第14話
「お屋敷での仕事で数日間の休日をもらった」
そう両親に伝えると喜んだの父親であるへルマンだった。
「それは良い。依頼の1つ、日にちが必要なものがあった。お前もついてこい」
翌日、ルレロは冒険者へルマンの仕事を手伝う事になった。
実質、荷物持ちの仕事だ。
(へルマンどのが受ける依頼と言えば魔物討伐と決まっている。それも、数日間の規模となれば……)
道中の長い時間、馬車に揺られているとへルマンが、今回の依頼内容を詳しく話始めた。
きっと、説明が必要と判断したのではなく、暇を持て余したのだろう。
「いいか、今回の依頼はダンジョンに隠されている魔剣を探しだす事だ」
「魔剣探し……それは妙だな、へルマンどの。魔剣とは、すなわち魔具。探し出せたにしても、依頼者が保有できるはずもない」
魔法が禁止されている現在のドラゴニア。 それでも御禁制の品物として魔具を秘密裏に保有しようとする貴族、あるいは権力者は少なくないだろう。
しかし、へルマンに依頼を出した以上は、冒険者として公式なルートによる依頼。
つまり冒険者の寄合所である『冒険者ギルド』からの依頼となる……であるはず。
「もしや、へルマンどの。ギルドを通さぬ闇営業とやらに手を出しているのでは……」
「馬鹿野郎! そ、そんなわけあるか。人聞きの悪い事を言うな。今回は正式な依頼だ」
「今回『は』という部分に引っ掛かるが、まぁ話を聞くとする」
「なんでも、昔からそのダンジョンは、魔剣が隠されていると有名な場所だ。何度も正式な調査が入っているが、発見はされないそうだ。だからと言って、魔剣なんて危険な物を放置しておくわけにもいかねぇそうだ」
「なるほど、今回の依頼はつまり――――何度と行われている失敗が前提の依頼というわkですね」
「失敗が前提なんて言うな。存在しない物を存在しないと証明するなんて、できるの神様くらいなもんだろうが」
「おやおや。その言い方だと父上は、ダンジョンに魔剣は既に存在していないと?」
「……何度も調査が入ってる場所だ。それに立ち入りが禁止されてねぇ。魔剣がそんなに良いものなら、誰かが隠れて持っていっちまったと考えるの筋ってもんだろ?」
「なるほど、それも通りであるな。では逆に、へルマンどのが本当に魔剣を見つけたら、それを隠れて持っていきますかな?」
それは少し意地悪な質問だった。 問われたへルマンは「むむむ……」と首を捻って考え始めた。
その様子にルレロは――――
(どうやら、依頼を無視してでも……。なんてことすら、考えたこともない様子だ。善良なる騎士……そう呼ぶには、いささか荒くれ者の風貌ではあるが好ましい御仁だ)
そんな評価を下した。 一方で悩み続けていたへルマンも答えが見つかったようだ。
「まぁ、そんなにすげぇ魔剣であっても、隠れてからじゃねぇと使えねぇ時点で剣としての魅力は半減だな。 そんな物のために冒険者ギルドどころか、国を敵に回すなんて割りがあわねぇよ」
「なるほど、なるほど、それも通りだ」とルレロは笑う。それから、
(しかし、妙だな。俺様の記憶では、この場所にそんなダンジョンがあるなんで話は知らない。 何者かがドラゴニアで魔導国家時代の終わりに魔具を隠したとしても、それほど調査が困難なダンジョンではないはずだ)
しかし、目的地であるダンジョンに到着するとルレロは、その考えを撤回した。
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
「……(なるほど、魔力が淀んでいる。魔物たちを強化させる魔素も膨張しておる。これでは、いつ
ルレロは入り口を通った段階で魔法を使った。
ダンジョンの内部構造を読み取ろうとしたのだ。 しかし、それは叶わなかった。
吹き溜まりと化した歪んだ魔力によって、ルレロの魔法は阻害されたのだ。
(これでは通常通りに魔法を執行するのは難しい。もっとも、へルマンどのの魔法を使えないのは通常通りではあるが……)
この国で魔法が禁止された数十年間。魔法と使用したダンジョン探索も行われてこなかった。
そのため、魔物の異常化……すなわち魔素の異常化が見逃され続けていたに違いない。
(だから、このダンジョンが誕生してから数十年と短い時間で、難攻不落の魔城と成長してしまっているのだろう)
おそらく、ドラゴニア国内には同種のダンジョンが幾つもあるはず……と想像してルレロは頭がクラクラしていた。
「どうしたルレロ? 初めてのダンジョン探索に怖じ気づいたか?」
「ぶっははは……」といつもと変わらないへルマンの笑い声に、少しだけ……ほんの少しだけ救われた気がしたルレロだった。
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