魔導王ルレロの破滅的転生ライフ ~国の繁栄を信じて転生したら滅んでいたのだが~

チョーカー

魔導王ルレロ 転生直後編

第1話

 それは、言葉とは裏腹に活力に満ち溢れていた。


「良し! そろそろ死ぬとするか!」


 ただの戯言と捨てるには、言葉の主は地位も、名声も、力も、持ちすぎている。


 彼の名前は、ルレロ・ギデオン。 魔導国ドラゴニアを築いた王であった。 


 加えて現在は、魔導王ルレロが生誕100年を祝う祭の最中……武官と文官が揃う前での宣言だった。


 動揺が広がる部下たちを前に本人は――――


「ふはっはっははははは!」と愉快そうに高笑いをしていた。


 彼の前に並ぶ、腹心たちは目を合わせ――――


(おい、誰か止めろよ)


 と意思疎通をする。 


「仕方がありませんね」と立ち上がったのは女性――――それも麗しいエルフの女性だった。


「どうしたグレン宰相? 何か疑問でも?」


 この祝いの場で魔導王ルレロに進言できるとしたら、ナンバー2であるグレン・ノヴァ。 


 乱世の時代には軍師として、多彩な用兵術を


 治世にあって宰相となり、政治を執り行った女傑だ。


「死ぬとは、どのような意味でしょうか?」


「うむ。グレンは、俺様の体をどう思う?」と立ち上がったルレロ。


 服を見せるようにクルクルとその場を回る。


「100歳にしては、随分と若々しい体だと思いますが」


 グレンの言う通りだった。 


 ルレロ・デギオン、御年100歳。とてもそうとは思えない。


 20代どころか、10代でも通じそうな顔と肉体。 


「この体は、肉体活性化と時間停止の魔法によるものだ。この若さは仮初に過ぎぬ」


「仮初と言えど、あと500歳まで生きそうですね」


「問題は魔法を使っているという事よ。勿体ないと思わないか」


「はい? 勿体ない……ですか???」


「俺様レベルになると無意識に、肉体活性化と時間停止の魔法を使用できる。しかし、無意識に魔力を使っている――――これが勿体ない気がしてきてならない」


「気のせいです。 そもそも無意識に使い続けるなら、その魔力は微々たる物ではないでしょうか」


 グレンの言葉は嘘である。 


 『肉体活性化』と『時間停止』の魔法。この2つは禁術とされる大魔法。


 希代の天才魔法使いであったルレロ・ギデオンだからこそ、無意識に最小の魔力で可能な奇跡の技である。


「あまり俺様を侮るなよ。この2つの魔力を別の魔法に使用できれば、新しい魔法の開発や研究に使えると思うのだ」


「まだ、魔法の開発研究をされたいのですか? 今の貴方は一介の魔法使いではなく、魔導王ルレロさまなのですよ」


「ぬぐぐぐ……お、俺様は魔法の国を作りたい。確かにそう願ったが、それは平和の世で、魔法の研究ができるように……なぜ、なぜ隠居させてくれぬ!」


「世継ぎがいませんので」


「ぐっは!」とルレロは、彼女の言葉に大ダメイージを受けた。


 魔導国ドラゴニアの建国。 戦乱の世の中を終わらせるため、数十年の戦いが必要不可欠だった。


 何十年の戦い。戦地に身を置き続けたため、建国の父であるルレロ・ギデオンは、女性との縁がなかった。


 正室も、側室も、本気で願えばハーレムだって可能だろう。


「しかし、どうもその手の話しは苦手である……」と断り続けた結果、ハーレムどころか婚期すら逃がして、100歳。


 部下たちからは「結婚しろ! 結婚しろ!」と圧を受けていた。


 しかも、長年の戦友であり、腹心であるグレン・ノヴァは――――


「全く……ルレロ様。もしルレロ様がお許し下されれば、すぐに宰相など引退して正室に……」 


 そうやって、誘惑をしてくる。


「それはともかく――――」とルレロは誤魔化した。


(グレンは魅力的な女性ではあるが、戦友としか思えない。だからと言って他の女性を向かえるには、彼女への不義になるではないか)


「俺様は、転生の儀式を行うことを決めた。これから死に、100年後に蘇るぞ!」


・・・


・・・・・・


・・・・・・・・・


『転生の儀式』


 今ある肉体を死に追いやり、魂と記憶を100年後に生まれる子供に受け継がされる。


 『肉体活性化』と『時間停止』の禁術と言われるものより、難易度が数段は高いと言われる大魔法だ。


「ですが、あっさりと成功させてしまうのでしょうね。我が王さまは」


「まだ、気に食わないのか、グレン?」


 ルレロとグレンは、転生儀式が行われる祭壇が作られているのは2人で眺めていた。


「えぇ、また100年。私は1人ぼっちになってしまいます」


「何を愚かな。俺様とお前の2人で作った魔導国ドラゴニア。これは、エルフであるお前を1人にしないため……そういう目的もあったと言ったではないか」


「あの時は、プロポーズだと思ったのですが……」と彼女は深いため息を漏らした。


「お、俺は……いや、俺様は……」


「もしも、私が100年間待ち続けていたら、その時は私を娶ってくれますか?」


「――――ッ!!!」


「ごめんなさい。困らせる気は――――」


「いや、嫁に向かえる。その時は、お前を戦友ではなく1人の女性として――――」


 そして、転生の儀式は執り行われた。

  

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