EP46【ジーク&ドラグニルは絶対的である】(前編)
はぁ……お袋の乱入のせいで作ってきた気持ちとか、試合前の程よい緊張感とか、そういうのが全部台無しだよ。けど切り替えろ。本番はここからなんだから────
『それでは、シロナ姫のサプライズもありましたが、入場して貰いましょう。魔女ネジ・アルナート&パグリス一の働き者! 〈S200・FD〉ことスパナ・ヘッドバーンです!』
そのコールに合わせて、俺とネジはリングに向けて走り出す!
沸くような歓声が俺たちを迎え入れ、撮影魔法(フォト・マジック)で焚いたフラッシュに目が眩みそうになるも、俺たちの視線はまっすぐにジーク&ドラグニルを見据えた。
「数日ぶりだね、チャレンジャー」
試合開始の前に主人は主人同士、魔導人形(ドール)は〈ドール〉同士で硬く握手を交わすのが通例なのだが、ジークは俺にまで手を差し伸べてきた。
「あぁ、そっちこそ本戦前に絶対王者の座を引きずり降ろされる覚悟はしてきたか、チャンピオン様よ」
俺は余裕な表情を取り繕いながらも、頭の中で再度エキシビション・マッチのルールを確認する。
二本先取のスリーラウンドで、制限時間はなし。勝敗判定はテンカウント制。禁断魔法は勿論、軍用魔法の使用は反則。武器の持ち込みについては重量制限があり、そのルールは本戦とほとんど変わっていなかったはずだ。
ちなみに俺は素手で、ジークのドラグニルは〈イージスの盾〉と取り回しに優れたブレードを握らせれている。
まぁ、確認すべき事項は大体こんなところだろう。
ジークの競技人形(ファイティング・ドール)はD500ex・FDことドラグニル。その名の通り、ドラゴを彷彿とさせる装飾が施された男性型の〈ドール〉だ。龍の頭部を模したフェイスマスクがその表情を覆い隠しいていることもあってその姿は、龍人系の魔族に近いものであった。
開始線に立って向き合おうとした時だ。ジークは俺を呼び止めた。
「スパナくん。ところで、その体はどうしたんだい? 両手足は新調しているようだが、それにしては胴体部にダメージが蓄積しすぎているように思えるぞ」
うげっ……。まぁ、ジークだって〈ドール〉の扱いや知見に関しては指折りのプロだ。俺のコンディションの悪さを見破られるとこまでは想定内だったが、ここまで詳細に見抜かれるとは。
ただ、今更それがどうしたってもんだよ。
「壊さないよう手加減してやってもいいんだがな」
「洒落臭ぇ。いらねぇよ、そんなもん」
手加減して貰って、勝ちを拾えたとしてもちっとも嬉しくなんてない。
「なら、君を壊してしまわない程度に全力を出させてもらおうか」
ジークに瞳の奥でギラギラとした闘争心が揺れたように思えた。果たして俺の身体
は、その程度の全力にも耐えることが出来るのだろうか?
「ははっ……やっぱ少しくらいお情けをくれたりは、」
そんなやりとりを交わした後に、改めて俺たちは構えた。
〈スパナ……分かってるわね〉
〈おう。事前の打ち合わせ通りだよな〉
試合開幕のタイミングはチャレンジャー側が任意で決められる。これはチャンピオンから俺たちに与えれたハンデであり、ドラグニルが盾で防御姿勢に移る前に先行できる唯一のタイミングでもある。
そのアドバンテージを踏まえた上で俺たちが選んだ作戦はこうだ。ネジの加速魔法(アクセル・マジック)+俺の暴発魔法(アウトバースト・マジック)の超加速で打撃をぶつける。
これでダウンを取って、まずは一ランドを奪い取らせてもらおうじゃないか !
「行くぜ! チャンピオン様ッ!」
「〈アクセル・マジック〉ッ!」
「+〈アウトバースト・マジック〉ッッ!!」
加速の勢いでコロシアムに敷かれた粉塵が巻き上げられる。
これもちょうどいい目眩しだ。俺は右足を突き出し、蹴りの姿勢へと移行した!
「オラッッァァァ!!」
火花が散るッッ! 試合開幕だ!!
「甘いな。反撃魔法(カウンター・マジック)ッ!」
俺の蹴りはドラグニルのブレードに受け止められた。並の相手なら反応できない速度の攻撃に加え砂埃の目眩しもあったというのにだ。
しかも、受け止めた刃に刻まれているのは〈カウンター・マジック〉の魔法陣。これは受けた負荷をそのまま相手に跳ね返す、保護魔法(プロテクター・マジック)の完全上位互換である。
〈スパナ! アウトバーストで打ち消して!〉
「わかってらァ!」
この間合いなら俺も爆発に巻き込まれるが、背に腹は代えられねぇ。
ジークの魔法陣に向けて魔力を充填。そのまま爆破してやる。
「……ッ! 思い切りが良い戦い方をするんだな!」
そりゃどうも。〈アウトバースト・マジック〉の真骨頂は、全ての魔法陣に魔力を流しこんで暴発させる点にこそある。だから、タイミングさえ合わせれば、どんな魔法も爆風によってキャンセルできるんだよ。
無論ノーリスクでもないし、俺に蓄積された魔力はごっそりと持っていかれるが、この際だ。出し惜しみもしてられねぇよな!
爆風に揉まれたドラグニルは未だ、盾を万全に構えられていなかった。なら作戦だって最初と変わらない。
〈ネジ! 合わせるぞ!〉
〈わかってる!〉
いち早く体勢を立て直した俺は、しっかりと踏ん張り利かせ、拳を突き出した。
狙いは腹のど真ん中だ。
「ぶっ飛べッッ!」
俺は拳に確かに手応えを覚える。
よし、このまま畳みかければ!
「なるほどな……確かに筋はいい。どこまでも真っ直ぐ突き抜ける二人だな。だが、君たちの本気はそんなものじゃないだろう!!」
直後、俺の右真横に魔法陣が展開される。
〈スパナ!! 気をつけて!!〉
大丈夫だ、問題ない。ジークの展開した魔法陣は、俺との距離は一センチにも満たなかったが、さっきみたく〈アウトバースト・マジック〉でキャンセルすれば、
「〈アウトバースト〉、」
「ふっ、ならば僕だって────暴発魔法(アクシデント・ガンディスチャージ・マジック)ッッ!!」
……は?
思考が追いつくより早く、俺の右腕が消し飛んだ。
バランスを崩した俺へと、容赦なくブレードの銀閃が振り下ろされる。
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