第17話
襲いかかってくるイルミナゴーレムは巨体だ。 そして、装備は剣と盾。
その剣がへルマンに向かって振り下ろされた。
「くっ!」と彼は、大きく飛んで避けた。
奇妙な事に、その斬撃の通った跡、空中に輝きが残っている。
(あれか! 魔眼で読み取った情報で、意味がわからなかった部分!)
『スターソードの振り下ろす一撃は、相手に星の輝きで満たされた傷を負わせます』
(星の輝き……そういう魔力が空間に残留している。あれに触れれば、斬撃のような傷を負う……というわけだな。俺様の時代にはなかった属性の魔法か?)
「ならば、あれに直接、斬られればどうなるか? 興味深く観察するも、分析解析する時間がないのが悔やまれるな」
「お前、自分の父親が斬られかけてる最中に、そんなことを考えてやがるのか!」
へルマンの怒声が耳に届いたが、無視をするルレロだった。
今のやり取り、一見すると余裕がありそうなへルマンだったが、実はかなり焦りがあった。
(クソッタレ! 俺の剣はカウンター主体の戦闘スタイル。斬撃が空中に残るだぁ? それじゃ、簡単にカウンターが狙えねぇじゃないかよ!)
カウンターと言えば、どのように連想するだろうか? 多くの人は、
格闘技のように、相手のパンチを避け、向かってくる勢いの無防備な相手に返す……
しかし、へルマンのソレは違っている。
狙うのは、無防備な相手への強烈な一撃……ではない。むしろ逆。
(俺の剣は、鮮やかに最小の動き。それで相手の手足……末端を狙う。確実に相手の戦闘能力を削るための剣だが……)
「地面が爆発するような一撃だ。ギリギリで避けても吹き飛んでくるいや、衝撃そのもの」が邪魔で剣が振れねぇ! このままじゃじり貧……いや、使ってみるか?」
そういうとへルマンは構えを変えた。 大きく距離を取り、剣を豪快に構えている。
ルレロは、その構えに見覚えがあった。
「その構えはイザベルの! グリファン家の剣ではないか? どうしてへルマンどのが使えるのだ!」
「アホウが! お前が家で真似をしてるのを見たんだよ!」
確かにルレロには心当たりがある。
イザベルの剣の対策を何度も練習している。どうすれば、良いのかへルマンに助言を求めた事もあった。 しかし……
「それはつまり、見よう見まねの技を本番でいきなり!?」
「心配すいるなルレロ! 俺は物まねが上手いって評判なんだよ!」
へルマンは叫ぶと同時に広がった間合いを詰めていく。 その動きをルレロは――――
(確かに、間合いを詰める歩術はイザベルそっくりだ。本当に俺様の話を聞いただけでここまで再現できるものなのか?)
だが――――
「だが、問題はここからだ!」
へルマンは飛び上がり、上段斬りを狙う。
もっとも、イルミナゴーレムは人間と比べ物にならないほどの巨体。
彼は、その巨体を踏み台に、蹴り飛ばしながら、さらに高く飛んだ。
しかし、ゴーレムが手に持っているの剣のみにあらず。
盾で防御……というよりも、盾を振り回してへルマンを叩き落とそうしてくる。
この時、ルレロの脳内に流れたのは、あの盾の性能。
(確か、魔眼では……)
盾――――『コズミックシールド』
『攻撃を受けると星屑のような輝きを放ちながらダメージを軽減していく。また、コズミックシールドの反射する光は、周囲に幻想的な光景を描き出します』
「まずい! へルマンどの、その盾で攻撃を防がれると魔法的な反撃効果が……」
しかし、その助言も遅かった。 へルマンの剣は、その盾に向かって――――
振り落とされなかった。
「え?」と疑問符を浮かべるルレロを見下ろしながら彼は、
(この盾に仕掛けがあるってのは百も承知よ! よく見てな、我が息子……ってことだわな!)
空中で大きくへルマンの体がブレて見えた。 そこから、彼は空中でありながら、自由に動き回っているかのような動き。(実際には、そう見えるような何らかの技を使っているのだろうが)
その不規則な動きは、イルミナゴーレムを翻弄して、ついには――――
ついには、その胴体に強烈な回転斬りを放った。
あまりにもな巨体ゆえに一刀両断は不可能。
しかしながら、彼の剣はゴーレムの体に大きな斬撃を浴びせ、
その巨体ゆえに上半身を支えきれずに瓦解が始まった。
この戦い、終わってみれば、へルマンはたった一撃でダンジョンボスであるイルミナゴーレムを斬り倒した事になる。
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
「よし! 倒したこのままトンズラを……って何してやがるルレロ!」
「何って、戦利品の回収に決まってる」
ルレロは倒されたイルミナゴーレムの武器――――
『スターソード』と『コズミックシールド』を回収しようとしていた。
しかし、ゴーレムの武器。 そのサイズは、簡単に持ち歩ける物ではない。
「馬鹿野郎、そんなものを持って逃げれるものか! あれを見ろ! あれを! 命あっての宝だろうが!」
へルマンが指したのは、『輝く回廊』を走って向かってくる魔物の群れ。
まるでスタンピートのそれに呑み込まれたら、死を免れぬ。
そんな魔物の物量が迫ってきていた。
「この希少な金属……捨てて帰るにはあまりにも、くっ! 仕方があるまいか!」
ルレロも諦めようとした時、剣と盾に変化が起きる。
「これは、形状が変わっていく。まるで人間が取り扱える大きさに……へルマンどの、どうやら武器自身がそなたを持ち主と認めたようだぞ!」
「わかった、わかった! 持って帰るから、全力で走るぞ! もう後ろ……やべぇ! やべぇ!」
そうやって2人は『輝く回廊』を魔物の群れに追われながら走り抜けた。
しかし、話はそれで終わらなかった。
「ぜっ……ぜぇ…ぜぇ…」とルレロとへルマンは息を切らしたままダンジョンの外に出ていた。
「ほ、本物のスタンピートだったら、ダンジョンの外も関係なしに追ってきていた。危うく死ぬところだったな、へルマンどの」
「……楽しそうに言うんじゃねぇよ。もう連れてこねぇからな」
「ふっははははっ! 面白い冗談だ」
そんなやり取りを交え、走り続けた疲労から回復してきた時だった。
最初に異変に気づいたのはルレロだ。
「……あれ? この光景は……へルマンどの」
「なんだよ。なにか見つけたか?」
「ダンジョンの入り口がどのような形状だったか記憶しているよな?」
「はぁ? 何を寝ぼけたことを。そんなの……むっ!」
へルマンもルレロの言いたいことが伝わってようだ。
「俺たちはまっすぐにダンジョンを進んだ。そうだろルレロ?」
「確かにそうだ。俺様の記憶と方向感覚に間違いはない」
「……だったら、どうして俺たちはダンジョンの入り口に戻ってるんだ?」
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