第23話
翌日、グリファン卿から使者がやってきた。
「明日、グリファン家に来るように」と使者は短く告げた。 考えるまでもなくジョルジュという貴族……おそらく、彼こそが異端審問官で間違いないのだろう。
事実上、彼からの呼び出しだ。
「しかし、あいつの魔眼はどこまで俺様の情報を読み取ったのだ?」
ルレロは確信している。 彼は、疑っているかもしれないが、自分を魔導王――――いや、大魔王ルレロ本人であると見破ったわけではない。なぜなら――――
「なぜなら、俺様は油断したとしても
少し不安が混じっているのは、彼の年齢は11歳。 体に魔法執行の反動に耐えれる抗体ができているが、全盛期にはほど遠い。
この時代、魔法の使用を禁じている国で、ルレロの魔法抵抗を打ち破るほどの魔眼の使い手はいるとは思えない。
一抹の不安を覚えながら、早くベッドに潜り込んだルレロ。
明日、グリファン家でジョルジュとの再会がどのような形になるかわからない。
ゆえに、万全の体調で迎えるための睡眠だった。
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そして、翌日。 グリファン家にて
「よく来てくれたルレロよ。休日に呼び出してすまないが、この方が君の話に興味を持ってね。ぜひ、会いたいとおっしゃっていたのだ」
想像通りだった。 グリファン卿の名前を持って呼び出したのは、ジョルジュ・ド・ピエール。白銀の異端審問官……彼だった。
「いえ、もったいない言葉です」と貴族への振る舞いを忘れず、グリファン卿に挨拶をしながら、ジョルジュの様子を窺う。
柔和な笑みを浮かべてはいるが、その眼光は冷え冷えとするほどであった。
彼は、「昨日は、どうも」と笑みを崩さないまま、腕を差し出してきた。
それが挨拶だと気づくのに数瞬の時間が必要だった。
(まさか、握手で相手の魔力を測る魔法もないだろう。よし!)
油断しないまでも、警戒しながらも握手を交わす。
そのまま、握力で握りつぶしてくるのではないか? しかし、そんな事もなく、普通の握手であった。
「ジョルジュさまはルレロと初めてではないのですか?」
「えぇ、顔見せ程度ですが、挨拶に行きました」
「なんと、わざわざそのような事をせずとも、呼び出したものを」
そんなグリファン卿とジョルジュの会話かさ察するに…… どうやら、貴族階級というものでは、グリファンよりジョルジュの階級が上にありそうだ。
「さて、私が君に興味を持ったのは、イザベル嬢と剣の稽古をしてると聞いたからだ。 その剣技の持ち主と、稽古を日常的にしている君の腕前を知りたくてね」
「俺の……いや、僕の腕前がイザベルさまと同格。あるいはそれ以上だと思い込んでいるのなら、それは勘違いというものですよ。 僕の剣はイザベルさまの足元にも及びません」
「ほう……しかし、あなたはへルマンの息子ではありませんか?」
「ここでどうして、父親の名前を?」
「なに、有名な方ですよ。冒険者へルマンの名前は王都まで届いています。もっとも、農奴に落とされた時に失った名字に怯えている者も多いようですがね」
「生憎、父からは家柄の話は聞いておりません。なぜ農奴の家になったか、子には話したくないのでしょう。ならば、僕もあえて知ろうとは思いませぬ」
「なるほど、立派だ。私よりも年が4つも下のはずが、知的な大人と話している気分になってきましたよ」
「それはどうも。誉め言葉としてとっておきましょう」
「もちろん、誉め言葉ですよ?」
そんな会話。どうやら煙に巻かれていたのはルレロの方だった。
気がついた時には、イザベルと同様にジョルジュと剣の稽古という形で決闘のような真似事をするようになってしまった。
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ジョルジュとの事実上の決闘。 その用意をしているとイザベルが部屋に入ってきた。
「本当に大丈夫なのですか、先生?」
「今は、先生は止めておくが良い。あのジョルジュという男は抜け目が無さそうだ。どこで会話を盗み聞きしているか、わかったものではないぞ」
冗談混じりであったが、イザベルは
「あらそう。それじゃルレロ。あなた、ジョルジュの実力を知っているの?」
幼さゆえの柔軟性だろうか? 魔法の先生と慕ってくれている様子は鳴りを潜め、かつての従者に対する態度に戻った。
「いえいえ、イザベルさま。あの男の実力は知りませんよ」とルレロも対抗するように口調を昔に戻した。
「あの男、剣術の戦いなら私よりも強いわよ」
「なんと、イザベルさまよりも?」
「彼が滞在してから、何度か剣を交えているの。勝敗は6勝4敗」
「……? 勝ち越してないですか?」
「実力を隠しながら、私に4勝してるのよ。 得体の知れない剣を使うわ」
「得体の知れない剣? ……ですか、もう少し具体的にお願いします」
「うまく説明はできないわ。こう……何て言うか……」
本当に、うまく説明ができないようであった。
「うむ」と少し楽しみになってきたルレロであったが、
「いやいや」と首を振る。
「あの男、僕をルレロ・デギオンの生まれ変わりだと疑っている」
「そりゃ……そのままの名前で、転生するって言われた歳と同じだからでしょうね」
「それもそうか。しかし、困った。なんとか誤魔化す手はないものか?」
「あら、あるじゃない」
「ほう、聞かせてもらうか?」
「単純に、この決闘で事故に見せかけて……」
「ずいぶんと恐ろしい事を考えるなぁ」
「もちろん、冗談よ」
「うむ、まるで冗談には聞こえなかったが……」
「私の演技力も悪くないってことよね? 演劇文化にも力を入れてたあなたを騙せるほどなのだからね」
「ふっははは……将来は舞台に立てるさ。このルレロ・ギデオンの名前の元に保証をしようではないか」
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