第22話
ルレロたち家族は、農奴から自由民に解放されている。
大黒柱であるへルマンも専業の冒険者となり、農業を辞めている。
「うおぉぉぉ! 今日こそは勝たせてもらうぞ、へルマンどの!」
「ふっはっははは…… 抜かせ、ルレロ。農業の年期が違うわ、年期がよ!!!」
とはいえ、彼らの住む村は農村。 収穫の季節になれば、農家でない者も近所の手伝いに借り出される。
「ふぅ! 久々の農作業。生まれた時からやっていたはずが、大きく疲労を感じるぞ」
「そりゃ、ルレロ。お前の体は鍛えられている……とはいえ、11歳だからな」
「ふむ、そういうものか」とルレロは納得した。体は11歳、精神が111歳。
自分が11歳の少年である事実をルレロは思い出した。
(もうすぐ12歳、俺様が王であった100年前ならば、魔法学校が国中にあり、学ぶことができたのだが……おのれ、新王とやらめ)
かつての魔導国家ドラゴニアでは、魔法を中心にした文化であった。
しかし、現在のドラゴニアでは、ルレロ・ギデオンの功績、偉業と言われていた事業を禁止されている。
まるで、魔導王ルレロに深い恨みがあるように……
(おのれ、おのれ、おのれ! 待っておれよ、新王よ。雌伏の時が終わり、俺様の帰還を世界が知ったあかつきには、どのような目に合わせてくれようか!)
一通り憤った後、「スンッ」と冷静さを取り戻したルレロは――――
「しかし、新王とは何者か? 既に初代は亡くなっているのだろうが……いや、駄目だ。心当たりが多すぎる」
ルレロとて、一代で国王になった男。
『戦場では猛将となり、平常では内政の軍師となる』
そう言われて天下を取ったルレロは、敵の数もどれほど多かったか。 それはルレロ本人も把握していない数字だろう。
そんな事を考えていると、
ガヤガヤ――――
――――と何やら騒がしい声が聞こえてきた。 ルレロは聞き耳を立てる。
『こんな寂れた農村に、貴族さまが何の用件じゃろうか?』
『きっと、グリファン様の客人に違いねぇ。しかし、綺麗なお人じゃ』
どうやら、村人の見馴れぬ貴族がやってきているようだ。
「どれどれ」とルレロも遠目から見る。
(なるほど。白馬に跨がり、白銀の鎧を装備している。あれで貴族でなければ、詐欺師に違いなかろうよ)
さらに様子を窺うために近づいていくと、貴族の若さに驚いた。
まだ幼さの残る顔つき。15歳くらいか?
(貴族らしい上品な顔立ちだ。地位と名誉があるため、自然と美男美女の遺伝子が入り込む。だから、貴族は顔がいい)
彼の視線がこちらを向いた。
(……いや、流石に気のせいか? この距離だぞ)
しかし、白銀の騎士はこちらに馬を歩かせてきた。
「あなたがルレロさんですか? グリファン卿から話は聞いていますよ」
「なるほど、貴方がグリファン卿の客人でしたか。話は聞いていますよ」
確かにルレロはグリファン卿から話を聞いていた。 魔法使いを取り締まる異端審問官が来ると……
「私も聞いていますよ、有能な少年であると……」
「お前……」と危うくルレロは言葉を滑らせそうになった。 なぜなら、目前の少年貴族が魔力を使ったからだ。
(こいつ……こいつの右目は魔眼。異端審問官が魔眼持ちなんて、なんの冗談だ? それを発動させて、俺の何を見た?)
「おや、どうかしましたか? 急に顔色が悪くなりましたよ」
「身分の高い方と話して、緊張してしまったようです。何か、不思議な雰囲気を感じたのかもしれません」
そういって、自身の反応を誤魔化した。
「ふ、ふ~ん」と愉快そうに少年貴族は笑った。
「気を悪くしないでくださいね。なんでも10歳前後の少年に大魔王ルレロが転生して戦乱を起こすなんて予言がありましてね。我々、貴族たちも警戒を強めているのですよ」
「そうですか? それじゃ俺は、疑いが晴れたってことで良いですかね?」
「さて、どうでしょうか? 私は、しばらくグリファン卿宅に滞在させていただく予定ですね。これから理解を深めたいところですね」
「なるほどなるほど……ところで、まだ名前を聞いていませんでしたね」
「あぁ、私としたことが、名乗り忘れるとは……これは、とんだ失礼をしました」
そういって少年貴族は名乗った。
「私の名前は、ジョルジュ・ド・ピエール。ジョルジュと読んでくださいね」
そう言い終えると、ジョルジュと名乗った少年は馬を走らせた
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