第25話
何度目の攻防だろうか? ルレロが放った一撃はジョルジュの胴に吸い込まれていった。
「見事。私の敗けです」とジョルジュは敗けを認める。
両者、すでに激しい疲労が見えている。 ジョルジュは手を差し出した。
握手を促され、自然とルレロはその手を握った。
しかし、それは罠であった。ジョルジュの両目が怪しく光る。
それは魔眼を発動させた輝きであった。 ルレロも反射的に、その事に気づいた。
(なっ! この感覚、魔力を流された。 まさか、使用したのか? 魔眼を!)
このタイミングとルレロは驚いている。 だが、彼も知らないことだが、この時代……魔法なき国で生まれた魔眼持つは、彼の時代の魔眼持ちとは違って貧弱と言えるほどの能力しかない。
だからこそ、ジョルジュが魔眼を発動させるにも、複雑な条件があった。
中でも、重要な条件は――――
『魔眼の効果を発揮するために、相手の目を2度以上覗き込まなければならない』
『対象が疲労状態であり、体に触れている状態なら情報開示効果が向上する』
まるで条件を達成することで効果が上昇する儀式魔法のような段階を踏まなければならない。
魔眼の効果を浴びたルレロは、
(魔眼というのは、ある意味では簡易的魔法。 当然だ。対象を見るだけ発動する魔法なのだから……それを発動させるために複雑化されている事が逆に俺の危機感を薄めさせたか!)
要するに、
簡単に使用できるはずの魔眼をジョルジュが使わなかった事に、ルレロは油断したのだ。
「私は、生まれた時から異端審問官になるべき育てられた。その私の勘が囁き続けていたのだ。ルレロ! お前は魔法使いだと!」
彼の魔眼は、今もルレロの情報を読み取っている。
(どうする……ここで口封じが可能か? グリファン卿よりも格上の貴族を殺して誤魔化すことなど……)
ルレロは最終手段すら考えていた。
剣でぶつかり合った相手、この時代に魔眼持ちでありながら生き続けてきた彼に、少なからず敬意と同情らしき感情すら生まれててあったが……
だが、ここで異変が起きた。 ジョルジュの様子がおかしい。
「なんだこれは?」と言ったきり、彼の動きが止まった。
空中の一点を見上げ、おそらく彼にしか見えない何かを必死に読み解こうとしているように見える。
「なんだ、これは? いや、まさか、本当に? あり得ない……そんな」
目を見開き、ブツブツを呟き続けるジョルジ。まるで、正気を失っているようにも見えた。
その様子を離れてい見ていたイザベルが悲鳴をあげた。
「お、お父様、あの方……ジョルジュさまが急激に老化していくみたいに衰弱しています」
「イザベル下がっていなさい」とグリファン卿が前に出る。
「ルレロさま、どうされますか?」
その言葉に、衰弱しているジョルジュの目がギロっと動いた。
「まさか、あなたも知っていたのですか? この男が、本物の大魔王ルレロの生まれ変わりだったということを!」
グリファンに向ける彼の視線には濃厚な殺意が混じっていた。
「おぉ、これは私にしかわからぬ、おぞましさ。魔力? これがただの魔力だとしたら、私? 私の魔眼にも、これと同じ力が流れているというのか!」
ジョルジュは自身が持っている武器が、ただの木刀であることを忘れたかのようにルレロを襲う。いや、ルレロだけではない。その場にいたグリファン卿もイザベルも襲うと暴れ狂った。
明らかに精神の均衡を崩している。 ついにグリファン卿は声を張り上げて家の者を呼んだ。
「誰か! 誰かおらんか! ジョルジュさまがご乱心なされた。誰でもよい! 取り押さえろ!」
最初に庭師の男が走って寄ってきた。 次に屋敷から執事たちが飛び出してくる
「ジョルジュさま、落ち着きください! その木刀を離して!」
「黙れ! お前たちにはわからぬだろう! あれは生きてはならない者だ! 大魔王などと生ぬるい、あれは神に仇をなす悪魔……邪神だ、邪心がそこにいるぞ!」
「ジョルジュさま! ご無礼をお許しください」と押さえ付けられた彼は、運ばれていった。
「……」と無言で彼を見送ったルレロ。
「ルレロさま……今はジョルジュさまの錯乱と言うことで片付きます。それでも、彼の言葉は完全に無視されること事はありません。次々に新しい異端審問官が送られ、ルレロさまを監視なされるでしょう」
「うむ、どうしたものかな?」
「今は世間に伏す時です。お逃げください」とグリファン卿は、こう続ける。
「ルレロという者はジョルジュさまの錯乱に驚き、森に逃げ出しました。その後、我々で森を調べましたが、ついに見つけ出すことが叶わず……」
「なるほど、俺様は死んだことになるのだな」
ルレロは納得した。 しかし――――
「納得できません!」と叫んだのはイザベルだった。
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