第20話

『魔剣…… この地に隠す。輝く回廊にて、巨人の剣と盾を重ねろ。光が届かぬ場所に魔剣を隠す』


 石に刻まれた文字。 急いで書いたのだろう。


 乱れているので読み難かったが……


「凄いなぁルレロ……おめぇ、なんでこれが読める?」


「なんで? ヘルマンどの、妙な事を言う。下手な文字ではあるが……いや、何でもない」


 この文字、ルレロにとっては読む事は容易だった。下手に書かれた文字だろうが、乱れた文字だろうが……


(まさか、100年前に普通に使っていた文字だから、簡単に読めるとは言えまい。ここは、1つ……)


「うむ、俺様はグリファン卿の屋敷で働いてるからな。こういう古い貴重な物に触れる機会は多いのだ。文字も少しだけ習ったに過ぎない」


 そう言うとヘルマンは素直に納得したみたいだ。


「さすが、俺の息子だぁ」と自慢しそうな勢いになってる。しかし、次に石碑の内容に興味が移ったらしい。


「しかし、どういう意味なんだ? 魔剣は『輝く回廊』にあるのはわかったが……」


「う~ん」とルレロが考え始める。 その間、意外にもヘルマンが謎解きに協力的だった。


「わからねぇのは巨人の剣と盾……いや、巨人はイルミナゴーレムの事か? あの回収した剣と盾をどうにかして使え……と?」


(肉体労働以外、面倒くさいと嫌がるタイプと思っていたが、冒険者としては存外、真面目なのかもしれないな)


 そんな父親の意外な姿に関心しながら…… 


「なるほど、確かに剣と盾は、そうに違いないな。では、光が届かない場所というのは?」


「どうだろうな……そもそも『輝く回廊』は全方向から眩しいくらいの光が乱反射してやがったぜ。光が届かない場所って言うと……」


「影……か? 影が生まれる場所に魔剣は隠されていると?」


・・・


・・・・・・


・・・・・・・・・


 ――――『輝く回廊』――――


「よし、行くぞ。準備は良いな?」


 ルレロが頷くの見届けて、ヘルマンは扉を開いた。


 本来は薄暗いはずのダンジョン内部でありながら光り輝く回廊。


 目を慣らしていないと、僅かな時間だが視力が低下する恐れがある。


「前方、魔物の群れ……前回の俺たち、あれを突破して駆け抜けたはずだよな? よくできたと思うぜ、まったくよぉ!」


 ヘルマンが取り出した2つの装備品。 剣と盾だ。


 もちろん、『ダンジョンボス』 イルミナゴーレムを倒して手に入れた剣と盾――――鹵獲品ろかくひんって奴だ。


 彼は、手にした盾――――『コズミックシールド』を宙に放り投げる。


 次に豪快に剣――――『スターソード』を振る。


 剣で盾を叩いた。 すると――――盾に異常が起き始める。 


 その光景にルレロは「やはり……」と頷いた。


(魔眼による鑑定。それで剣の効果はわかっていた。星属性魔法で、空間に斬撃を残す。一方、盾の効果は?)


『コズミックシールドの反射する光は、周囲に幻想的な光景を描き出します』


「どういう意味かわからなかったが……『スターソード』が発する光を反射させて、周囲に幻想的な光景を描き出す。つまり、その光には斬撃の効果が付加されているって意味だ!」


 ルレロの考察通りの光景が起きる。 周囲に分散された『スターソード』の斬撃は、突撃してくる魔物たちの群れを阻む結界となった。


「よし、ルレロ。後は『輝く回廊』で影を探すだけだ。急げよ……この結界だって無限の効果じゃあるまい。いつ、魔物たちが再び襲い掛かって来るかわからねぇぞ」


「無論、承知!」と2人は地面にあるはずの影を探す。しかし、見つからない。


 激しい光の乱反射。 そこに立っているルレロとヘルマンの影すら生まれない。


「――――妙だ。影が生まれない。足元じゃないのか?」  


 2人はいくら探しても影を見つけれないでいた。


「やべぇぞ、ルレロ。結界の光が細くなってやがる。一度、撤退をして――――」


「いや、わかった! 碑文には、影を探せなんて書かれてなかった。正確には――――」


『光が届かぬ場所に魔剣を隠す』


「光が届かない場所……ここで絶対に光が届かない場所なんて存在しない。じゃ、どこか? 『輝く回廊』に隠した。 回廊……つまり、地面に隠した? どうやって?」


 ルレロはぶつぶつと呟き始めた。それから、何かに気づいたように回廊の入り口まで走って下がった。


「ここは遮蔽物のない回廊。魔剣を隠した者も、油断をすると魔物に襲われたはず。だから、地面に埋めるとしたら入ると同時に結界を張ったはず。そこは自然と俺たちが今、立ってる場所と同じになるはずだ!」 

 

 ルレロは護身用に渡されていた剣を抜く。そのまま、勢いよく剣を地面に突き刺した。


 すると、金属音が鳴り響く。 


 回廊の地面は人工物のように見える。 隠されたソレを出現させるために、地面が割れていく。


 そこから、発見者に応じるように魔剣が姿をみせて、宙に浮き上がってきた。


 それを手にしたルレロは――――


「魔剣――――掴み取ったぞ!」と、まるで戦場で勝ち名乗りを上げる王様のように、魔剣を天に向けて突き上げた。 


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