第33話
「ほう……これを人の手で成し遂げたか。掘るだけなら、魔法で可能だが場所が悪い」
ルレロは頭の中で地図を描いた。 地下路の真上は森となっており、魔物が闊歩していた。
「地下にも魔素が入り込み、魔物が異常発生しててもおかしくない場所。こんな澄んだ空気なのは、どういう仕掛けだ?」
こういう地下路には、魔物化した虫やネズミの住み家だと相場が決まっている。
しかし、そういう魔物が1匹も遭遇しないとなると……
「結界も使用している気配もなし。魔法以外の創意工夫で魔物の発生を防いでいるのか?」
そうなってくると魔導王ルレロの専門外である。しかし、興味深そうに地面や壁を触って調べている。すると……
「おい、王さま。何1人で進んでいやがる」とノワールが後ろから追い付いてきた。
背中の荷物の多さを見るに、ルレロが優雅に地下路を観察している間に用意して追い付いてきただろう。
「私も連れていくように婆さんから……なんだ、その面? 露骨に嫌そうな顔しやがって」
「当たり前だ。今の俺様は逃亡者だぞ。異国の地で身を隠しながら、態勢を整える生活……同行人など……」
「あんだ? 私を足手まといとでも言うつもりか?」
「そこまでは言っておらぬわ」とルレロ。 彼は、今後の過酷な生活に知り合ったばかりの少女を巻き込むことを良しと思っていないのだ。
それは、ノワールも理解している。理解しているからこそ――――
(王さま、あんたの気持ちはわかるぜ。でも、それって私を舐めてることだよな? 過酷な状況で私は頼りにならない……それって私を下に見てるってことだよな?)
――――イラつきを感じているのだ。
「ルレロさまよぉ、どっちにしても私たちは協力して隣国へ行く。そこで暫くは一緒に行動しなきゃいけない。それはわかるだろ?」
「それはその通りだが、話が見えない。なにが言いたいのだ?」
「つまり、私とあんたでパーティを組むってことだ。パーティには頭目が必要だろ?」
「頭目? まさか、お前……」
「そうだよ。あんたと私のどっちが頭に相応しいか。今から
「なんて愚かな娘だ」とルレロは頭を抱えた。
「暴力で相手をねじ伏せて、言うことを聞かせる。それはならず者の考え方ではないか」
「良いじゃねぇか、ならず者で。みんな好きだろ? 喧嘩して強い方が上に立つ話。それに……」
「それに? なんだ?」
「こっちはガキの頃からあんたの逸話を聞かされて育ったんだ。挑まれることなんて日常茶飯事だったのだろ、
ノワールの魔力が膨らんでいく。 どうやら、彼女は本気らしい。
本気でここで戦うつもりだ。
「やれやれ、最初に断っておくが、俺様は手加減をするつもりだ。舐めるなと言うつもりなら、本気を引き出させるほどの奮闘をして見せよ」
「上等だよ。来い、サイクロプス!」
彼女の声に合わせて出現したのは森で戦った赤いサイクロプスだった。
「ほう、召喚魔法……いや、自信の影に魔物を住み着かさせているのか?」
「これも私の力さ。まさか、複数と1人で戦わされるのは卑怯なんて、ぬるい事を言って失望させてくれないよな!?」
「しかし、いささか早計だったのではないか?」
「なに?」
「この狭い地下路で巨人系の魔物を召喚しても実力を発揮できないだろう。その間に、本体の君を叩かせてもらう!」
魔力による肉体強化。 人間離れした速度で間合いを詰めたルレロは、ノワールの腹部を狙って拳を走らせた。
しかし、不発。 ルレロの拳より、ノワールが腰から剣を抜くのが速かったからだ。
「剣呑、剣呑。あと少し、俺の踏み込みが速かったら首が飛ばされていたところだった。……いや、この戦いで抜き身の剣を使う気か?」
「腑抜けたことを言う。それで死ぬなら間抜けだ」
「それは確かに」とルレロは苦笑した。
「あと、勘違いしている事がある。この狭い地下路で、こいつを召喚しても実力を発揮できないと抜かしたよな?」
「? 確かに言ったが、どこか間違っていたか?」
「あんたは勘違いしてる。このサイクロプスは魔法を使う後衛職だ。コイツよりも強くて、コイツよりも頑丈な私が前衛職だ。わかったな?」
「なるほど、思ったより合理的判断だ。少しは楽しめそうだな」
「その余裕、どこまで保てるか、見せてもらうよ! やれ、サイクロプス!」
ノワールの言葉に従って、背後に備えていた赤いサイクロプスが魔力を発動させた。
その瞳に魔力が集中して行き――――いや、魔法により攻撃よりも速くノワールが飛び出してきた。
「ぬっ!」とルレロは魔力で盾を作り、彼女の剣を防いだ。
「甘いぜ、まだまだここからだ!」と彼女は背負っていた杖を抜く。
「くっ! まさか魔法を零距離で!」
「ご名答!」と答えると同時に彼女の魔力がルレロの盾を揺らす。 それだけで彼女の攻撃は終わらない。
「ここが、初手から最大のチャンスだ! サイクロプス、今だ。打て!」
背後のサイクロプスが赤い閃光を放った。
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