第4話
「それじゃ行くわよ!」
イザベルは木刀をルレロに向けていた。
とたとたと足音を立てて、駆け出してくる。 手に持った木刀も洗礼されておらず、適当に握っているように見えた。
しかし、次の瞬間――――
「消えた! これは右だ!」
ただのカン。飛んで来るであろう攻撃に備えて、防御の体勢に入ったルレロ。
その両腕に激しい衝撃が通る。
「――――ッ!(緩急をつけた動き。視線誘導。何度も繰り返されたフェイント。1つ1つは基本的な技だが、それが消えて見るほどに繰り返してくる!)」
「わぁ! ルレロすごい。それじゃこの手は?」
防御されたイザベルは、その場でクルリと回りながら――――
「回転斬りよ」
「むっ!」と構えるルレロ。イザベルの攻撃は大振りと言える。
再び防御に成功したのだったが……
(イザベルの攻撃は、ここから問題。果たして抑えきれるかどうかだ)
受けたルレロの体が浮き上がるような衝撃。 ――――いや、実際に浮き上がり、後方に吹き飛ばされていた。
「い、痛たたたたっ!」と背中を壁に痛打したルレロは、すぐに立ち上がることはできなかった。
「どう、ルレロ? 私の一撃は? 最強だったでしょ?」
「はい、まったくその通りで」と壁を寄りかかりながら、何とか立ち上がった。
(しかし、面白い。 基本の足捌きには対人用でありながら、攻撃は対魔物を想定している。攻撃は一撃一撃が極端に重く、通常の防御が通用しない。うむ……イザベルとの練習には防御の練習を――――いや、逆に回避を徹底するべきか?)
そんな考察が癖になっているルレロの様子。
それを怪我でもしたのかとイザベルが心配そうに駆け寄ってきた。
「ちょ、ちょっと、大丈夫なの? まさか私が怪我をさせたわけじゃないわよね?」
「いえいえ、怪我はしてませんよ。農業で鍛えた俺さ……いや、僕の体は頑丈だけが取り柄ですので」
「……それは嘘よ」
「え? 何がですか?」
「どうして、お父様に魔法が使えないなんて嘘をついたの?」
(それか……自分が自信満々に俺様を魔法使いと紹介したのに、当の本人が否定したのだ。まるで自分が嘘をついたように思われるのが気に入らない……と)
「まるで天井知らずの矜持ですね」
「はぁ? キョウジ? 誰よ、その男? そんな事よりも!」
「魔法ですね。良いですか? 僕は農奴の息子です。しかも、この国では魔法が秘密にされている」
「……つまり、あなたが魔法を使えるのは秘密にしなければいけないってこと?」
「はい、その通りです」
そう返事をしながら、初めてこの屋敷でイザベルの父親である領主との対面を思い出した。
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
「この国には、とある予言が隠されている」
「予言……ですか?」
「うむ、前世界で人々を地獄に突き落としたと言われる大魔王ルレロ。その転生体が100年後に、この地に現れるという予言だ」
「はい? 大魔王ルレロ……ですか?」
魔導王の間違いではないか? 何が、どうなっているのか?
(この国は、確かにドラゴニアのはず……ならば、この100年間で滅ぼされたという事か? あり得ん……我が精鋭どもが、他国に攻められて負けるなどと……)
「転生体と言われましても、俺さ……いや、僕には自覚がありません。 そもそも魔法だって、お嬢様の見間違いですよ」
「イザベルは、そなたの手から炎が打ち出されたと言っているが?」
「いえ、近くに魔物が――――粘獣が出現していたことに気づいたのだ。慌てて、火を起こしました。近くにあった棒の先端を火で燃やして、粘獣を叩いただけでした。それをイザベルさまは見間違えたのか、勘違いしたのか……」
「うむ……」と領主は唸る。 どうやらルレロの返答が気に入らないようだ。
(なんだ? これでは領主に取って都合が悪い事なのか? まるで俺様が魔導王ルレロ本人である方が都合が良いように……)
「ルレロとやら、いきなりであるが……イザベルと友達になってもらえぬか?」
「はい?」と驚いた。しかし、すぐに拒否権はないと気づく。
「い、いえ。光栄でございます」
(何を考えている、この領主は? 農奴の子供に対して自分の娘と友達になれと?)
領主は彼の困惑を感じ取ったらしい。こう付け加えた。
「週に1度……いや、2度ほど、屋敷に来て娘と遊んでほしい。その代わり、屋敷の地下にある書物庫から、好きなだけ本を借りれるように手配しよう」
「なんと……それは、大変にありがたい。農奴の身でありますが、便利な知識も得られます」
ルレロの顔は引きつっていた。
どういう理由なのか? この領主は、自分が魔導王ルレロの転生体だと確信しているようだった。
こうして、ルレロは週に2回。 イザベルの遊び相手になる事になった。
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