第28話
へルマンは剣を構える。
相手は隻眼の魔物サイクロプス。特別な個体であるように全身が赤く染まっている巨人の魔物だ。
周辺に濃い魔素が漂ってでもいるのだろうか?
たまにいる。魔素の影響で変質した魔物。そして、それらは例外もなく強い。
対峙する両者。それを見るルレロは――――
(先手を仕掛けるならサイクロプスの方。へルマンどの剣は後手必勝のカウンタータイプ。なにより――――リーチが足りない)
その考察通りにサイクロプスが動いた。 いや、離れてみているルレロですら、その初動は認識できなかった。
突然、しゃがみこんだサイクロプス。鋭く腕を伸ばして、へルマンの体を掴みにいく。
「なんの! 当たりはせぬよ」とへルマンは避けた。 しかし、攻撃パターンであるはずのカウンターにまで攻撃が繋げれなかったようだ。
仕切り直し。
「へルマンどの、こやつは先ほどのイクロプスとは違う。技を使うぞ!」
ルレロの言葉にへルマンは頷いた。
へルマン本人も今の攻防で、サイクロプスの異常性に気づいたのだろう。
その異常性をへルマンは頭の中で言語化する。
(サイクロプスの初動……間違いなく、あれは技だ。足を脱力させ、上半身は動かさずにしゃがみこんだ。無駄な動きが削られたためにへルマンどのの反応が遅れたのだ)
確かに、徒手空拳の戦いにおいて、そのような技を使う者はいる。しかし、魔物が同じ動作をするとなれば、話が違ってくる。
(何者かが、この魔物を捕まえて武を仕込むように調教したのか? あるいは、人類の英知を自分で思い付くほど、頭が良いのか?)
人間の知性を凌駕する魔物。代表としてはドラゴンが挙げられる。
(しかし、このサイクロプスがドラゴンと同等の知性を有しているとしたら……)
ルレロの思考を待たず、両者の戦闘は激しさを増していっていた。
巨人の魔物は、その巨体を戦いに利用する。 当たり前だ。しかし、このサイクロプスは少し違うようだ。
彼は気づいている。
人間は本気で叩かなくても良い。 撫でるように頭に触れる。それだけで人間はしぬ。
そのため、サイクロプスの攻撃は、ただただ速さを意識して力を抜いている。
それだけではない。 今だ攻撃に繰り出していない右の鉄斧。
左で牽制して、右の斧でとどめを刺す。それはまだ――――
「そろそろ、慣れてきたな」とヘルマンは呟いた。
それに驚くサイクロプス。恐ろしい事に、この魔物は人の言葉を理解する知能まであるのだ。
サイクロプスは怒る。 ヘルマンが馬鹿にしてきたと理解したのだ。
左手で掴みかかりながら、同時に右手で斧を振るい始めた。
その攻撃にヘルマンが吹き飛んだ。
「ぐっ……」と呻きをあげるもすぐに立ち上がったヘルマン。
一方のサイクロプスは絶好のチャンスであるにも関わらず、動けずにいた。
その様子にルレロは、「見事である」と呟いた。
一瞬の攻防。 掴みに来るサイクロプスに対して、ヘルマンは刺突を繰り出していたのだ。
そして衝突。ヘルマンは弾き飛ばされた。 だが、彼の剣はサイクロプスの手を貫いていたのだ。
「まずは一撃……次は連撃で襲わせてもらうぞ!」
攻防逆転。 今度はヘルマンが攻撃に打って出る。
彼の剣が赤いサイクロプスに深手を負わせ、鮮血が夜空に飛び散っていく。
だが――――
「ぐぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
サイクロプスから咆哮が発せられた。
ついに高い知性を投げ捨て、暴走したかのように咆哮を上げたのだ。
傷ついたサイクロプスは、怒りに満ちた眼で睨みつける。
その一つ目の眼からは炎のような光が燃え上がり、森に赤い輝きを投げかけた。
それは比喩ではなかった。 サイクロプスは人間よりも高い知性を有している。
ならば、当然使えるだろう。 人間と同等――――いや、それ以上に魔法が使える。
赤いサイクロプスの怒りは魔法の力に転換された。彼の隻眼に魔力が集中していく。
「くっ!」とヘルマンは構える。
魔物が発する魔法攻撃。 そのような攻撃をするサイクロプスと戦った経験はヘルマンにない。
魔法の対策は――――ない。
次の瞬間には炎魔法。それが閃光の速度でヘルマンに向けて発射された。
しかし、それは空中で霧散し、ヘルマンに届くことはなかった。
何が起きたのか? サイクロプスとヘルマンの間に人が立っていた。
そして、その人の正体は、ルレロ。ルレロ・ギデオンであった。
「うむ、ヘルマンどの。何度、見事と称賛させる? しかし、ここからは魔法の領域。すなわち、俺様の領域だ!」
ルレロは魔力を解禁させた。
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