本への帰り方に関しては最悪Asariママ明里ちゃんに相談しよう。



「Asariママも最後まで見てくれて、ありがとー‼ ってことなので、今日の配信はこれにて終了です。初めてこんなに沢山の人が配信に来てくれて嬉しかったです。それじゃ‼」



俺はそう言ってカメラに向かって手を振る。

視界にメッセージが浮かぶ。


“右目を閉じて配信終了”


指示に従って右目を閉じると浮かんでいたカメラが消滅する。同時に視界の端にあったコメント欄も見えなくなり、通常の視界に戻る。


「こんな感じで終わらせるのか。なるほど、なるほど」


俺は小さく呟いて、改めて周囲を確認する。

配信が終わっても周囲に変化はない。ただ暗い洞窟が続くのみである。




どうすればいいか分からない。なら、適当にぶらついて洞窟から出る手段を探そう。そう考えて、俺はアテもなく洞窟の中を歩き始める。



ポップアップするオークを倒しつつ、しばらく歩いていると緑色に光る鉱物が目に入る。


「あれは、、、?」


鉱物の周囲1m程度の範囲も円形に薄っすらと明るくなっており、明らかにそこだけ違和感がある。


「これって安地ってヤツだよな?多分。」


ゲームで見たことがある。

一定範囲内において攻撃によるダメージを受けないエリア。安全地域、略して安地。



「安地があるならステータスとかも見たいんだけどな。って、おお、ステータス見れるじゃん」


俺がボヤくと目の前にステータス画面が出現する。


先程の配信もそうだか、おそらく”配信“や”ステータス“といった俺の言葉に反応して画面が展開されるようだった。


「せっかく安地もあるし、ステータス確認でもするか」



えーっと、どれどれ、、、



-----------ステータス-----------


ネーム:夢空ハル

ジョブ:--

HP:481(+348)/チャンネル登録者数に連動

ATK:0(前回∶MAX5000)/配信同接数に連動

DEF:0(前回∶MAX5000)/配信同接数に連動

スキルポイント:532(累計)/高評価数に連動


武器︰誘宵いざよい(大剣)/Asariによって設定済

防具︰朝霞あさか(装備)/Asariによって設定済


スキル:登録なし


---------------------------------



、、、思ってたのと違う。


HPがチャンネル登録者数って、ド底辺個人Vtuberにどんな虐めだよ。

ってか、配信外は常にATKとDEFがゼロって。俺に死ねと?



「マージか。あははっ」



さっきまでよくオークなんかに戦いを挑んでられたな、俺。最悪一発殴られて、そのまま人生終了するところだった。



「これから戦うときは常に配信しなきゃなのか」



それでも、配信を始めた直後は同接100人程度でも戦えていたはずだ。その理由は、何となく開いた武器のステータスが教えてくれた。



-----------ステータス-----------


ネーム:誘宵いざよい(大剣)

紫紺の大剣。Asariによって作成及び設定。

宵に夢見る者の魂を世界の狭間に誘う剣。世界の狭間で、主人を導く剣。

この剣を持つ、愛する者の歩みへの祈りと祝福が込められている。


【同接1000未満の場合:ATK +1000】

【同接1000以上の場合:ATK ×2】

【破壊不可】【専用武器:夢空ハル】


---------------------------------



Asariママ、ありがとうっ‼

貴女のデザインした剣にめちゃくちゃ助けられてましたっ‼



「、、、まあ、多分ATKとかの数字を設定した訳じゃないだろうけど。明里ちゃん、RPG系のゲーム殆どやらないはずだし。それにしても、、、マジで救われたな。」



俺はそう言いつつ、今度は装備のステータスを確認する。


-----------ステータス-----------


ネーム:朝霞あさか(装備)

白地に紫紺の意匠が凝らされた装備。Asariによって作成及び設定。

この装備を纏う愛する者へと訪れる朝が、美しいものであるようにとの祈りと祝福が込められている。


【同接1000未満の場合:DEF +1000】

【同接1000以上の場合:DEF ×2】

【破壊不可】【専用装備:夢空ハル】


---------------------------------



流石です、Asariママ。

しっかり装備の方も余念がない。



「おっ、スキルも見れるのか」



装備の確認画面の下に習得可能スキル一覧の表示があった。

俺はその中から、現在の自分が取得可能なスキルを確認していく。

名前から効果が想像できる物もあれば、全く想像がつかないスキルもあった。



「なんか良いのないかねえ」



スキルポイント500以下で取れるスキルを眺める。

、、、その中で、見たことのある単語が俺の目に留まる。



≪Discord≫



それは現代日本ではよく知られたブラウザ通話サービス。特にVtuber界隈やゲーム界隈では超メジャーなアプリケーション。



「これって、あのディスコのことだよな? 」



獲得に必要なスキルポイントは500ポイント。

これがあの・・ディスコードじゃなかったら詰む可能性もある。


しばらく悩んで、俺はスキルを習得する。

選んだスキルは“Discord”。気になってしまったのだから、仕方がない。



「ってことで早速、“Discord”」



俺が試しにスキルを詠唱すると、目の前に画面が出現する。それは、あの・・ディスコの画面だった。



● Asari オンライン



フレンド欄には見慣れた友人の名前が表示されていた。確認したところフレンドはこの幼馴染1人のみになっている。



「、、、」


俺は無言で彼女への通話ボタンを押す。

コール音が鳴って、、、出ない。



「流石に異世界からは届かないか」



俺は結果が分かっていたかのように振舞う。

、、、そうしないと泣きそうだった。



「しゃあねえ。いつまでも安地にいる訳にもいかないし、動くか。」



折れかけた気持ちを奮い立たせるように俺は立ち上がる。腹も減ってきた。とにかく洞窟から出ないとな。




≪~~~♪≫



俺が歩き出そうとした、まさにその時、着信音がなる。


ディスコの画面が自動で出現し、ある人物からの通話依頼が表示される。



「もしもし、、、」


≪ハルくん!!≫


「明里ちゃん?」


≪晴斗くん!! 明里だよ!!朝比奈明里!!聞こえてる?ハルくん、今どこにいるの?≫


彼女の、今にも泣き出しそうな明里の声を聞いて、俺の張り詰めていた気持ちが溶けていくのを感じる。


、、、もう二度と君の声を聞けないかと思ったよ。


「明里ちゃん、心配させてごめんね。俺もどうなってるか分からないんだけど、、、配信で言った通りなんだよ。明里ちゃんも俺の配信見てたでしょ?」


≪そんなのっ、、、そんなの、、、≫



そんなの嘘だ。優しい彼女はその言葉を飲み込んで静かに涙を流す。その言葉を一番に思っているのが俺だと分かっているから。


、、、俺なんかにはもったいない幼馴染だ。



≪お兄ちゃん?≫


「その声は、、、志真?」


≪そうだよ、お兄ちゃん。わたし、さっきお兄ちゃんの部屋に来たところなんだけど、何があったの?説明してくれるよね?≫


、、、志真、これは怒ってるな。


「えーっと、、、どこから説明すればいいか、、、。志真、Vtuberって知ってる?」


≪、、、うん。≫


「お兄ちゃん、そのVtuberってのをやってたんだ。25歳にもなって、年甲斐もなく。」


≪そんなことはないと思うけど、、、それで?≫


「それで、配信を始めようと思ったら急に部屋の床が光り出して、、、気付いたらVtuberの姿になって異世界みたいなところに飛ばされてたんだ。」


≪、、、、≫


「黙ってVtuberやっててゴメンな。」


≪、、、なんてチャンネル?≫


「え?」


≪だから、なんてアカウント名? チャンネル登録しとく。≫


「あ、ああ。“夢空ハルChannel”ってやつだ。」


≪、、、、わかった。≫





しばらくの沈黙。





「まあ、生きててよかったよ。生きてたからこそ、もう二度と話せないと思った明里ちゃんや志真とこうやって話せてるんだ。ちょっと会えなくなっただけだからさ、、だから泣かないでよ。」


≪、、、うるさい、ハルくんだって泣いてるクセに。≫


≪明里さんの言う通り。どれだけ私達が心配したか。≫


「あはは。申し訳ない。だけどさ、こうやって話すこともできたんだ。絶対にまた会える。だからさ、待っててよ。生きてさえいれば、きっとまた会えるよ。」


≪、、うん。ハルくん、待ってる。待ってるからね。≫


≪乙女を待たせ過ぎないでくださいね?お兄ちゃん?≫



、、、ちょっと妹が怖い。


涙は止まらない。それでも3人の表情は幾分か明るくなっていた。



朝は皆に平等に訪れる。

嫌でも明るい陽の光に俺達はさらされる。


暗い気持ちはあと少し。朝が来たら、前を向いて、それぞれの道を、また歩き出そう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る