第16話

 ルレロとヘルマンを待ち受けていたのは、まさに『輝く回廊』であった。


 光が乱反射をしているのだろう。壁や床、天井が煌めいている。


 まるで夜空に輝く星々のような輝き。それが、無限に広がる回廊の中で冒険者たちを出迎えるのだろう。


 『回廊』というだけあって、広く真っすぐな道が、まるで夢幻のように続いていた。


「これが、『輝く回廊』か。事前にダンジョン内の様子をギルドで聞いていたが……見渡す限り、まさに星の海のようだな」


 ヘルマンが静かに囁いた。それをルレロが笑った。


「なんでぇ? どこに笑う要素があった?」


「なに、もう少し続ければ立派な詩になると思ってな。まさか、ヘルマンどのに吟遊詩人の才能があるとは思っていなかった。言葉を続けてみたらどうだ?」


「冗談をぬかせ。ここに踏み入れると、逃げ場のない道に魔物どもが次々に出現するそうだ」


「この場所に? どこにも逃げ場はないぞ」


「その通りよ! 生き残るためには前に進む事のみだ。 ルレロ、俺について来い。足を止めると死ぬぞ!」


「くっ! もう少し前に説明を!」


 しかし、そんな余裕は既になくなっていた。彼等の目前に、これまで現れた魔物たちが出現した。 

 

『メタルウィスプ』


『ルミナイト・スケルトン』


『ゴーストフィギュア(エンシャント)』


『プリズムウィスパラー』


 最初に襲いかかってきたのは、このダンジョンでもっとも個体数の多い魔物であった――――


『メタルウィスプ』


 鬼火を金属の塊のように変化させて発射してくる。


 ヘルマンは剣で切り払い、駆け足を止めない。そのまま、鬼火だけではなくメタルウィスプ本体を倒した。


『ルミナイト・スケルトン』


 七色に輝く剣と盾を振り回してくるも、剣の勝負でヘルマンに勝てるはずはなかった。


 魔物が持つ剣と盾は彼の剣技で弾き飛ばした。武器を失ったルミナイト・スケルトンは無効化された。 


『ゴーストフィギュア(エンシャント)』


 石像の体。 攻撃の直前、体の一部が巨大化してくる。どういう理屈だろうか?


 巨大化した拳、巨大化した足が2人を襲う。 しかし、斬鉄すら可能なヘルマンの剣は、あっさりと石像の体を切断して倒してみせた。  


「どうでぇ、ルレロ。ちゃんと俺の後ろをついてこれてるか?」


「御覧の通りだ。このダンジョン内で、ヘルマンどのの背中が一番、安全だと再理解したぞ!」


「そうかい。そりゃ、良かった……見ろよ。ボスが出てきたぞ」


 六角形の宝石が転がっているように見える。 とてもヘルマンが言うような『ダンジョンボス』とは思えないのだが……その宝石に変化が起きた。


 宝石が絡繰り仕掛けの如く、変形。 みるみるうちに形状は人型になっていく。


「あの宝石……想定よりも遠くに転がっていたのか。まさかゴーレムだったとは……この俺様であっても気づかなかったぞ!」


「お前の自己肯定感の高さは、何なんだ? 我が子ながら、心配になってくるが……まぁ良い。今はそれどころじゃねぇからな。あのゴーレムの名前はイルミナゴーレムだ。情報としては……」


「情報としては……? その続きは?」


「滅茶苦茶に強いとしか聞いてねぇ!」とヘルマンは足を止めた。


 後ろを走るルレロは、彼の背中とぶつかりそうになった。


 振り向くと、今まで蹴散らして来た魔物が、ワラワラと群れを作って向かって来る。


「ヘルマンどの、後ろの魔物ども……流石にあれに巻き込まれるとまずい」


「承知の通りよ! だが、コイツは足を止めてキッチリと戦わねぇと勝てない」


「――――っ!」とルレロは覚悟を決めた。 どうしようもなくなった時……ヘルマンの前で魔法を解禁する覚悟を決めたのだ。


 イルミナゴーレムは剣と盾を持っていた。 どう見ても普通の剣と盾ではない。


 ルレロは、目に魔力を流す。即興で作った魔眼は、敵の情報を読み取る。


 剣――――『スターソード』


 細身の剣だ。 無論、本体であるゴーレムの体と比較しての話しである。


 透明な刃が星のような光を放ち、まるで宇宙の星座が刀身に宿っているかのようであり、『スターソード』が振り下ろす一撃は、相手に星の輝きで満たされた傷を負わせます。

 

盾――――『コズミックシールド』


 その表面には宇宙の神秘的な模様が浮かび上がっています。


 透明でありながら強固な材質からできており、攻撃を受けると星屑のような輝きを放ちながらダメージを軽減していく。


また、コズミックシールドの反射する光は、周囲に幻想的な光景を描き出します。


(どちらもレア物の剣と盾。 しかし、なんだ『相手に星の輝きで満たされた傷を負わせます』って? 俺様の魔眼でも表現できない効果って事か?)


 魔導王と言われたルレロでも、分析しきれない『イルミナゴーレム』の武器。


 それがヘルマンに向けられ――――攻撃を放たれた。


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