第21話

 ルレロは隠されていた魔剣を発見した。 しかし、それで終わりではない。


 周囲に集まって来る魔物の群れ。 今は、『スターソード』と『コズミックシールド』の効果による結界に守られている。 


 だが、それも時間と共に結界の効果が薄まっていくようになっているらしい。


「よし、魔剣を確保したな」と結界を張っていたヘルマンが後ろに下がっていく。


「それじゃ、もう用件はない。脱出を――――って、扉が開かねぇ!」


 彼の言葉通り、扉が動かない。 どうやら、最初から一方通行になってたらしい。


「ここに魔剣を隠した奴は、性格が悪すぎるだろ。手に入れた奴を、絶対に外に出さねぇようにしてやがる!」


 ヘルマンの焦り混じりの叫び。 しかしルレロは、そうは思わなかった。


(――――本当にそうだろうか? 死の間際、自分の相棒である魔剣を隠したのは次代に残すため……)


「……次代? いや違うな。誰が持ち出したのか知らないが、本来の持ち主である俺様に返却するために魔剣を隠していたのだろう。だったら……俺様だったら」


 ルレロは魔剣に魔力を注入していく。 その工程の最中、100年の薄れていた記憶から、宝物庫にあった膨大な装備品から、この魔剣の正体に気づいた。


「あぁ、なるほど。思い出してきたぞ。これか……ふん、魔剣とはよく言ったものだ。これを剣として使って英雄譚に名を刻んだ奴にも驚愕するが――――」


 その刀身が禍々しい光を発する。凝縮された魔力が、今も解放される時を待っているのだ。


「ルレロ、お前……魔剣が使えるのか?」


 ヘルマンの声に、クスッとルレロは笑った。


「ヘルマンどの、結界を解除されよ。今――――魔剣を放つ!」


「――――っ! 頼んだぞ、ルレロ。一丁、強烈なやつをブチ放ちやがれよ」


「無論!」


 結界が瓦解していく。 同時に進軍してくる魔物の群れ。 


 群れを成している事で魔物たちには、興奮と狂乱が混ざりあい、苛烈さを増している。


 そこに、もはや魔物たちの意思は乗らず、ただ人を破壊するだけの事象が、そこにある。


 それに向けて、ルレロは今――――魔剣を振り下ろした。


 閃光。 しかし、それは『輝く回廊』に相反して、ドロドロとした印象を抱く穢れた光。


 邪悪たる泥に飲み込まれていくように、魔物たちの群れは、閃光に包まれていった。


 その閃光は走り去った跡……そこに何も残っていなかった。


・・・


・・・・・・


・・・・・・・・・


 ダンジョンから脱出後、ルレロたち親子は依頼主である老人の家に行った。


「じいさん、凄かったぜ。魔剣はよぉ!」


 ヘルマンは上機嫌で、依頼通りに手に入れた魔剣を老人に手渡した。


 本来の持ち主であるルレロ本人は、まさか―――


「それは俺様のだ!」と言い出せるわけもない。 何とも言えない微妙な感情だけが残った。


(まぁ、これで俺様の配下だった者から英雄が生まれるのだ。そう思うと悪くない代償よな)


「うんうん」と魔剣の存在を忘れていたクセに、普段通りに不遜的なルレロであった。


「ほう、これがあの……」と感慨に浸る老人であったが、受け取った魔剣をヘルマンに返却した。


「やはり、これは受け取れませんな。歴史的価値は天文学的ですが……ほら、ご覧なさい」


 老人が言う通り、2人は魔剣の状態を見た。薄暗いダンジョンの中では、気にならなかったが、その保存状態は絶望的なものだった。


「あちらこちらに錆。見えないほどに小さな亀裂が多く走っていますのう」


「これは記念に差し上げます」と老人。彼は、こう続けた。


「ワシは、英雄譚が事実だと証明できれば本望。冒険者ギルドに依頼達成を伝えれば、公式に魔剣は存在していたとお墨付きが貰えますからのう。それでワシの目的は達成ですわい」


 ヘルマンは魔剣を受け取ったが、彼は微妙な表情をした。渋々といった様子。


 なんせ、ご禁制の魔具だ。 保持しているだけで罰せられる可能性がある。


 それに武器としての性能は、彼も見たところだったが――――


 お日様の下で見た魔剣は、今にも折れそうなほどボロボロ。どんな鍛冶屋であっても修復は無理そうだ。


「ならば、これは俺様が貰っておくぞ」


 そう言うとルレロはヘルマンから魔剣を取った。


「なぁに、護身用のボロ剣として扱えば、魔剣とは思われまい」


 そう言いながら、飄々と彼は魔剣を腰に帯びた。


 これで依頼は達成……しかし、話はこれで終わりではなかった。


 ・・・


 ・・・・・・


 ・・・・・・・・・・


 自宅に戻ったルレロたち。その日の深夜、なぜかルレロは家の前に1人で立っていた。

 

 ある人を待っていたのだ。 そして、その人物はやって来た。


「やはり、来ると思っていたぞ」


 そのルレロの言葉に対して、訪問者は片膝を地面に付け、頭を下げた。


「……長い年月、我が一族はご帰還をお待ちしていましたルレロ・ギデオンさま」


「うむ、やはりそうであったか。このたびの茶番は俺様に、このを渡すために何十年も仕込みであったか」


 杖――――そう言いながら、ルレロは魔剣を取り出した。


「フン、俺の時代では流行だったが、今では廃れた文化になっているのだな。この仕込み杖は――――」


 そう言うと、ルレロは魔剣に魔力を込める。 すると、どうだろう……ボロボロだったはずの魔剣は、杖に形状を変化させた。


 魔法使いが剣士に偽装しながら、魔法を執行するために杖を剣に偽装したもの。


 魔剣の正体とは、ルレロが100年ほど前に鍛冶屋に作らせた物。現在では珍品とされる部類のものだろう。


「だが、これがいい。今の俺様には相応しい杖だ」


 その言葉に老人は、感涙すら流した。


「我が先祖は、今の国王と戦いながらも、いずれ転生されるルレロさまに何かを残したい。何か、力を――――そう思い、奮戦しながらも、貴方様の武器を死守していました」


「うむ、そして100年もの年月。お前も、それを守っていたのだな? 見事である!」


「もったいないお言葉でございます」


「そう遠くない未来……俺様が、この国を取り戻したあかつきには、お前たち一族に褒美を――――そうだな。それこと、本当に英雄譚としてお前の先祖の名を残そう」


「はい、ありがとうございます。わが、先祖も喜んでおりましょう」


「そうか……そう言えば、聞いていなかった。その英雄の名前は、お前の先祖は何という名前なのだ?」


「はい、――――と言います」


「あぁ、なるほど。あの者だったか」


 彼は100年ほど前の記憶から、自分に使えてくれた少年の顔を思い出した。


 騎士や将というよりも、従者のような役割だった少年。 まさか、彼が英雄として生き、死んでいくとは――――


「やはり、この世は面白い。しからば、早くこの国を取り戻せねばなるまい」 


  


  

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