第34話
赤い閃光。 サイクロプスが放った破壊の魔法。
ノワールは、それを相討ち覚悟で放たせた。
(たとえ、自身が大ケガを追っても勝てば、大金星。何より、私の体は特別製だ!)
戦いの直前、彼女の言葉。サイクロプスよりも強くて頑丈だという自己評価。
あれは事実だった。 魔物使いという魔物を調教する者の特徴か?
彼女は並みの人間よりも遥かに頑丈であり、前衛職のドワーフの如く屈強な肉体を有しているのだ。
しかし、感じんの赤い閃光はルレロとノワールの元に届かなかった。
ルレロの手から放たれた魔法。それは閃光とぶつかり、迫り来る魔法を相殺して見せたのだ。
「なっ! 今の魔法は、サイクロプスの赤い閃光!? どうしてお前が使える?」
「忘れたのか? 俺様はルレロ・ギデオン……人呼んで魔導王だ。一度、見た魔法を分析する時間は十分にあった」
「――――やっぱり、化け物だな。あんた」
「ふっはっはっ……それは褒め言葉として取っておく」
忘れてはならない。彼が、森で赤いサイクロプスと戦った時に使った魔法……星属性の魔法など100年前には存在していなかった魔法である。
それをルレロが使えている理由は、数日前にダンジョンで星属性の攻撃を行うゴーレムと戦ったからだ。
つまり、魔導王ルレロは一度見た魔法を数日あれば、再現して使用することができる……魔法の化け物なのである。
「けど! 前衛の私の攻撃を受けながら、サイクロプスの魔法を相殺し続けるのにも限界ってのがあるだろ?」
「うむ、俺様の限界か? それは俺様自身に取っても興味深い。お前が引き出してくれるのか? 俺様の限界とやらをな!」
ルレロは剣(正確には剣に偽造された杖であるが)を抜いた。
その剣先に魔力が集中されていく。それをみたノワールは驚愕に襲われた。
(赤い閃光? だが、魔力の再転換が早すぎる!)
彼女の使い魔であるサイクロプスが同じ魔法を使う場合、どれくらいの時間が必要か?
膨大な魔力を体の特徴である目に集中させる事で放つ赤い閃光。
およそ10秒前後の時間が必要なのに対して、ルレロは3秒ほどの早業でそれを放った。
「くっ!」と回避するノワール。 その直後、反撃に出る。
(元より、魔法使いのルレロ相手に距離を取って戦闘はあり得ない。剣の間合いなら3秒もあれば十分に――――)
「馬鹿者。誰も見せた魔法でのみ戦うとは言っておらぬではないか」
ルレロが呆れたように言う。 その言葉を示すように、彼の足元には魔方陣が浮き出ている。
「これは地属性の魔方陣!」
「ほう、よく勉強をしている。魔法使いとの戦闘経験など……いや、あのご老人と模擬戦を繰り返しておったのか?」
それはルレロの召喚魔法とでも言うべきか? 魔方陣から産み出されたのは、植物の枝。
それらは触手が自らの意思を持ち、滑らかに動きまくるのと同じようにノワールを拘束していく。
「この程度で私を止めれると思っていやがるなら、侮りが過ぎるぞ!」
その言葉の通り、彼女は剣を振り、魔法の植物を切り刻んでいく。
「侮ってなどおらぬさ」とルレロは悠々と彼女の横を通りすぎていった。
「待て! この煩わしい!」とルレロを止めようとするも、彼女が切り払ったはずの植物は既に再生を始め、再び襲っていく。
「覚えておくがよい。前衛の戦士、後衛の魔法使い。そのどちらも相手にする時は、前衛の動きを止めて、後衛を先に倒すのが定石だ。ほら、
彼の杖は、サイクロプスの鼻先に止まっていた。
「もしも、ここが地下路ではなく広い場所だったとしても結果は変わらぬだろう……しかし、惜しいな」
「?」
「このサイクロプスの強さは、炎の結界と雷の斧を使い1対1での戦闘を強制することにある。それに加えて、お前の単独戦闘能力……前衛、後衛に拘らず、もっと自由に戦えば、俺に一撃を浴びせれるくらいには楽しめたかもしれぬ」
「――――くっ!」と反論をしようとした彼女だったが、何も言葉が思い付かなかった。
だから、彼女は
(それが簡単にできたら苦労はしねぇよ!)
内心で悪態をつくだけだった。
「さて、戯れもここまでにして、先を急ぐぞ。長い旅になりそうだからな」
「隣国までなら、そう時間はかからねぇよ」
「ん?」と振り向く。いつの間にやらノワールは奇妙な乗り物を用意していた。
「なんだそれは?」
「……なんだって、見たままだよ。こういう地下路には付き物だろ?」
彼女が用意した乗り物はトロッコだった。 なるほど、人工の地下路ならば、掘った岩を捨てるのにトロッコは必須だろう。
「しかし、地面に線路はないぞ? トロッコというものは線路を進むものではないか?」
「やっぱり、魔法以外には鈍いだな、お前は。当然、隠してるんだよ……こうやってな!」
ノワールはいきなり、壁を叩き始めた。
「何を?」と心配そうに見ているルレロだったが……
「おぉ、地面からゆっくりと線路が……どういう、からくりになっているんだ? それ?」
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