第36話

 時は100年以上前。 場所は魔導大国ドラゴニア……その上空。


 2つの影が浮遊していた。


 片方の影は人間。魔導王ルレロ・ギデオンその人だ。 


「まさか、ここまで俺様が追い込まれることになるとはな。流石、神の化身と言われる幻想種か」


「……」と巨大な影は、何も言わない。


 まさか、人の言葉が理解できないということはないだろう。


 なんせ、相手はドラゴンだ。 


 高い知力と魔力を持つ最強の魔物。それ以前に、デカイと言うことが

単純な驚異となる魔物。


「人と話す言葉は持たぬと言うことか。なるほど、それも……」


「……解せぬ」


「何?」とルレロは驚いた。


 ドラゴンとの戦いは、およせ1日に及ぶ。 それまでドラゴンは言葉はおろか、意思を表明するような事すらしなかったからだ。


「この地の名前はドラゴニア。私の驚異を後世に残すように名をつけたはずだ」


「ふっ……ふっはははは! そうか、この国の名付け親が貴様か。それも……驚異を残すためだ? 自己顕示欲も極まったりだな」


「長い眠りで、私への敬意も消えてしまったか。悲しい事だが、また恐怖を刻めばよかろう」


「抜かせ!」とルレロは怒気を込めて威圧を放った。


「貴様の自己顕示欲で、どれほどの民が犠牲になった。確かに、この世には神に等しい者共がいる。だが、俺様の国を荒そうとする者は、何人たりとも許さぬ」


「愚かだ。本当に愚かだ。その強さは私と同じ種類の力。ならばわかるはず」


「何がだ! 答えて見せろ神龍よ!」


「弱き者は自由を捨て去り、強者に従っては、その庇護下に入れば良い。ならば……強者は自由を示すのが強者の義務ではなかろうか?」


「ふん、この期に及んで、有名な哲学の問いかけか! 俺様は、ただ1人の強者では非ず! 俺様の背後には何千万の同胞がいると思え!」


「ただ1つの個。それも絶対的存在でありながら、群に留まろうとするか。それは弱さなり!」


「弱くて何が悪いものか! その弱さが今から貴様を討つ力となる!」


「なるほど、貴様は強者にあらず。神に挑む愚者であったか。ならば、神話のままに地に落ちろ!」


 ドラゴンの顎は大きく開かれた。 ドラゴンの長い体は、魔力の加速装置の役割を果たしていると考えられている。


 加速した魔力は、そのまま破壊力。あるいは攻撃力そのものへ変化するのだ。


 そして、今――――炎に変化して放射される。

 

 それはルレロの体を飲み込み、そのまま地上に――――魔導大国ドラゴニアを焼き尽くす一撃。


 そうなるはずだった。しかし……


「何! 貴様、私の炎を吸収したか!」


「あぁ、人の知恵。弱者が強者を……立ちはだかる壁を打ち破るための力だ」


 ルレロは全身を炎で身に纏っている。 


「貴様が強者であろうとするなら、受け止めてみせよ! これが人間の魔法である!」


 次の瞬間、ルレロの体は赤い閃光となり、ドラゴンの体を貫いていた。


「見事なり人間の王よ。しかし、私とて神の力を有する存在の1つ。今日、この日――――他の存在も貴様を知った。これから、この国は地獄を見ることになるぞ!」


 命が砕かれ、1000年……いや、神話の時代よりも生きる生物の生命が終わった。


 しかし、その最後の言葉は、あまりにも不吉な予言であった。


 この数日後、ルレロ王は戦力の強化を命じた。 


 その計画の1つ。僅かな魔力消費で巨大種と言われる魔物と人間が戦うための兵器


『機械式魔導外装』


 その開発が急がれた。


・・・


・・・・・・


・・・・・・・・・


「本当かよ? 嘘くさいな」とノワールはパタパタと手を振った。


「おいおい、俺様の数ある逸話である龍殺しを知らぬのか? では、巨人戦争は? 人工龍襲来に、宇宙巨大生物との一騎討ちは?」


「全部、知らねぇよ。ドラゴニアじゃ、あんたの歴史の大半は消されているぞ」


「なんと……!」と絶句するルレロを横目に、ノワールは空を見上げた。


「とにかく、あのゴーレム。『機械式魔導外装』は、アンタが考案した兵器ってことかい?」


「あぁ、それをこの国……む? この国の名前はなんだったか?」


「クリスタリヤだろ?」


「うむ、俺様の時代とは国名が変わっているのか……とにかくだ! そのクリスタリヤに技術を横流しした者がいる。さて、どんな目に合わせてやろうか……ふっははははは!」


「100年前の技術なら、流出者も流石にもう死んでると思うぜ?」


「むっ……それはそうと1機は欲しいな。いや、いずれは……」


 機械式魔導外装で作られた部隊で、ドラゴニア奪還に向かう未来を想像していたルレロだったが、ある疑問が浮かんだ。


「素朴な疑問がある。ドラゴニアとクリスタリヤは隣国だ。隣国同士は同盟を結んでいても仲が悪いものと相場が決まっておる。 

 なんせ、どこの国だって過去の歴史を振り変えれば、隣国の領土を狙って攻めたり、攻め込まれたりしてるものだからな」    


「そうなのか? 確かに……いや、私は分からねぇけどな」


 そんなノワールの発言をルレロは無視する。どうやら、自信の考えを言葉にしているだけらしい。


「ならば、どうしてクリスタリヤはドラゴニアを攻め込まない? これだけでも十分な国力差があるというのに?」 

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