第13話
「イザベル、肩膝を地面に付けて、頭を下げなさい。 彼こそ――――ルレロ・ギデオン様こそが我らが真の君主なのだよ」
「ルレロ・ギデオン!? ルレロが、あの大魔王……本当ですか!?」
「良いから、早く頭を下げなさい」
普段は優しい父親であるグリファン卿であったが、今は娘に対して苛立ちを隠そうともしていない。
イザベルの目には別人のように映る。 それは、ルレロと同様に……
しかし――――
「いや、構わぬさ。どうやら、今の俺様は大魔王でも、魔導王でもないようだからな」
「しかし――――」
「構わぬと言っておる。イザベルには、今まで通り接する事を許す」
「はい、畏まりました。我が真実の君主よ」
ルレロに対して忠誠を誓う父親。 それを目の前で見せられている彼女は、
夢を見てるのではない? そんな疑いを持ってしまう。
「さて、イザベル。お前があの日に見た俺様の魔法は、これだったな」
ルレロの指先。いとも簡単に火が灯る。
「そう、これよ。あの時と同じ……いいえ、あの時以上に綺麗だわ」
「ふっ、綺麗か」とルレロは苦笑した。
「今の時代では、魔法は幻想的で芸術的に見えるようだ。俺様の時代――――戦火を浴びた頃とは大違いだ。 だが、それも良い!」
ルレロは、魔法の火に細工を施した。 彼の手から炎の蝶が2匹。恋人のように飛び立った。
「綺麗……これは本当に綺麗」とイザベルはため息交じりに感動していた。
暗い地下の隠し部屋だからこそ、蝶の輝きは美しく見え――――そして、一際輝きを増した直後に消滅した。
「さて、イザベル。グリファン卿との約束で魔法を教える事になった。それ以外は今まで通りに接していこうと思う」
「魔法を私に? 先ほどと同じ事ができるようになれますか?」
「……できるさ。魔法とは、元より誰でも可能な技術であるべきなのだ」
それから、ルレロはイザベルと剣術の稽古は、今まで通り行い……
それが終わると、魔法の師匠として振る舞うようになった。
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
「いいか? 魔力を集中して指先に火をつける」
「はい、先生!」とイザベルは良い生徒であった。
既に、彼女の指先には火が宿るようになっていた。
(成長が早い。本人の努力もあるが、生来の才と言うものがあるのだろう)
「おぉ、次は魔法の使い方を指南するぞ」
そう言うとルレロは手に残る火を操る。 火は炎に、火力が上がり、形状が変わっていく。
「凄い! 火が弓の形に変わっていく」
「その通りだ。強大な魔力がある者は工夫は不要。魔力で具現化した炎を作り、魔力を使い炎を高速で飛ばせば、ただ、それだけで強烈な攻撃になる。しかし――――」
ルレロは自作した炎の弓を引くと、矢を発射させた。 決して広くはない地下室であったが、炎の矢は壁に衝突する直前に消えた。
「このように、魔力を高速で飛ばす工程を無くす。代わりに具現化した弓で炎を飛ばす。他には……こっちの方がイザベルには似合っているかな?」
そう言うと、ルレロは腕を振った。 無手だったはずの腕に炎が灯り、炎剣が生まれた。
「重さのない炎剣。魔法でも鍛錬を積めば、切れ味を付加させることができる」
彼のに生まれたのは即興の魔剣。 魔法を使う者でも、難しい高度な技術だ。
しかし、それを見たイザベルは、
「こうかしら、ルレロ?」と不安定ながら、炎を剣の形状に近づかせていた。
「なんと! 長い年月をかけて目指すべき方向を示すつもりで見せたのだが……」
イザベルが見せる魔法の才能。 砂漠に垂らす水のように知識と技術を吸収していく。
その才能に眩しさを感じながら、指導者としての喜びを感じるルレロだったが……
――――数か月後――――
「なに? 暫くは屋敷に顔を出さぬ方が良いと申すか、グリファン卿?」
「はい、我が真なる君主。近い内、王都から異端審問官が参ります」
「異端審問官……つまり、魔法を使っている者を異端として探し出す者というわけか?」
「その通りでございます。彼等、異端審問官に見つかるという事はこの国を敵に回すという事でございます」
「うむ、流石に国と相手に喧嘩するのは無理があるな……今はまだ」
「今はまだ、異端審問官にルレロさまの存在を知られるわけにはいきません。少しの間、屋敷に通うのは控えていただきたいのどざいますが……」
「うむ、仕方があるまい。 暫く、冒険者ヘルマンの息子として生活を楽しませてもらう」
そんなやり取りが交わされた数日後、グリァン卿の屋敷に異端審問官がやって来た。
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