第10話
もしもの話。 貴方が父親から、こう言われたどうする?
「父さんな、農業の仕事を辞めて、本格的に冒険者で食っていこうと思っているんだ。なぁに心配するなルレロ。毎日、美味しいものが食べれるぞ! がははははは!」
母親は目を剥いて反対したが、ルレロは賛成していた。
「魔物殺しと呼ばれるへルマンどのは英雄として実績があるの。今まで魔物退治でも怪我はない」
そう言いながら、チラッと父親の装備を見る。 今は革の服のみではない軽装の鎧を装備している。
ルレロの初任給でプレゼントした中古の装備となっている。 もちろん、本当は違う。
軽く頑丈な素材で作られた特別な鎧。 ただ、良い鎧を装備すればいいわけではない。
へルマンの戦闘スタイルは速度で翻弄しながらカウンターを決めていく。
装備が彼の動きを阻害してはならない。 へルマンが寝ている時に、ルレロは正確な寸法を取らなければならなかった。
(特殊な素材を使ったオーダーメイド。グリファン家から借りた金額を返さなければな……)
その甲斐もあってか、へルマンは魔物狩り専門の冒険者として名前が知られるようになった。
(魔物殺しの英雄。その異名も近隣の村々だけではなく国中で知られる事になるだろう)
「うんうん」とルレロは1人で頷いた。
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
そんな事もあって、へルマンは朝の農作業を止めて、魔物退治に出掛ける事になった。
いずれ、田畑を人に貸し出すことになるだろう。 それはともかく……
「さて、ルレロ。今日はゴブリン狩りだ。お前もついてこい」
その一言でルレロもついていく事になった。 これは珍しいことだ。
(さてはへルマンどの、専業冒険者になれるのが、相当嬉しいのだとみえる)
元々、騎士の家柄だったらしきへルマン。 農作業の動作に剣の鍛練を隠しながら、息子であるルレロを鍛えてきた。
もしかしたら、冒険者として名を上げたら、ルレロを騎士として……そんな思惑もあるのかもしれない。
「ところでへルマンどの、今日はどのような魔物退治の依頼を?」
「気になるか? ここら辺に巣を作り始めたというゴブリンの殲滅依頼よ」
ゴブリン。 スライムに並ぶ弱い魔物の代名詞だ。
(ゴブリン退治の依頼か? ……妙だな。身内贔屓であっても、へルマンどのの実力ならば、ゴブリンよりも上位の魔物討伐の依頼を請け負ってもおかしくないはずだが……)
そんなルレロの疑問もすぐに解けることになった。
「あそこを見ろ。ゴブリンどもがいるぞ」
へルマンは前方にゴブリン発見。 身を低くして様子をうかがう。
「ゴブリンどもの装備がいい。へルマンどの、なにか理由が?」
「あぁ、どうも商人たちの馬車を襲ったらしい。悪いことに武器商人の馬車だそうだ」
「なるほど、過剰に武装したゴブリンの群れ。 並みの冒険者では困難としてへルマンどのに白羽の矢が立ったわけですな」
「よせやい。誉めたって何もでねぇぞ」と小さな声で笑いなが照れているへルマンは、矢筒から矢を取り出し、弓を構えた。
「なにを……」とルレロは困惑する。
敵は武装したゴブリン。 ブカブカのプレートアーマーを装備している。
人間の真似をしているだけなのか?
一部の部品を――――それも防具としては重要な箇所を――――取り外して、無理矢理着ているのだ。
(だからと言って弓矢で狙う隙間は……)
この時、ルレロは失念していた。 へルマンは、遠くから狙って魔獣の目を射抜けるほどの腕前を持っていることを――――
ギンャン!
ゴブリンの1匹から悲鳴が起きる。 何が起きたのかわからないゴブリンたちは1匹2匹と集まってくる。
「よし、チャンスだ!」とへルマンは信じられないほどの速射で矢を放っていく。
ギンャン! ギンャン!と悲鳴が続く。
おそらく10秒に満たない時間で4匹のゴブリンが倒れている。
「動くぞ。アイツ等の頭は侮るほどバカじゃねぇ。もう姿を出さねぇ。代わりに矢の刺さり具合から、こちらの位置に隠れながら進んできているぞ」
「なんと!」とルレロは驚いた。
当然ながら、ゴブリンのことは知識として知ってはいる。しかし、その生態までは熟知していない。
なぜなら、彼が持っていた膨大な魔力を前に真っ向勝負できる魔物など存在していなかったからだ。
なんなら、肉体強化の魔法を使って、ドラゴンを相手に素手で戦った経験もある。
(ゴブリンであっても戦術を使うか。やはり面白い。俺様でも魔物から学ぶ事があるとはな)
へルマンは、騎士というよりも、まるで暗殺者か忍者のように、気配を消した。
それから、奇襲を行おうとするゴブリンたちを反対に各個撃破していった。
「さて、これで外に出ているゴブリンは倒しきったはず。後は巣に奇襲を仕掛けるのみ」
「行くぞ!」と進むと、後は簡単にゴブリンの巣を制圧してみせた。
(なるほど……これだと、専門の冒険者として生活していけるだろう)
そう確信するほどの、活躍をへルマンは見せた。
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
さて、今日の午前中はへルマンの魔物退治を見学したルレロだったが、
午後からはグリファン卿の屋敷だ。
屋敷の主には、自分が魔導王ルレロ本人であることを伝えたが娘であるイザベルのお世話をする仕事に表面上の変わりはない。
まるで自分こそが屋敷の主のように振る舞って、外部に不信感を持たれるほど、ルレロも愚か者ではないのだ。
「さて、イザベルさま。今日の稽古は……あれ? どうかされましたか?」
剣の稽古のために向かい合ったイザベルの姿。 それに何か違和感があった。
それは――――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます