第29話
ルレロ・デギオンは老獪な魔法使いである。 なんせ、100歳という年月を魔法の鍛練と普及に費やした男――――
だが、そんなことはサイクロプスには関係ない。再び魔力が増幅され装填していく様子が感じ取れる。
そして、炎魔法が一点に集中され紅の閃光が敵を穿つ。 ――――そのはずではなかったのか!?
結果は先ほどと同じであった。
彼の特徴である隻眼に魔力が濃縮され、炎魔法は威力と速度を増す。
そんな強力であるサイクロプスの炎魔法がルレロに届く事なく、途中で霧散された。
「ぎっ? ぐるうううう?」と困惑したサイクロプスは喉を鳴らす。
「よく練られている。魔法は使い手のイメージによって、威力や効果が大きく左右される。自身の特徴に魔力を集中させると速度と威力が上がる気がする。それが魔法使いには重要……才能と言っても良いだろう」
その声は、まるで若者を指導する教師のようであり、厳しさと優しさの両方を持ち合わせていた。
「お前は知らないだろうが、俺様は生前に1000を越える魔導書を著してきた魔法使いだ。だから、人は俺様のことを魔導王と呼ぶ」
その言葉は威圧。 何倍とある体格差を凌駕して、ルレロはサイクロプスを威圧して見せたのだ。
だが、それで終わりではない。戦いは言葉ではなく、もっと単純であり、荒らしいものであるべきだ。
サイクロプスは、またしても魔力を瞳に込める。 今までよりも、強く、速く……
皮肉にも、ルレロが指導した通り、強烈なイメージを自身の魔法に乗せる事で強化していく。
「ほう……やはり、見事と賛辞を送らねばなるまい。もしも、魔物でなければ弟子にしてやるところだが……残念ながら、こちらは国を追われる身。そんな余裕もない」
ここにきても、ルレロは戦いの場に似つかわしくない言葉を吐く。それから……
「うむ、空気に漂う魔素を動かして、魔法を無効化させていたが……次の一撃はそう簡単ではないか」
彼は杖を振る。そして口から紡ぐのは古代の呪文であった。
同時に、夜空に浮かぶ星々の光が地上に降り注ぐよう――――いや、その光景はルレロの体に光が取り込まれいくように見えた。
事実、彼の手元には浮遊する星のような粒子が集まっていた。 その粒子を無造作に地面に振りかけていく。
それだけだ。それだけで地面には魔法陣が形成されていた。
サイクロプスの隻眼から放たれる魔力。
本来なら、この森の木々を焼き払い、新たな道を作りかねない閃光。
しかし、それはルレロに届かない。
彼の足元――――魔法陣に吸い込まれ、その魔法陣は次第に輝きを帯びていった。
その現象……サイクロプスの怒りを加速させる。
「ウゴオオオオォォォォォォォォォォォォォオオオオオオ!!!」
彼は怒りに燃え、隻眼から魔力をはなったままルレロに襲い掛かった。しかし、ルレロはその攻撃を華麗にかわす。
さらに風魔法を使い、襲いかかってくるサイクロプスへ逆に傷をつけていく。
その戦い方に気づいたのは、離れた場所で魔法の攻防を見ていたへルマン。彼は、
「あの戦い方は、まるで俺の剣。我が一族の悲願が、王に届いているならば、これほど嬉しい事はない」
その瞳には涙すら滲んでいた。
「俺には学がない。教養というものがない、だが、そんな俺にもわかるものがある。これは芸術であり、俺は戦いが美しいと感じている」
へルマンの感想は正しい。 戦うための性能を追求して生まれるのが機能美であるならば、この魔法戦においても美が生じていたとして、何もおかしな事はない。
事実――――
ルレロの体は、彼の魔方陣の影響で星々の輝きを有している。
それにサイクロプスの怒りの魔力が交わり、世界に神秘的な光景を生み出している。
だが、そんな戦いにも終わりは訪れるのだ。
サイクロプスは次第に疲弊。その攻撃は衰えていった。
「これ以上は戦えぬか? ならば、これで終わりだ」
魔法使いは最後の決断を下す。
夜空に増した星の輝きが魔法陣に集約され、魔法使いが放つ圧倒的な魔力がサイクロプスに向けられた。
そこから放たれたのは洪水だ。 水属性の魔法……という意味ではない。
星の光が洪水になりサイクロプスを飲み込んだのだ。
彼の体が煌めく光に包まれ、全身を隠すまで僅かな時間も必要なかった。
やがて――――
光の輝きが消え、再び姿を表したサイクロプス。 その巨大な体は地に倒れ伏している。
夜空には静けさが戻り、ルレロはその勝利の瞬間を静かな感嘆とともに迎え入れた。
「やりましたな」と主の勝利を称えるへルマン。
「うむ」と言いながら、腕を上げて答えるルレロ。
2人とも勝利を確信していた。 だが……
地面に魔力は走る。 倒れたサイクロプスを中心にして炎が上がった。
どうやら、戦いはまだこれからという事らしい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます