第31話
2人は警戒を強める。気配を隠してサイクロプスを操っていた者がいる。
「しかし、本当ですか? ルレロさまの魔法を掻い潜って、隠れることのできる者など……」
「いないわけではない。俺様とて、この世の魔法を全て熟知しているわけではない。地方で独自発展した魔法を何度も見たことが……いたぞ」
ルレロの指先に魔力が集まる。単純に魔力を飛ばすだけの簡易的な魔法。
威力を落とした魔法を見えざる相手に放った。
「ぎゃん!」と木に隠れていた人影が落下した。
「うむ、やはり魔物を操る人間がいたか。この時代にも魔物使いが残っていたとはな。しかし……」
落下した人影の正体は、少女だった。 ルレロが抱いた彼女の第一印象は、野生児。
雑に後ろに纏めた黒髪。 それに褐色の肌。 どことなく、活力に満ちているように思えた。 腰には、小さめな剣。背中には木製の杖を背負っていた。
そんな彼女は今……
「痛たたた」と頭を押さえている。
「この高所から落下して、痛いで済むのか? 中々、丈夫な体をしているな」
「うるせぁ! 人に魔法をぶっぱなして、最初の台詞がそれかよ!」
「魔物を使って襲ってきた人間の台詞とは思えぬが……まぁ良い。すまなかった」
「へぇ、素直な性格じゃねぇか。気に入ったぜ」
僅かな時間で、怒ったり、笑ったり、コロコロと表情が変わる少女であった。
そんな少女に対して、
「ルレロさま、離れてくだされ。こいつは魔物をけしかけてきた敵ですぞ」
へルマンが剣先を少女に向けた。
「いや、へルマンどの、止めておけ」
「ルレロさま……」
「魔物使いならば、この森は彼女の縄張り。急ぎとはいえ、無作法に通り抜けようとしたこちらに非がある」
「それに……」と改めて彼女を見た。
「我々は、グリファン卿の許しを得て、森に来ている。ここに住む老人を知らないか?」
「あぁ、家の客人か。いきなり、魔物で襲って悪かったなぁ」
それから「後ろをついてきな。婆さんの所まで案内するぜ」と歩き始めた。
「ルレロさま、今回はうまくいきましたが、このような戯れは……」
「いや、ただの気まぐれではないぞ。この森に隠れ住む老人。ならば人目を避けなければならない立場の者。それはわかっていたはずだろ?」
「これから会う老人も、魔物使い。あるいは……」
「今も生き残っている魔法使いの部類であろうな。少なくとも、魔法派のグリファン卿の庇護かにある者だ」
そんな会話は交えていると、少女が振り返り
「おい! こっちだ。急いでくれよ」と大きな声を出した。
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
少女の名前は、ノワール。名字はないそうだ。
そして、「ここだよ!」と彼女が案内した場所は崖の下。ただ岩肌が並んでいるだけの場所だった。
「どうですか、ルレロさま?」とへルマンは聞いてくる。魔法的な隠蔽がされていると思っただろう。 しかし、ルレロにも何も感じる物はなかった。
「うむ? 魔力は感じられぬ。しかし、人の気配を感じるような、感じないような」
「なにやってんだよ。ここはこうやって入るんだ」とノワール。
彼女は岩の一部に手をかけると横に引いた。
ガラガラと音を鳴らしながら岩が動く。 いや、岩に見せかけた扉と言うべきか?
「帰ってきたぞ婆さん。グリファン卿からの客人だってよ」
「ほう……グリファンからの客かい。まさか、本当にこの日が来るとは……」
洞窟を人間が住める住居に改良したような空間だった。 その奥に老人が座っていた。
黒い服。尖り帽子。その手には杖。
もしも魔女をイメージするならば、こうなる。そんな姿を具現化させたような老婆であった。
「ご老人、もしや魔法を?」とルレロ
「はい、私はこの国で生き残っている最後の魔法使い。お待ちしておりましたルレロ陛下」
「……俺様が誰かわかっているのか?」
「私の師匠の遺言ですわ。この地にとどまり、転生されるルレロ王を導くように……と」
「さて……」と老婆は立ち上がった。
さっきまで座っていた場所。そこに手をかけると……
「隠し通路か?」
「はい、この道はずっと遠くまで……隣国まで続いております」
「なるほど、グリファン卿が国境ではなく、ここを目的地にするように進めた理由がわかったぞ」
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