第9話 同僚への身バレと今後の活動方針


「……ああ、そっか」


寝ぼけた目を擦って俺はベッドから起き上がる。

見慣れない天井と目にかかる白色の前髪。


…まだ夢を見ているようだ。


「いっそ昨日の出来事が夢でした〜って言われた方が信じられるわ」


窓からは柔らかな朝日が差し込む。

そこから見える景色は中世ヨーロッパ風の街並み。



俺は改めて自分の顔を叩いてみる。…痛え。



「やっぱ夢じゃねえよな」



溜息を付いていても仕方がない。

現代日本に帰るための目処も付いたし、目指すべきことも分かっている。なら、前を向いて、やっていくしかない。



「ってことで、ステータスでも見てみるかあ」



ステータス画面が出現する。

…登録者は微増くらいなもんか。


「よく見るとステータス画面って便利だな。」


改めてステータス画面を確認すると、時計機能やカレンダー、カメラ機能などのスマホのデフォルト機能のような物もあれば、マッピング機能やアイテム管理画面といったRPG的な機能も搭載されている。



「お、ディスコの通知も表示されるんだ、、、え?」



俺がなんとなくディスコードを開くと、そこには昨日は表示されていなかった人物の名前が着信履歴とともに表示されている。



“●来栖桃太くるすとうた オンライン”



「…マジですか。」


表示された会社の同期の名前に俺は固まる。

よりによって一番バレたくねぇ奴に見つかったかもしれん…



≪~~~♪≫



そんなことを考えているうちに着信音が鳴る。

発信者はもちろん来栖桃太の名前が表示されている。



「うす。」


「おお、朝霞‼ …いや、今は夢空・・か」


ニヤニヤしているであろう来栖の声が聞こえてくる。

…ああ、終わった。これで俺のことは社内中に広がるだろう。


「なんだよ、来栖。ってかお前ディスコやってたのな」


「あん? そんなんお前と連絡とるために始めたに決まってんだろ。試しにダウンロードしたら、いきなり夢空ハルってアカウント出てきたぞ。」


「お前ってやつは…」


「それよりお前だよ、朝霞。お前の配信見たぞ。声色くらい変えないと一瞬でバレんぞ。」


…マジか。正直、声くらいで身バレするとは思わなかった。

というか、同期とはいえ部署も違えば滅多に会話もしないのに俺を判別した来栖コイツの方が凄い気がする。


「よく気付いたな。正直バレると思わなかったぞ。」


「そんなん人事部の俺にかかりゃ一発だぜ。」


…だから来栖コイツだけには見つかりたくなかったんだ。

人事部所属のこの同期は、やけに勘の鋭いところがある。そして、人事部の人間に副業がバレるということは、副業禁止の社内規則がある俺の会社では終了を意味する。


「大丈夫だって、誰にも言わねーよ。」


黙ってしまった俺をフォローするように来栖が笑う。


「それよりも、お前、大丈夫なのか?マジで異世界に行ってんなら月曜から出社できないだろ。」


「そういや、そうだったわ。」


…会社のことをすっかり忘れていた。

異世界転移で動転していたとは言え、それは社会人としてどうかとも思うが。


「そういえばって、お前やっぱおもしれえわ。流石は特販第1部1課で期待のエース候補ですわ。来栖ごときが敵わないですわあ。」


「…うるせえ。しょっぱなの配属なんて関係ないだろ。それを言うんだったら20年振りの初回配属が人事部だった奴に言われたくねえよ、このエリート街道イケメン野郎。」


「いやいや、配属された部署で期待されんのが凄えってことだよ。っと、そんな話がしたくて通話したんじゃなかったわ。あぶない、あぶない。ちなみに、イケメンの部分は否定しないぞ。」


来栖はわざとらしく呟く。こういう時のこいつは危険だ。あとウザい。

…通話切ろうかな? ウザいし。


「お前、今通話切ろうとしただろ。まあ、聞いてくれよ。これは取引だ。」


「人事部が営業部門の俺に営業電話を掛けてくるなんて滑稽だな。」


「…お前、それ炎上する発言だぞ? マジで気を付けろよ?」


「冗談だ。」


「お前の声だと冗談に聞こえねえんだよ。まあいいや。俺の提案は1つ。朝霞の失踪に関しては俺の方でどうにかしとく。その代わり、俺に朝霞のチャンネルの運用をさせてくれ。」


「…収益が目的か? ぶっちゃけ全額くれてやってもいいぞ。」


「話が早くて助かる…が、全額とか、お前アホなん? 拍子抜けするわ。」


昨晩確認したが、現実世界での俺の財産と関係しそうなステータスはなかった。

ならば、チャンネル収益は俺の現実世界帰還という目的には関係ない。


「むしろそれで登録者数と高評価を稼いでくれるんなら、俺からお願いしたいくらいだ。」


「ってことは、そっちから帰るには、登録者と高評価が必要なんだな?」


…相変わらず勘が鋭い。というか賢い。

なんか悔しいから肯定はしない。男心を察しろ、来栖よ。


「とりあえずショート用の切り抜きとサムネを作ってくれよ。後はTwitto、じゃなくてAXアックスの管理もお願いな。写真はディスコで送るわ。ほれ。」


そう言って俺は昨日撮影したケモミミ姉妹の写真を送る。

収益を全額くれてやるんだ。これくらいしてもらわないと。…まあ、収益化してないんだけど。


「んじゃ、しくよろ〜」


「待って?流石に適当すぎない?お前の人事評価もっと堅実な印象だったぞ。そう言えば朝霞、昨期B+加点5だったよな。」


「勝手に他人の人事評価暗記しないでくれないか…」


「いや、それが仕事だし。ってかマジでいいのか? 後で絶対後悔するぞ? ホントに収益全部取ってくからな?」


「いいよ、別に。お前のことは信頼してるし。」


「お前…マジでそういう所だぞ。」


コイツは何を言ってるんだ?こういう所って、どういう所だよ。教えてくれないと分からんぞ。


「まあ、チャンネルが伸びりゃそれでいいよ。頼んだぞー。俺の帰還はお前次第だ、来栖。」


「はあ、わかったよ。天音ちゃんも悲しむしな。」


「空か? あいつ結構ドライだぞ? 俺が退職してもなんとも思わないんじゃないか?」


「お前…マジか…」



来栖が愕然としたような声を出す。

天音空あまねそら。今年の新入社員で同じ部署の後輩ちゃん。ちなみに俺は彼女のOJT。



「なんで空の名前を出したんだ? てか、空にも配信のことは言うなよ? 先輩面してたやつがVtuberとかドン引きされそう。」


「あー、わかったよ。とりあえずお前はお前で頑張れ。そのうち帰ってくんだろ?社内の居場所は残しといてやるからよ。」


「わりいな、来栖。」


「おう。そう言えば朝霞はこのあとどうするんだ? そっちの世界も朝だろ?」


「ああ。昨日のケモミミ姉妹と冒険者ギルドに行く予定だな。魔石の換金と冒険者登録かな。」


「そうか。なら配信しないで冒険者登録するといい。」


「なんでだ?」


「そりゃ、ランク低い奴が下剋上していったほうが配信として面白いだろ?」


…なるほどな。まったく思いつかなかった。

今後は配信に関して来栖に相談するのもアリかもしれない。


「んじゃ、またな。」


「おう。」


…癖で相手が切るのを待つが通話が終了しない。

来栖の奴、通話の切り方知らないのか?


「通話切らないのか?」


「その、なんだ、、早く帰ってこいとは言わねえからさ、楽しんで来いよ。俺も、お前の配信楽しみにしてるからよ。それじゃ、頑張れよ。」


来栖はそれだけ言って通話を終了させる。

…最後にくさいセリフを残していきやがった、あのイケメン。



「…言われなくても、そのつもりだよ。」



同期との通話を終えた俺は立ち上がる。


アイツと話してる間に、会社の仲間や取引先のことを思い出していた。

周囲の人間関係もよくてやりがいもあったし、業界では割と大手の会社だっただけに惜しい思いでいたが、おせっかいな同期の言葉に、正直、救われた思いでいる。


「あいつも大概いい奴だよな。」


ま、本人は否定するだろうけど。

なんなら収益も来栖に関して言えば手を付けない可能性が高い気がする。


「持つべきは友だな。明里ちゃんも、来栖も。」


そんな呟きと共に部屋を出て宿のロビーへ向かう。

そろそろ、ケモミミ姉妹と約束した時間だ。




その後、宿の前でサラ・リア姉妹と合流する。


来栖の助言に従い配信をせずに冒険者ギルドへと向かう。

職員には魔石を出したときは驚かれたが、冒険者登録の時には呆れられた。


サラ・リアは納得していないようだったが、俺はケモミミ冒険者2人に救われた底辺冒険者ということでギルド職員に認識された。…ちょうどいい。Vtuberとしても、冒険者としても、這い上がっていけばいい。それだけだ。



ということで、その日、Eランク冒険者 夢空ハルが爆誕した。








ーーーーーーーーーーーーーーーーあとがきーーーーーーーーーーーーーーーー


これにて序章は完結です!!

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