第35話
地下路をトロッコに乗って進む。 大冒険の幕開けには相応しい光景なのかもしれない。
惜しむべくは――――などと評してはならないのかもしれな――――魔物が出没しない徹底管理された地下路という所であろうか?
そんな安心、安全の地下路をトロッコに乗って、まる1日の道中。何事もなく到着した。
「この扉の奥が隣国というわけか」と心なしかワクワクした表情のルレロは扉を開いた。
「うむ、なるほど……秘密の通路がどこと繋がっているのかと思っていたが、下水道か」
「明らかにテンションが下がってやがるな」
呆れたようなノワールの声。それから彼女は、
「こっちだ。付いてこい」とルレロの先を進んで案内する。
「しかし、こうやってみると作りが良い。誰も見るものがいないはずの下水道。ここで働く者への配慮として考えるなら国力の高さが窺えるな」
「お前、下水道で国力を測ってるんじゃねぇよ。ほら、ここから上るぞ」
ハシゴのようにつけられた鉄の棒。彼女のいう通り、ここから外に出るらしい。
2人は鉄の蓋を外して出る。 そこは人気のない路地裏と言った所か?
「おい、王さま。お前……臭いを消す魔法とかないか?」
「なんだ、急に?」
「鼻が麻痺してる気づかないだろうが、私たちは下水道を通ったんだ。目立つほどに臭うはずだ」
「なるほど、臭いで脱国者とバレてドラゴニアに送り返されるのは笑い話にもならないか」
笑いながらルレロは、水属性の魔法を使った。
「うむ、これで衣服や肌の表面の汚れは洗い流せるだろう。残った臭いは魔法で誤魔化すか」
「無臭の魔法ってことか? ずいぶんと便利な魔法だな」
「ふん、幻覚魔法や幻術魔法のようなものだ。臭いで反応する魔物もいれば、五感が異常に鋭い人間もいる。いつだって俺様の敵には、そういう普通じゃない奴が送られてきたてたのだ」
「そんなに嫌われていたって事か?」
「抜かせ。良い王とは、悪人に取っては悪き王なのだ」
「それは逆だって同じだろ? 悪い王は善人に取って悪い王だ。今を生きる私には区別がつかないね」
「やれやれ。善王か悪王かは後世が決めるなどと言うが、判断を下せる者は、その時代を生きた者しかおらぬ……という事か」
「? なに、したり顔で難しい事を言っているんだ。行くぞ」
「うむ」とルレロはノワールの後ろを歩いた。
裏路地から、路地に……目前に広がる光景にルレロは思わず
「なんと!」と驚きの声は発せずにはいられなかった。
時間は夜のはず。しかし、煌々と輝く灯明は昼を見間違うほど。
まるで研磨されたように滑らかな地面は、滑らないか不安になるほど。
その道路を避けるように立ち並ぶ建物の高さ。その高さは、彼の知る城々と比較にならないほど。
なにより、人々の数が異常である。今日は何か祭りでもあるのでははない。思わず通行人に聞きそうになるほど。
一体、何度の『ほど』と例えで表せねばならぬか? それほどまでに異常発達した近代都市がそこにはあった。
「どうだい王さま? その様子じゃ声もでねぇほど驚いてるか? 私も婆さんに連れられて何度か来たが、初めての頃はあんたと同じ反応を……」
「違う!」
「ん? 何が違うって?」
「これは、これでは! 100年前に俺様がドラゴニアの未来都市と描いた青写真そのままではないか!」
「……? なんだって? そいつはこう……なんだって?」
「わからぬか? この国に俺様の未来都市計画をパクった奴がいるってことだ」
「それは考えすぎだろよ。100年後って言っても今の技術の延長戦上だろ。一部が一致したからと言って、全部パクリだって言い切るのは人間の悪い所だぜ?」
「何を勘違いしておる。一部ではない! これを見よ」
ルレロを促したのは、町の地図だった。
「これが何か?」
「俺様が考えた区画整理と完全に一致しておる」
「ん? ん? あり得るのか、そんな事?」
「あり得ぬ」とルレロは断言する。 そもそも、この国の土地はドラゴニアの地形とは、全く違う物のはず……いや、それは当たり前だ。
それなのに、都市計画というものが一致しているということは……
「これが俺様の想像通りならば……」とルレロは空を見上げた。
「おいおい、まさか。あれもあんたが考案した物って言うつもりじゃないだろうか?」
ビルとビルの隙間。夜空に人影が飛んでいる。
「あぁ、まさか俺様とて……あれを完成型を見ることになるとは思わなかったぞ」
それはゴーレムであった。 より性格に言えば、ゴーレムの技術を機械化させ、乗り込んだ人間の魔力を倍増させる戦闘機械。
「あれの名前は機械式魔導外装。人間の手でドラゴンなど上位魔物を倒すためだけに作られる予定の鎧よ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます