第7話
貴族の世界では珍しいことではないらしい。
従者の中に、自分の子と同じ年の子供がいたら共に(無論、越えれない主従関係はあるものの)育てる風習。
それとは、少しばかり理由が違うが……
ルレロは新しい仕事として、イザベルの世話係のような真似をすることになった。
毎日というわけではない。 農作業と狩りの手伝いもある。
3日に1日程度の頻度だ。 それでも貴族さまから請け負う仕事が賃金もそれなりの価格となる。
(イザベルの父親、領主であるグリファン卿。なにやら、俺様の正体に感づいている節もあるが、さて……何を企んでいることやら)
とは言え、やるべき事は今までとあまり変わらない。 イザベルの遊び相手……もとい剣術の練習相手だ。
(まぁ、少しばかり良い服が支給されているけどね)
渡されたタキシードに袖を通すと、庭に出る。
「あっあっあっ」と発生練習をしながら、言葉を切り替える。
まさか、領主の子供を相手にする時、「俺様」の一人称で話わけにはいかない。
「魔導王ルレロの人格は封印封印」と自分に言い聞かせ――――
そこには、すでにイザベルが待ち受けていた。
「遅かったわね」と彼女は木刀を肩に担いで言う。
いつも通りだ。
片手には木刀。練習用の柔らかい素材の木剣。
そして、格好は、およそ戦いの稽古には不向きなドレス姿。
いつも通りに
「それじゃ行くわよ!」と稽古が始まった。
イザベルとの稽古は、剣の戦いにしては、互いにやや離れた場所から始める。
10メートルよりは若干近いといった辺りだろうか?
(来る!)
ルレロは構えた。 父親ヘルマンが農業の中に隠していた剣の基本。
まるで田を耕す
(魔物と戦っていたヘルマンどのは、回避してからのカウンターを繰り返していた。なら、この構えの肝は足さばきになるが……)
問題はイザベルの剣技である。 心理的なフェイントを繰り返し行い、チャンスがあれば瞬時に距離を縮めてから、強打。
接近してからは徹底的に回転切りや跳躍しての上段切り。
そして、それは来た。
10メートルの距離を一瞬で0にするダッシュ力はもちろん、初動を読ませない動き。
イザベルが消えたと感じた次の瞬間には、風を感じる。
「――――ッ!(既に強打をモーションに入ってるからこそだ。剣の前に風圧が来る!)」
しかし、攻撃のタイミングがわかっているから、
防御が間に合うからといって、無事で済むわけではない。
(まともに受けれなければ、その威力で吹き飛ばされるほどの威力。一体、なにと戦うための剣だ?)
体が浮き上がり、1メートルは吹き飛ばされる。
地面に着地した瞬間。それは動けない隙となる。
「きえぇいぃぃぃですわ!」と貴族の御息女とは思えない裂帛の気合い。
イザベルは声を張り上げ、ジャンプ切りを放とうとしていた。
「参った」とあっさりとルレロは敗けを認めた。 まるでわかっていたように、彼の目前でピタリと木刀は止まった。
しかし、奇妙な事に勝ったはずのイザベルはイライラしている様子。
「どうかしましたかイザベルお嬢様? 何か至らぬ点でも?」
「わかっているでしょ?」とジト目を向けられるも彼には心当たりがない。
「?」
「ルレロ、あなた……いつまで本気を出さないつもりなのよ?」
「本気をですか? 買いかぶりすぎですよ。僕はいつだって本気で剣の稽古を……」
「違うわ。私は魔法使いを相手に剣の勝負で勝っても嬉しくないわ。あなたもそうでしょ? 剣の勝負で剣士に負けても悔しくない。そう思ってない?」
「それは、確かにそうですが……お嬢様も知っての通り、この国では魔法は禁術。使ってるのが見つかれば、どのような思い刑罰を受けることになることやら……」
「あら、そんな事を心配してたの?」とイザベルは平然と言った。
「ここはお父様の屋敷。誰に密告するというの? それに……」
「それに?」
「これは秘密よ? お父様はね。あなたの事を本当に大魔王ルレロが転生した姿だと思い込んでるみたいなのよ」
「……あはははは、嫌ですね。そんな魔王の生まれ変わりなんて縁起が悪い」
そう言って誤魔化すルレロをイザベルは再びジト目で見つめてきた。
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
これがルレロの日常だ。
しかし、この平和な幼少期も長くは続く物ではなかった。
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