第15話

 ダンジョン内、最初に遭遇した魔物は意外な種類の魔物だった。


 メタルウィスプ――――ウィスプとは、死者のエネルギーを吸収する怨霊の魔物。それがなぜか希少金属を吸収して、実体なき浮遊生物だったウィスプに堅固な体を与えたのだ。


「気をつけろ。ここで出現する魔物は気性が荒い。攻撃的な分、本来の力以上に強いぞ」


 ヘルマンが言うと同時にメタルウィスプは襲い掛かって来た。 ヘルマンを無視して狙いはルレロのようだ。


「――――っ!(俺様はヘルマンよりも弱いと判断して襲って来たか。この屈辱は楽しませてもらうぞ!)」


 ルレロは、護身用に渡されていった剣を抜いた。


 メタルウィズプは文字通り牙を向く。 金属化した体の牙は、剣のように切れ味を有していた。


「剣呑剣呑! 危うく剣で防御する所だったぞ。その牙、ソードブレイカーと似たような効果があると見た」


 防御を止め、回避に専念したルレロ。 隙をついて、メタルウィズプの体を蹴り上げる。


「見事の判断だ。さすが、俺の息子だ!」


「いや、わざと抜かれなかったか? 俺様を試したのか?」


「しばらく、お前の剣技を見ていなかったからな。同行人の実力を確認するのも冒険者として必要なんだぜ」


「ヘルマンどのから剣の指南を直接受けた記憶はないがな。帰ったら、教えてくれぬか?」


「ふっはははは……中々、言うじゃねぇか。基本を叩き込んでたことに気づかぬ、お前じゃねぇだろ? まぁ良いぜ。今度は本格的に仕込んでやらぁ!」


 メタルウィズプは蹴られたことで衝突して壁にめり込んでいた。  


 ブルブルと震えながら、壁から抜け出した。 その表情は魔物でありながら、怒りが浮かんでいるのがよくわかる。


 周囲に炎が浮かぶ。 鬼火――――魔力による炎攻撃は、ウィズプの基本攻撃ではあるが、メタルウィズプの鬼火は金属の塊になっていた。


「ふっはははは、見よヘルマン! コイツは傑作だぞ。体が金属化しているからと言って魔法まで金属化するか。魔物にしては素直過ぎる性格だ!」


 笑われ、馬鹿にされたと認識したのだろう。 金属の鬼火をルレロに向けて発射した。


「次は任せても良かろうか、ヘルマンどの」


「――――任せとけ」とヘルマンは、ルレロに向かって高速で飛ぶ鬼火を剣で切り払う。


 そのまま、メタルウィズプ本体に間合いを縮めると同時に剣を振る。


 一瞬で金属体であるメタルウィズプを斬り捨ててみせた。


 簡単に倒してみせたヘルマンは、何事もなかったかのように、


「さて、次に行くぞ」と促してきた。


 ・・・


 ・・・・・・


 ・・・・・・・・・


 それから、メタルウィズプが複数体同時出現したり、


 ルミナイト・スケルトン――――発光している骸骨騎士が出現した。


 ゴーストフィギュア(エンシャント)は、崩れかけながらも美しい彫刻の魔物だった。


 七色に輝く亡霊、プリズムウィスパラーが口からビームのような魔法を放射してきたのは、さすがのルレロも絶句していた。


 そんな摩訶不思議な魔物たちの戦い――――主に戦ったのは、ヘルマンだったが……


(100年足らずのダンジョン。魔素に異常を起こしているとは言え、僅かな年月でこうも新種の魔物が現れるとは、俺様とて想定外だ)


 このダンジョンで出現した魔物たち。怨霊系と言われる魔物にしては派手で(文字通りに)輝いていた。  

  

「魔力の流れ、過剰な魔素供給が魔物に与える影響。ここまで変化が生まれるのは興味深い。人間に適応させればどのような変化が……」


「おい! 何かヤバイ事を考えてないか?」


 ヘルマンに言われて、ルレロは慌てて誤魔化した。


「!? い、いや、これは研究者として純粋な興味であって……」


「お前のどこが研究者だ。そんな事を考えてる間があるなら、次の部屋に進むぞ」


 ヘルマンは、通路を閉ざしている扉に手をかけた。


「ふん!」と力を込めると簡単に開くようだ。 その先は――――


「なんだこれは? まるで輝く回路ではないか?」


 扉の先には、宝石のように輝く道――――ルレロの言う輝く回廊が続いていた。

 


 

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