第27話

 出現した魔物はサイクロプスだった。 


 片目の巨人。 手には棍棒が――――木を引き抜いて、そのまま武器にしたかのような――――握られていた。


 間違いなく強い魔物の部類だ。 だが、上位冒険者であり、騎士であるヘルマンには手こずる相手ではない。


 しかし、それは1対1の話だ。 サイクロプスは1匹ではなかった。


 夜の闇に包まれた森の中、3匹のサイクロプスが立ちはだかる。


 大きな大きな1つの目……巨大なそれが闇に光り、怪しげな影を投影している。


 よく見れば彼等の武器――――サイクロプスたちは木を武器にしているだけではない。

 

 木の棍棒を手にしているのは戦闘の1匹のみ。後方2匹は石を削って作った刃物。所謂、石器――――石器の槍を手にしている。


 そんなサイクロプスを前にしたヘルマン。彼には焦りはなく、余裕すら見えた。


「ここは、俺に任せてください」とだけ言うと、彼は愛剣を僅かな星光に煌めかせた。


「大丈夫か? 武器を有した巨人……それも鬼人の部類。強敵だぞ」


「まぁ……見ててくださいよ」と剣を高く掲げた。


 それはサイクロプスへの宣戦布告。彼等もそれを理解したのだろう。


 ルレロを一瞥もすることなく、ヘルマンへ集中していく。 

  

 3匹のサイクロプスがヘルマンを徐々に囲む。明らかに狙いは、同時に攻撃を繰り返すこと。


 最初の1匹が棍棒を持ちながら突進してくる。ヘルマンの剣は回避からのカウンターが基本である。


 巧みな足さばきでその攻撃を避け、剣を振り抜いて急襲。


 彼の剣がサイクロプスの足元を切り裂くと、敵はうなり声を上げて崩れ落ちた。


「まずは1匹……次に2匹目!」


 言葉は通じなくとも、死を宣告されたのは理解できたのだろうか? 2匹目は怒りに燃えて、ヘルマンに襲い掛かっていった。


 だが、その攻撃はやはりヘルマンには届かない。


 剣舞いのような動き。 繰り出された攻撃に対して、ヘルマンはサイクロプスの腕を何度も斬りつける。


 その巨腕は、簡単に斬り崩せない。


 しかし、ヘルマンの技は、剣の軌跡が光の線に見えるほど、高速のカウンター。


「これで仕留めきれないか。代わりに攻撃力を半減以上に減らす事はできたな」


 ついに武器である石器の槍を持てなくなり、手から落とす。 それを再び、拾い持ち上げれる力もなくなったようだ。


 明らかに戦意を喪失して、怯えているようですらあった。


 実質、敵は残り1匹と言って良いだろうか? 

 

 最後のサイクロプスがヘルマンに襲い掛かる。


 剣が切り裂く音とサイクロプスの咆哮が、夜の闇に響き渡った。


 ・・・


 ・・・・・・


 ・・・・・・・・・・


 2匹のサイクロプスは倒れている。もう命は尽きている。


 腕を切り裂かれた1匹は、既に逃走をして姿は見えない。


「見事だ、ヘルマン。人の身でありながら、剣術だけでサイクロプスを――――それも3匹を倒し切るとはな」


 しかし、ルレロの賛辞に対して、ヘルマンは「……」と無言。 今も前方を睨みつけている。


「ヘルマン? もしや、まだ敵がいるのか?」


「はい。随分と頭が良い奴で、殺意と敵意を消す術を身に付けている様子です」


「勝てるか?」


「まさか、負けるとは言いますまい!」


 ヘルマンは納めた剣を再び抜く。


 静かに鞘から抜かれる音。それが夜の静寂を裂くように響いた。


 それには反応したのだろうか? 敵が姿を現した。


「ルレロさま、来ます。離れてください」


「巨大な肉体に似つかわしくない俊敏な動き。それで、どうやって気配を消して近寄って来たのだろうか?」


 そんなルレロの疑問を浮かべるも誰も答える余裕はない。


 そんな猛攻を仕掛けて来る魔物。 それはまたしてもサイクロプスだった。


 ただし、特別性を示すように赤いサイクロプス。 所謂、レッドサイクロプスと言われる特別個体というわけだ。


 手にした武器は、先ほどの3匹のように原始的な武器ではない。


 手斧――――それも鉄の斧だ。 明らかに人間――――あるいはドワーフが作った可能性も0ではないが――――が作った斧だ。


 どういう経緯で、サイクロプスの手に合うサイズの斧が作られ、


 どういう経緯で、サイクロプスが手に入れたのか?


 とにかく――――


「コイツは、別格の魔物だぞ」とヘルマンは愉快そうに笑った。


 それは戦闘狂だけが見せる狂った笑いのように見える。 

  


 

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